　「おーっス、恋吉」

　ザワっと教室の空気が変わる。やはり悪手だ。いつ気付かれたのか。

　「事故って記憶無いんだってな」

　何でそんな事知っているんだ？事故の事は新聞で知れても記憶喪失の事は知らないはずだが……。そいつは制服の上にアロハシャツを着ていてサングラスを掛けていた。チャラチャラしているチャラ男だ。

　「土居敏成(どい　としなり)って言うっしょ。ヨロシクっしょ。で、こっちが水海くるみ(みみ　くるみ)でコイツが火脇勝也(かわき　かつや)。恋吉は俺達と一緒だ。楽しくやろうっしょ？」

　オーマイゴット！おぉ神よ。なぜ主はこのチャラ男と出会わせたのですか。もっと他にいたでしょうに。厳しいジャッジメントが下った所でここは一つ、チャラ男だけにチャラけてみよう。

　「何だ土居氏。ヘブライ語でもしゃべっているのか？」

　「へ、ヘブライ語！？ウケるっしょ！」

　土居氏は一人で爆笑している。やはりチャラい。ノリが軽いからすぐにのってくれる。俺氏は逡巡する。この状況、以外に危うい。見られていない様でクラスの注目を集めている。あ〜は〜ん。なんでぇ〜。俺氏が内面で葛藤していても土居氏はヒーヒーと引き笑いだ。この男子ちょっと面白い。そう思ってしまった。……もう少しふざけてみよう。

　「土居氏ってカーネルサンダースに似てるよね」

　「えっ？誰それ。超ウケるっしょ！」

　ひたすらにウケる土居氏。笑い上戸だな。あれ？ちょっと楽しい。やっぱり冗談を言ってウケてもらうと言いがいがあるんだね。でも“クズ”ではないしな。どうなんだろう。俺氏が一人で苦悶しているともう一人やって来た。