第20話:犯人を捕まえるために
完成した夕食を机の上に準備をしていた小春たちの耳に、何かが割れた音が玄関の外から聞こえた。
先程イリスがローゼリアに夕食を持って行ったはずだ。もしかしてローゼリアがイリスが持ってきた料理を「要らないわ!」と突っぱねたのだろうか。あり得る話だと慌てて外に出れば、イリスもローゼリアもそこにはいない。そして地面には、先程作ったばかりの夕食が散らばっていた。
「イリス?!ローゼリア?!」
「イリス…?イリス!どこ!返事して!」
「何が起きているの…?」
周囲を探す小春とルーク。シェリーは呆然としてふらついた体をアーノルドが支え、すぐに椅子へ座らせた。
小春の心臓が、ドクドクと嫌な音を立てる。
胸騒ぎがする。
二人の身に何か起きたのか、と考えて慌てて消そうとする。冷静なアーノルドはシェリーを休ませた後、小春とルークと共に周辺をくまなく探索したが、首を振った。
「草むらの裏に数人の足跡と馬の跡を見つけた。そこの森から馬車で通りに出たんだろう。二人は何者かに誘拐されたようだ」
「そんな!」
皆が呆然とする中、家の中から音がする。聞こえていたのだろう、座っていたシェリーが崩れ落ちた音だった。顔面を蒼白にして震える彼女に小春は走り寄り、背を撫でる。
「魔法の痕跡が見られた。相手を強制的に眠りにつかせる睡眠魔法と、目くらましの魔法だ。数名に聞き込みを行い、馬車の持ち主が分かった」
アーノルドの話に、シェリーが息を飲む。
「っ、もしかして…!」
「あぁ。ヘイス家の家紋が入った馬車だ」
誰だと疑問に思う小春に、シェリーは震えながらも教えてくれた。
「ヘイス家…。恐らく、二人を連れ去った人物は、ヘイス家子息、オグデン様です。…私の父が、私の婚約者にと決めたお方」
彼は、婚約の話が出る前から、夜会だけではなくシェリーの家にまで押しかけては熱烈なアピールをしていたらしい。何度断っても諦めることのない執念深さを見せたそうだ。
これだけなら良いが、シェリーにはどうしても許せないことがあるとのこと。
「私、偶然にも聞いてしまったのです。彼が、仲の良い方々と話しているところを」
ある夜会でのことだ。
「少し、夜風に当たってきます」
従者に告げてバルコニーに出たシェリーは、そこにオグデン・ヘイスが数人の貴族と共にいたため思わず物陰に隠れた。当時既に執拗な婚約を迫られていたため、見つかればまた追い回されてしまうと思ったからだ。
彼に見つかる前に、直ぐにその場を離れようとしたシェリーだったが、貴族の一人の言葉に動けなくなった。
「いや~それにしても、流石オグデン様!あの公爵家であるボールドリンのご令嬢と婚約なさるとは!」
「ですがかのご令嬢は、魔力・知力・武力、全てが妹君に劣ると聞きます。故にボールドリン家の当主には、妹君であるローゼリア嬢がなる。そんな噂が流れておりますよ」
良いのですか?と訪ねてくる貴族に、オグデンは笑った。
「ははは!そんなのは分かっている。私は考えているのだよ!まず妹君の劣化品である姉君を我が妻に。そしてボールドリン家との繋がりを強くし、後々妹君も頂くのだ!どうだ!完璧だろう?そして劣化品の姉君には、そうだなぁ…。配下の者たちの慰め相手にでもなってもらうとするか!まぁ、泣いて請うなら愛人、にしてやらんでもないがなぁ!」
「なんと素晴らしいお考えでしょうか!」と周りの言葉に更に酔い痴れるオグデン。
全身から血の気が引く中、シェリーは何とかその場から離れた。
「許せないのです…。私を馬鹿にするのはまだ許せるとしても、ローゼリアまで巻き込もうとするなんて…!そんな方に嫁ぐなど嫌だと、そう思っていたのですが。…結局父の決定に逆らうことができませんでした…」
シェリーと婚約したオグデンの真の狙いはローゼリア。ボールドリン公爵家を手に入れてしまおうということか。
「で、シェリーさんは用済みになったら捨てよう、と。うん、ぶっ飛ばす」
「コ、コハルさん!落ち着いて!」
家の外へ進みだした小春を止めたのはルークだ。ぎゅっと全身で小春の動きを封じようとするルークに、小春は意識を取り戻す。
「ごめん…。つい腹が立って…。それに、女の子がぶっ飛ばすなんて単語、使っちゃだめだよね」
落ち着くために一先ず深呼吸をして、小春はルークの頭を撫でた。
「じゃあ、犯人はオグデンのクソ…じゃなくて、オグデンということですね。そいつの家は知ってますか?」
「知ってます。ですが…」
乗り込んでも何もできない。
そこが問題だと小春は唸る。
ここにいるのは現在、異世界から転移してきた何も持っていない十五歳と、超絶おしゃべり大好きなイケメンと、キラキラの少年と、クソ野郎の所から逃げ出してきた貴族の女性。
乗り込んで二人を奪還することができるとは思えない。相手はなんせ貴族で、話を聞いた感じ下っ端が寄ってくるほどのお金を持っていると考えられる。
悩む小春に、超絶おしゃべり大好きなイケメンことアーノルドが手を挙げた。
「少し時間をくれないか。伝手があるんだ」
アーノルドはそう言うと、愛馬に乗ってどこかへと言ってしまった。残された小春たちは、とりあえず地面に落ちてしまった夕飯の残骸を片付けて、アーノルドが帰ってくるまで軽く夕飯を済ませておいた。
心配のあまり食事は喉をいつも通りには通ってくれなかったが、気力だけで持つわけない。何とか流し込んで食べた。
アーノルドが帰って来たのだが、小春たちは驚いた。
なんとそこには、十数人の青年たちがいたのだ。
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