いのっちクエスト

残念パパいのっち

第1話 プロローグ

三年ぶりに踏み入れたザンピー王国──そこは、もはや私の知る王国ではなかった。


メインストリートを囲んでいた賑やかな商店街は軒並み閉じられ、建物には破壊の痕跡が残る。

道端には人が倒れ、路地裏にはストリートチルドレンが怯えながら身を潜め、ならず者たちが跋扈ばっこしている。


そして今、そのならず者の一団が私の前に立ちはだかった。


「命が惜しければ、腰から下げている剣に鎧、金……あるもの全部置いていきな。下着だけは許してやる」


「……下着はいらないが、肌着は欲しいのか? 気色悪い奴だな」


「てめっ……!」


チンピラがまばたいた──その刹那、俺は刀を抜き、喉仏を一閃する。動揺する取り巻きどもを次々に斬り伏せ、

薄紫色に染まる刀が鈍く光った。刃文がじわりと深い紫に染まっていく。


間合いの外から呪文を詠唱する声が聞こえる。魔法使いの杖の先から赤く燃える火球が放たれ、一直線にこちらへ飛んできた。


(虚実のない攻撃か……素人め)


火球は直撃すれば致命傷になるが、当たらなければ意味はない。

私は右手の甲で火球をいなし、軌道を逸らすと、後方にいたチンピラに直撃した。


仲間が業火に焼かれるのを見て、ようやく奴らは相手が悪いことに気づいたらしい。

ほとんどの者が背を向けて逃げようとする中、魔法使いだけは呪文の詠唱を続けている。


(詠唱が終わるまで待つと思っているのか?)


倒れたチンピラから素早くナイフを拾い上げ、一直線に投げる。ナイフは魔法使いの胸深く突き刺さり、その場に崩れ落ちた。


「ひぃっ……に、逃げろ!」


ムラムラと湧き上がる人斬りの衝動を抑えるため、妖刀叢雲を急いで納刀した。


「ふうっ……」


三年前、このメインストリートは活気に満ちていた。だが、今は瓦礫と死臭、そしてならず者が跋扈する無残な姿だ。


何がここまで王国を変えてしまったのか。

考えながら歩くうちに、ふと自分の手が震えていることに気づく。


(常闇のダンジョンでは、敵を前にこんなことはなかった……)


ザンピー王国の悲願、ダンジョンマスター討伐。その最中に、なぜ私だけが呼び戻されたのだろう。


年齢は40を超え、筋力は衰え、左目は光を失い、もはや荷物持ち要員としてしがみついているだけの中年だ。

普通に考えれば除名クビか。


(そろそろ潮時かもしれないな……かつては名を馳せたレベル10の特級冒険者だったんだが)


そう自嘲しながら歩くうちに、気づけば王城に到着していた。門の前で衛兵に止められるまで、どこにいるのかも理解できていなかった。


ため息を噛み殺し、顔を引き締め、心を整える。覚悟はできている。


だが、謁見の間のザンピー王は予想外の話を始めた。


「久しいな、プレ・イヤー。爽健か?」


素早く身を引き、頭を下げる。


「爽健とは言い難いですが、幸い生きて戻りました」


チラリと見たザンピー王は少しやつれているように見えた。長い口髭を左手でさする仕草も、浮き出た血管が物語る通り力ないものだ。


「プレ・イヤーよ、久方ぶりに王都に帰ってきてどう思った?」


「え……いや、あの……相変わらず賑やかな、その……」


「つまらぬ世辞はいらん。率直に述べよ」


「……通りは荒れ、華やかだった街並みは見る影も……ございません」


「そうだな。だからこそ、お前を呼んだのだ」


「はぁ、と申しますと?」


「王都の北端に塔があるのは知っているな?」


「確か、太古より存在する入口のない不思議な建造物……と認識しております」


「そうだ」


王は玉座から立ち上がり、俺の正面まで歩いてきた。

俯いたまま、近づいてくる足元を見つめる。


王は肩に手を置き、低く語りかけた。


「今は入口がある。中にも入れる」


「えっ?」


思わず顔を上げる。子どもの頃よく遊んだ塔だ。四角錐しかくすいを逆さまにしたような巨大な建造物で、窓や入口らしきものが全くない。


外壁は黒く、光沢があり、表面はガラスのようにスベスベとし、触ると少し暖かい。


そして、大金槌で殴ろうが、魔法で爆破しようが、傷一つつかない不思議な素材でできている。


摩訶不思議な古代遺跡だが、隣に湖があり、景観も良いので王都の観光名所としても有名だ。


それが今、中に入れる?


「プレ・イヤーに命ずる。あの塔に籠城しておる悪しき魔道士いのっちを打ち倒し、七色のマタタビを取り返せ!」


「はっ、仰せのままに!」

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