【中編】インド風とか韓国風、イタリア風は思い付くけどアメリカ風とか英国風たこ焼きって……

そうこうしているうちに、お昼が近づいてきた。


「そろそろお昼にしよっか」


篠宮がそう提案し、四人はモールのフードコートへと向かうことにした。


しかし――


「……え、思ったより店、少なくない?」


玲奈が呆然とした声を漏らす。


「リニューアルしたって聞いたけど、フードコートはそんなに拡張されてないのかもな」


一ノ瀬が淡々と言う。


「うーん……定番のバーガー系以外だと、ラーメンにカレー屋さん、あとクレープくらい?」


篠宮が指を折りながら数える。


「定番のピザとかうどん屋さんとかドーナツとかコーヒーチェーンも無いんだ」


「でも、たこ焼きがあるな」


切嶋が店鋪を眺めながら言った。


「どうする?

なんか中途半端に食べるより、たこ焼きを何種類か買ってシェアするのが無難かも」


「いいね、それ!

みんなで食べるの楽しそう!」


篠宮の言葉に、結局四人とも賛成することになった。


「じゃあ、篠宮とたこ焼き買ってくるから、席取りと水は頼んだ」


一ノ瀬がそう言うと、玲奈がすかさず口を挟んだ。


「ちょっと待ってよ。なんで私が席取り側なの?」


「じゃあ、一緒に買いに行くか?」


「いや、それはそれで……」


玲奈が言い淀んでいると、切嶋は一瞬考えた。


一ノ瀬と篠宮は、さっきから妙にいい雰囲気だ。

二人で楽しそうに話している様子を見せつけられた後で、「じゃあ藤崎、お前は一ノ瀬と買いに行けよ」と言うのも、なんか気に食わない。


(二人にこだわらなきゃ、別に俺が一人で席取りしてもいいし、一ノ瀬が一人で買ってくるって選択肢もあるけど……でも、それじゃ何か違うんだよな

っていうか……あいつ、さっきまで一ノ瀬とベタベタしてたくせに、急に戸惑ってるし)


切嶋は玲奈の表情をちらりと見やる。玲奈は言葉を詰まらせ、視線を泳がせていた。


(……なんだよ、結局アイツも気にしてんじゃねぇか)


玲奈が今、一ノ瀬と二人で行くことを躊躇っているのは明らかだった。

なら――


「じゃあ俺と藤崎で行けばいいだろ」


切嶋は、特に気にしていない風を装いながら、さらっと言った。


「たこ焼き、二人で買いに行ってくるから、そっちは席確保と水頼む」


「えっ、ちょっ……なんで私があんたと!?」


「だったら一ノ瀬と行くか?」


「うっ……」


玲奈は一ノ瀬をちらっと見た。だが、すぐに視線を逸らす。


(いや、別に一ノ瀬くんと二人で買いに行くのが嫌なわけじゃないけど……

むしろ、普通ならチャンスじゃん。

でも、さっきまで篠宮さんとあんなに楽しそうに話してたのに、いきなり私が二人きりで行こうとするのも……なんか……)


玲奈は自分でもよくわからないモヤモヤを抱えながら、口を開いた。


「……仕方ないわね。切嶋と行ってあげるわよ!」


「いや、お前が選んだわけじゃなくて、もう決定事項なんだけどな。

あ、種類は適当に定番で良いよな?」


「何よその言い方! ほら、さっさと行くわよ!」


「じゃ、種類は委せるから5皿くらいかってきてね」

こうして、一ノ瀬の声に送られて、なぜか切嶋と玲奈がたこ焼きを買いに行くことになった。


「お前ってほんと、面倒くせぇよな」


「はぁ!? どの口が言うのよ!」


「いやいや、はいはい、ツンデレ乙」


「ツンデレが言うな!

このツンデレ!」


「は!? お前が言うな!」


言い合いながらも、二人はたこ焼きの店へと向かっていった。




フードコートのたこ焼き屋のカウンターに並びながら、切嶋と玲奈はそれぞれの思い人について語り始めていた。


「ていうかさ、一ノ瀬くんって本当に完璧よね!」


玲奈が腕を組みながら言う。


「ルックスもスタイルも抜群だし、勉強も運動もできるし、それでいてあの落ち着いた雰囲気!

そりゃあモテるわけよ!」


「は? いやいや、篠宮だって負けてねぇし」


切嶋も負けじと言い返す。


「天然でおっとりしてるくせに、気遣いできるし、誰にでも優しいし。そういうとこが男子にウケるんだよ。顔も可愛いし、そりゃあ人気出るに決まってるだろ」


「いやいや、やっぱり一ノ瀬くんの安定感がすごいのよ!

どんなときも動じないし、適当に流してるように見えて、実はちゃんと周りを見てるし!」


「篠宮だってそうだよ。ああ見えて、結構人をちゃんと見てるし、いざってときには芯が強いし」


たこ焼きの列に並びながら、お互いに熱くなって自分の思い人の良さを語り合う二人。しかし、話しているうちに、いつの間にか流れが変わり始めた。


「でもさ、篠宮さんって結構しっかり者じゃない?」


玲奈がふと口にする。


「え?」


切嶋が怪訝そうな顔をすると、玲奈は続けた。


「だって、ほら。今日だって、あんたがしつこくアプローチしてたのに、うまくかわしつつ場を和ませてたじゃない?」


「……まぁ、それは認めるけど」


「それに、誰に対しても公平っていうか、あんまり相手で態度変えたりしないじゃない? それって結構すごいことだと思うわよ」


「……まあな」


切嶋はなんとなく頷く。玲奈の言うことは、意外と的を射ていた。篠宮のそういうところに惹かれたのは、確かに事実だった。


「藤崎だって、一ノ瀬のこと大好きなわりに、妙に冷静じゃねぇか」


今度は切嶋が言う番だった。


「は? どういう意味よ?」


「いや、さっきからお前、一ノ瀬のこと褒めまくってるけど、どっちかっていうと『すごい人』って感じで語ってるよな」


「……そ、それがどうしたのよ!」


「別に。ただ、そんだけ冷静に分析できてるのに、なんで一ノ瀬はお前のこと全然見てねぇんだろうなって思っただけ」


「っ……!」


玲奈が言葉に詰まる。


「それは……あいつが鈍感なだけよ!」


「鈍感、ねぇ……」


切嶋は苦笑しながら言った。


「だったら篠宮だって鈍感だぜ。俺がどれだけアプローチしてると思ってんだ?」


「いや、あんたのは正直ちょっとしつこいわよ」


「ぐっ……余計なお世話だ」


「でも、ほんと不思議よね」


玲奈がふと遠くを見つめるように呟いた。


「篠宮さんも、あんたのことそれなりに気にかけてると思うのに……なんで気づかないのかしら」


「一ノ瀬だってそうだろ。お前、結構周り見てるし、意外と面倒見いいし……なんであいつ、お前のそういうとこ見てねぇんだ?」


「ほんと、何なのかしらね……」


二人はほぼ同時に深いため息をついた。


「……ていうかさ、あの二人、普通に美男美女カップルって感じじゃね?

乙女ゲームの主人公カップルって感じで」


「確かに、恋愛ゲームのトゥルールートって感じのカップルだけど……

だとすると、お前はさしずめ悪役令嬢ってところか?

流石に断罪って事は無いだろうけど」


「それを言うなら、あんたは当て馬にされて振られるライバルキャラってとこかしら?」


「おい、それ言うなよ……

メガンテだぞ……」


「でも、事実でしょ……

お互いに……」


どちらも言葉に詰まり、また同時にため息をつく。


――ちょうどそのタイミングで、カウンターの奥から声がかかった。


「お待たせしましたー! たこ焼き五皿、出来上がりました!」


「「……あ、はい」」


二人は妙に力の抜けた返事をしながら、出来立てのたこ焼きを受け取った。




フードコートのテーブルには、出来立てのたこ焼きが五皿並んでいた。

湯気を立てる丸い生地の上に、ソースとマヨネーズが絡み、香ばしい香りが漂う。


「……なんか、妙に静かね」


玲奈が、たこ焼きを箸でつつきながら言った。


「まぁな」


切嶋も、やる気のない声で返す。


その視線の先――

一ノ瀬と篠宮が、向かい側で何やら楽しげに話していた。


「え? 一ノ瀬くん、紅ショウガ苦手なの?」


「ん、まぁな。食えないわけじゃないけど、そんなに好きじゃない」


「じゃあ、このたこ焼きの紅ショウガ、私がもらおうかな?」


「お、助かる」


そう言って、一ノ瀬は篠宮の皿に自分のたこ焼きを一つ移し、篠宮は嬉しそうに微笑んでいる。


(……なんだろう、この敗北感)


――やれやれ、またいい感じになってやがる。


切嶋と玲奈はほぼ同時にため息をついた。


それを見た篠宮が、ふと微笑みながら言う。


「ねえ、ため息つくと幸せが逃げるって言うよ?」


それを聞いた玲奈が、小さく鼻を鳴らしながら言った。


「大丈夫。きっと身近に幸せはあるはずだから」


「おう、そうだな」


切嶋も同意しつつ、二人してもう一度深々とため息をついた。


篠宮と一ノ瀬は顔を見合わせ、クスクスと笑う。


「なんか、お前ら息ぴったりだな」


「そ、そう?」


玲奈が若干むっとしながら、たこ焼きをもう一つ口に放り込む。


「それにしても、ソース味と塩味って、結構違うわね」


「まぁな。俺はやっぱり定番のソースが一番だな」


そんな二人の対面では、篠宮と一ノ瀬が、新しいたこ焼きを頰張っている。


「え? 一ノ瀬くん、だししょうゆ味のたこ焼き好きなの?」


「うん、ソースもいいけど、こっちの方が出汁の風味がしっかりしてるし、さっぱりしてて食べやすいんだよな」


「わかる! だしの旨味がちゃんと感じられるし、カツオとか昆布の香りがすごくいいよね!」


「そうそう。で、そこにちょっとワサビつけると最高」


「え~、それおいしそう! 今度試してみるね♪」


それを見ながら玲奈が、軽く話を振ってくる。


「私は塩も好きかも。アオサがいい感じで風味を引き立ててるし」


「へぇ……っていうか、お前さ」


切嶋は、玲奈の顔をちらりと見て、思わず吹き出しそうになった。


「な、なによ?」


「いや、お前、ほっぺにアオサついてるんだけど」


「えっ!? ど、どこ!?」


玲奈は慌てて頬をぺたぺた触るが、全然拭えていない。


「ちょ、バカ、そこじゃねぇって」


「え、えぇ!? どこよ!?」


見当違いな場所ばかり触る玲奈に、切嶋はため息をつきながらポケットからハンカチを取り出した。


「ったく……じっとしてろ」


「へっ?」


玲奈が戸惑う間もなく、切嶋はハンカチで彼女の頬をぬぐった。


「あ、あんた何して……!」


「拭いてやってんだろ。お前、鏡も見ずに探してたら一生取れねぇぞ」


「ぐっ……! だ、だからっていきなり触らないでよ!」


玲奈は切嶋を睨みつけるが、頬がじわりと赤くなっているのがわかる。


「ちょ、ちょっと……! もうっ、バカッ!!」


思いきり罵倒するつもりだったのに、どうにも迫力が足りない。

むしろ、照れくささがにじみ出てしまっているのが自分でもわかる。


「はぁ? 何がバカだよ。お前がドジなだけだろ」


「うるさい! そういうことじゃないの!」


「別に減るもんじゃねぇだろ」


「減るわよ! 乙女心ってものが!」


玲奈がぷいっとそっぽを向く。


そんなやり取りをしていると、不意にクスクスと笑う声が聞こえた。


「……なんだか、仲いいね」


ふと顔を上げると、一ノ瀬と篠宮が揃ってこちらを見ていた。


「はぁ!? 何言ってんのよ!」


「おい、ふざけんな!」


二人は息ぴったりに声を揃えて否定した。


その様子を見て、一ノ瀬と篠宮はさらに笑い出す。


「ふふっ、ほんと息ぴったりだね」


「やっぱり仲いいだろ、お前ら」


「絶対違う!!」


玲奈と切嶋は同時に叫び、またもや篠宮と一ノ瀬は楽しそうに笑いながら言った。


「はいはい、ツンデレ乙」


「ツンデレ言うな!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る