第38話 忘れていた依頼2

 「どうしたの?そんなに息を荒げて」


 ちょっと恥ずかしいので誤魔化した。


 「何でもない、ところで俺氏の依頼。どうなった?」

 「……アナタ、本当に“クズ”になるの?」


 その一言に閉口してしまった。麻居氏はこう言っている。「ジョックに戻りたくないの?」と。……分からない。完璧超人。つまりはジョックだった昔の俺氏。


 「“クズ”ノートを見てみましょう」


 “クズ”ノート。何でこんな物を書いた?みすみすターゲットになりたかったのか。俺氏の苦悩が感じ取れてしまったのか麻居氏は一息つける。


 「いいのよ、“クズ”なんて。ならない方が人の為だわ。でも依頼ね。大切にするわ」

 「マイマイはいいのか?」


 俺氏は下を向いたまま言う。


 「私はアナタに助けられたの。だから助け返すわ」

 「麻居氏はクイーンビーになれる。なぜ……」


 息が詰まる。


 「何だか沈んでしまったわね。恋吉さん。悩むのは悪い事ではないわ。つまりはね。そのノートに書いてあるのよ」


 『クズの事が分かる人は稀だからクズは貴いのだ。そう言うわけでクズは粗末に見えても、しかし懐には宝玉を抱いているのだ』


 その一文をマイマイは古い黒板に書く。


 「“クズ”は珍しい。と言う事ね」

 「矛盾してるな。ターゲットは多くいる」

 「そうね。バットボーイやバットガールとは違うもの。間違いなく“クズ”はターゲットだわ」

 「何でそんなものになりたかったんだよ」

 「裏を返せばよ。恋吉さん。ターゲットは自由なの。取り巻きのサイドキックスなんかにならなくていいのよ。勉強も部活、恋愛なんて事も頑張らなくてもいい。好きなときに好きなだけ遊べるの。ジョックなんて部活のエースしてるけど、その分責任も出てくるわ。ちやほやされるのは勝ってる間だけよ」


 確かに“クズ”ノートには「自由になりたい」と書かれてある。でもな。


 「でもそれじゃ、学校楽しくないでしょう?」

 「そうね。どうしましょうかしら」



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