3人でスーパー銭湯に行く! 2
まず絶対に必要という米櫃を買ったあと、食料品を買う。一番長居をしたのは輸入食品を扱う店で、私が見たことがない香辛料やソースを買い込んでいた。
「これらも生活を豊かにする投資ですね」
「少なくとも僕はそう思っている。毎日食べるなら、工夫して楽しむべきだよ」
それはその通りで、工夫して楽しむというのは食事だけでなく、人生の総てにおいて言えることだと思う。私自身、ただ暮らしていけるからと日々を過ごすのではなく、どうすれば豊かな心持ちでいられるようになるのかと考えてしまった。
「たのしいことはせけんにはいっぱいある」
「そりゃ桃華ちゃんの歳ならそうだよう」
私は桃華ちゃんの表情を伺う。本当に心からそう言っているのか、母親と離れて寂しく思っていないか心配になってしまった。しかし彼女の表情からはなにも伺い知ることはできない。間違いなく満面の笑みだ。本心ならいいんだ。本心なら。
一度、駐車場まで戻って荷物を車に置いた後、今度はスーパー銭湯に向かう。その途中、ショーウインドウに映るセンパイと桃華ちゃんと私は、家族に見える。私でなくたって、3人で並んで歩いているところを見たら、年代的に親子にしか見えないに違いない。でも、現実はそうではないし、かつ、そうでなくても別に私が楽しければ、もちろん桃華ちゃんが良ければ、それでいいと思う自分がいる。私たちはまだ始まったばかりの関係だ。考える時間はいっぱいある。今はそれだけでいい。
他のスーパー銭湯に行ったことは何度かあるが、このスーパー銭湯に来たのは初めてだ。だいたい造りは一緒。入り口入って下駄箱があってカウンターがあって、食堂と休憩所があり、男湯と女湯だけ別。ここのスーパー銭湯は午後11時までやっているようだが、まだお昼前だというのに割と人が入っていてびっくりした。
「じゃあ桃華ちゃん、お姉さんと一緒に行こうか」
「お姉さんというにはちょっと……」
センパイが苦笑いする。
「自分でも分かってますけどしっくりくる呼び方がないんです。自分を真由美ちゃん呼びするのも痛いし、間違ってもオバさんとは言いたくないし」
「桃華がおねえさんってよぶからいいの」
「そうかそうか!」
彼女の心強い言葉を胸に、私は桃華ちゃんと一緒に女湯ののれんをくぐる。
「じゃあ休憩所で待ってるから」
心配そうなセンパイを余所に、私たちは脱衣所に入った。
脱衣所に入ってすぐは洗面台エリアで、ロッカーが並ぶエリアが続く。
「マユミちゃん、ロッカー、コインしきだよ」
なんだ。よく知っているじゃないか。何度かお父さんと一緒に入っているのか。
「うん。ロッカーはたぶん。3種類。入り口のカウンターで貰える鍵で開くタイプ。これ、ロッカー番号を見て、そのロッカーしか開かないからね」
「うん」
「そしてこのコイン式。100円玉を入れると鍵が抜けるから、100円は持って入らないといけない。お父さんに100円玉を用意して貰うか、カウンターで聞いておくこと」
「うん」
「そして普通の銭湯はただ鍵を抜くだけ」
「うん」
「覚えられる?」
「なんとなく。でも、いりぐちでカギをもらうしきのけいけんはない」
「そうか。経験ないか。でも大丈夫。桃香ちゃんが慣れるまでお姉さんが何度でも一緒に入るから」
「ホント?」
「ホントホント。お父さんがいいって言ったらね」
「父上がことわるはずがない」
桃華ちゃんはニヤリと笑い、せっせと服を脱ぎ始める。そして丁寧に畳んで空いているロッカーの中に入れていく。よく躾けられているな。
私も遅れまいと脱いでいく。自慢ではないが、まだ見られる身体をしていると思う。なにせ日々、主に食事だが、気を遣っているのだ。
桃華ちゃんはすぐに脱ぎ終わり、タオルを手に私を待つ。同性で子どもとはいえ、前は隠して欲しいと思うが、口にはしない。まだそれは彼女にとって細かいことだと考えるからだ。そのうちでいい。
私も脱ぎ終わり、100円玉をそれぞれのロッカーのキーユニットに投入し、カギを抜く。そして桃華ちゃんに手渡す。私は自分のカギを付属のゴムで手首につける。
「これはゴムだからいいけど、腕時計みたいになっているのもあるからね。おうちで練習しておこうね」
「それははつみみー」
桃華ちゃんは私を真似て手首にカギのゴムを通す。
ここで桃華ちゃんには待っていて貰う。私は化粧を落とす作業がある。風呂に入るのが分かっていたので、軽くしかしていないが、やはりそれでもきっちり落とす。落とし終わって、待っていて貰った桃華ちゃんにいう。
「ごめん、待たせた。さあ、出発だ!」
「しゅっぱつ~」
ふふ。楽しい。
最初にかけ湯をして、その後、身体を洗うコーナーに。桃華ちゃんは栓を押して水とお湯を出すタイプが初めてだったらしく、学習していた。温度調節は知っていた。
「たまにすごく熱かったり、冷たかったりしていることがあるから、かならずカランに入れて確かめるんだよ」
「それはじゅうよう」
隣り合って座って身体を洗い、頭を洗うときシャワーがお隣にかからないよう注意することを教える。そして洗い終えたら周辺と椅子をシャワーで流して、きれいにする。ここまでがワンセット。
「べんきょうになるー」
「そうかそうか」
センパイはどうしていたんだろう。ここまでやらないとマナー違反だろう。
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