僕の残念な未来
KUMATA
第1章 未来予測で人生無双! …と思いきやバグだらけでした
第1話 未来はカンニングできるのか?
「このままでは、人類の選択肢が《あれ》だけになります!」
AIがそう予測した。
……は?《あれ》って何?
てか選択肢って普通いっぱいあるもんだろ⁉
それが一個に収束するとか、どんな物理法則バグった未来だよ⁉
しかも、それを言ってるのが俺の作ったAI?
「未来の自由度、ゼロです(ドヤ)」 みたいな顔でほざいてるんだけど⁉
おいおい、ふざけんな。俺の人生、
いつから「どの回転寿司の皿を取っても全部たまご」みたいな世界になった⁉
……でも待て。落ち着け。
研究漬けで、友達よりエナジードリンクと会話してるし、寝たと思ったら論文の締切がワープしてくるし⁉
もはや俺の現実が、タイムリープもののホラーみたいになってんだけど⁉
それにしても……《あれ》だ。
俺はずっと《あれ》だけは避けようと必死だったのに、
気づけば俺の人生、それしか選択肢が残っていない。
……いやいやいや! そんなはずないだろ⁉
俺の人生が《あれ》に収束するなんて、そんなバカな話が——
これが「最適解」ってやつなのか⁉
こんなものが——こんなものが俺の運命を握ることになるなんて、ちょっと待てぇぇぇぇぇ‼!
【数カ月前】
「いや、無理じゃない?」
俺はパソコンの画面を見つめながら、独り言をつぶやいた。画面上には、まるで繁殖期を迎えた雑草のように際限なく増え続ける数式や、膨大すぎてどこから手をつけていいのか分からないデータの海、そして果てしなく流れ続ける意味不明な文字の羅列が広がっていた。いずれも、整理するどころか眺めているだけで頭が痛くなる代物だ。むしろ、これらは俺の脳内の混沌をそのまま可視化したようなものかもしれない。
俺の名前は佐々木翔太。某国立大学のAI研究室に所属している大学院生だ。周りからは「AIの天才」とか「技術オタク」とか呼ばれることもあるが、実態はただのオタク気質のプログラマーにすぎない。毎日論文の締め切りに追われては、深夜までプログラミングと格闘し、それでも足りない脳の回転をコーヒーとエナジードリンクの無茶ブーストで補っている。結果として、目の下には常にクマができ、生活リズムは崩壊寸前。一方でプライベートも壊滅的で、恋人どころかデートの予定すらない。
AIをなんとかする前に、自分の人生をなんとかしたほうがいいんじゃないか……と時折思わなくもない。
そんな俺が今取り組んでいるのは、「未来予測AI」の開発である。
きっかけは教授の何気ない一言だった。あの日、教授はいつもと変わらない無表情で、唐突にこう言ったのだ。
「佐々木くん、人間の行動を100%予測できるAIがあったら面白いと思わないかい?」
最初は「いや、それって倫理的にどこまでOKなんですか?」と警戒した。だが、その問いかけには奇妙な魅力があった。人間の過去の行動パターンや性格傾向、経済データ、SNSの投稿履歴など、あらゆる情報を学習させたAIが、先の未来を高精度に予測してしまう。そんなものが実現したら、どれだけすごいだろうか。少なくとも、常に何が起こるか分からず頭を悩ませる今の生活よりはマシになるはずだ。むしろ、《確定的に成功》という言葉が頭をよぎった瞬間、「これは人生を変える大チャンスかもしれない」と思い始めた。
こうして、俺の「人生チート計画」が始動したわけだ。いかにも怪しげな名前だが、要するに「AIの力で未来を先取りし、すべてを効率よく成功に導こう」という野心的なプロジェクトである。
研究室にこもること数カ月。コーヒーとエナジードリンクの空き缶が山のように積み上がり、生活のリズムがもはや昼夜逆転というレベルを超えている頃、俺はとうとう《それっぽい》ものを作り上げるに至った。
その名も——「未来見太郎(みらいみたろう)」。通称「見太郎」。
名前のセンスについてはツッコミ禁止だ。なぜなら名付けたのは俺自身であり、当時はこんなキャッチーなネーミングがウケると思ったのだが、今になって振り返ると壮絶にダサい気がする。それでも大事なのは機能だ。見太郎は、人間が生活のあらゆるところに残すデータを学習し、複雑なアルゴリズムで未来のシミュレーションを行うことができる。具体的には、俺の行動パターンや嗜好、各種の統計情報を組み合わせ、明日どこで何が起きるかを予測するのだ。
そこで、まずは試しに明日の予定を試しに聞いてみることにした。
「おい、見太郎。俺の明日、どうなる?」
30秒程で解析が終了した。ディスプレイに表示されたテキストは、こうだ。
『午前7時32分、寝坊。午前8時15分、大学へ向かうが途中で自転車のチェーンが外れる。午前8時35分、講義に遅刻。教授に怒られる。午後12時20分、学食でカツカレーを食べようとするが売り切れ。午後15時50分、研究室でプログラムのバグに絶望。午後19時、帰宅途中で突然のスコールに見舞われる。午後21時、アニメを見て現実逃避。』
「……やめてくれ。もう心が折れそうだ。」
画面を眺めながら思わずため息をつく。確かに、それは俺の《いつも通りの冴えない一日》を完璧に再現しているように見える。しかし、ここで俺はふとあるアイデアを思いついた。
「もし、事前に予測を知って、それを回避すればどうなる?」
想定外のアクシデントが起こるとしても、事前に対策を立てておけば回避できるんじゃないか? 寝坊が嫌なら早めに寝て目覚ましを増やせばいいし、自転車のチェーンは事前にオイルを差して点検すればいい。カツカレーは人気メニューだから開店直後に行けば買える可能性が高いし、天気予報をちゃんと確認すれば傘を持っていける。つまり、未来を知ることで未来を変えられるはずだ!
翌朝、俺は6時に目覚ましをセットして早起きを実行。さらに自転車を入念に点検し、チェーンのたるみを修正。おまけに学食のカツカレーを手に入れるため、昼休みにダッシュで向かう算段をつけた。ついでに突然の雨対策に折りたたみ傘もかばんに入れておく。完璧だ。これなら、見太郎の予測していた《悲劇》はことごとく回避できるだろう。
しかし、その結果は意外なもので、見太郎の予言は確かに外れた部分があるものの、それを上回るかのように新たな不運が襲ってきたのだ。
『午前7時32分、寝坊は回避。午前8時15分、順調に大学へ向かう。午前8時25分、謎の自転車渋滞に巻き込まれ、結局遅刻。午前12時20分、カツカレーは売り切れではなく、まさかの厨房機材トラブルで提供不可。午後15時50分、プログラムのバグは解消されるが、今度はPCがフリーズ。午後19時、帰宅途中で雨は降らなかったが、代わりに知らない犬に吠えられる。午後21時、アニメを見て現実逃避。』
「なんでやねん! っていうか、犬どっから出てきた⁉」
思わず机を叩きながら叫んでしまった。確かに、寝坊とチェーン外れは回避できた。しかし、その穴を埋めるかのごとく謎の渋滞が発生し、カツカレーも別の理由で食べられず、雨は降らない代わりに犬に吠えられるとか……。本来ならトラブルが減るはずなのに、なぜか《別の不運》が発生してしまう。まるで運命がこちらの努力を嘲笑っているようにも感じる。
「……なるほど。未来予測AIは万能じゃないってことか。」
この一日を経て、俺はひとつ学んだ。未来が確定しているわけではなく、予測を知って行動を変えれば結果は変わる。だが、変わった先に待っているのが常に《より良い結果》とは限らないのだ。運命の因果というか……なんというか……
とにかく、一筋縄ではいかない。
しかし、この程度で諦める俺ではない。
「よし、次は宝くじの番号を予測させよう。これで大金を手に入れて、一気に人生逆転してやるんだ……!」
こうして、俺の「未来改変実験」はさらに混沌を極めることになる。見太郎がどこまで未来を見通せるのか、そして俺がその予測をどこまで逆手に取れるのか。試行錯誤の先には、想像もつかない未知の展開が待ち受けているのだろう。今はまだ、そんな予感だけが胸を高鳴らせる。
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