第35話 クランマスター

 4人でクランマスターの部屋に向かう。


 クランマスター、つまりクラマスは文字通りクランの長だ。そしてこのクランを設立した張本人でもある。


 クラマスとは入団する時に話したっきりだから結構久しぶりだ。


 ハウスの中だから距離も近く、すぐに目的の部屋に辿り着いた。


 コンコン


「入れ」

「邪魔をする」


 ガチャ


 部屋の中には一つの執務机があり、そこに1人の男が腰掛けている。


 そしてそのそばに1人の女性が立っていた。


「おうレイア! 帰ったか!」

「息災でしたか? レイアさん」


 クランマスターの『ジェラルド』とその娘である『サラ』だ。


 クラマスはムキムキの偉丈夫。ツンツンした青色の髪に大袈裟とも言える派手なマントを身につけている。


 一目でなんか偉そうと分かる装いだ。


 サラは娘でありながら秘書としてクラマスのことを支えている。


 ピチッとした髪に眼鏡をかけた、妙にムチムチな格好をした秘書だ。目に毒とも言えるグラマラスな体。露出は多くないので痴女とは言えないが男の目線は確実に引き寄せるだろう。


 ただサラの性格は真面目そのもの。加えて戦闘の実力も高いから襲われる心配もない。




 なにしろこのクランに5人しかいないAランク冒険者の1人だからな。




「今帰ったぞ。ジェラルド、サラ、2人共変わりないか?」

「おお。元気すぎて困るくらいだ」

「嘘つかないでください。最近も例の件で凹んでたばかりじゃないですか」

「そ、それを言うなよ……」


 一瞬で上下関係が分かる一幕。嫁の尻に敷かれている夫みたいな関係だな。


 そしてクラマスはリンカ先輩とゴードンの方を向いた。


「リンカ、ゴードン、悪かったな。アービル伯爵の裏に気付けなくて」

「しょうがないよ。そもそも事前に分かりっこなかったんだから」

「いや、あいつの冒険者嫌いや薄暗い噂を考えればもっと慎重になるべきだった。お前らに甘えてしまった結果だ。悪かった」


 クラマスは机に座りながら頭を下げて謝罪する。


「頭あげてよ。それこそしょうがないって。リスクを冒さなければ得るものも得られないよ」

「いやでももっと――いてっ! いててててっ!」

「父さん? もういいって言ってるじゃないですか? 逆にリンカさんに失礼ですよ」

「わ、わかったから離せ! 頭ぐりぐりするな!」


 サラが手を離すとクラマスはふぅ、と落ち着いたように息を吐いた。


 その次にクラマスは俺の方を見る。


「それとフレイ、だったな? お前も巻き込んでしまったな。申し訳ない」

「俺も気にしていない。冒険者だからな。そういうこともある」

「ああ……だがそれでも――いたい! だからやめろサラ!」

「いい加減にしてください。いつまで謝ってるつもりですか」


 サラはまたクラマスの頭をぐりぐりしている。


 本当に尻に敷かれてやがる……娘に。


「全く……あなたはクランマスターなのだから、もっとどっしり構えておいてくれないと」

「それは無理な相談だぜ。どうしても気になっちまうんだから」

「本当にもう……」


 サラはクラマスにほとほと呆れているようだ。


「それはそうと、みなさん無事で何よりです」

「ラッキーだったね。あの人が来てくれなかったら正直危なかった」

「例の黒装束の男ですね」


 場が一気に真剣な雰囲気になる。


 それ俺のことだからな……俺としてはどうでもいいんだけど。


「正体不明の人物。急にアービル伯爵の作り出した空間に乱入し、速やかに伯爵を倒してしまったのでしたよね。今の所敵意は見られないとのことですが、警戒しておくことに越したことはありません」

「ああ。こちらでも少し正体を探ってみる」


 うわー思ったより危険視されてるじゃん。


 めんどくさいなぁ。


「いざとなった時は私を呼べ。即座に切り伏せてみせよう」

「頼もしいな、レイア」


 レイアも何故か張り切っている。なんでだよほっといてくれよ。


 まぁバレはしないだろうけど。






 俺、というか変装した俺の話もそこそこに、クラマスは気を取り直したように本題に入り始めた。


「それでな。レイアとリンカ、明日からダンジョン都市バルバロイに向かってくれ」


 ダンジョン都市バルバロイとは王都からかなり離れた所にあるダンジョン産業で栄えている都市だ。


「別にいいんだけど、なんでこのタイミングで?」

「そろそろダンジョン攻略を果たしておこうかと思ってな」


 クラマスは真剣な顔を維持したまま続ける。


「『黒の旋風』がかなりいい線いってるらしい。このままだと先に攻略されちまう」


 『黒の旋風』。確かダンジョン都市に腰を据えて本格的にダンジョン攻略に乗り出しているクランだ。


「なるほど。第3か?」

「ああ。第1と第2の攻略階層からして、第3は100階層まであると考えられているが……既に94階まで進んでいるらしい」

「もうそこまで……」

「お前らなら実力は問題ないだろう。一気に駆け上がってこちらが突破するぞ」

「わかった」

「オッケー」


 2人はダンジョン都市に行くことを快諾したようだ。


「連れて行くメンバーは任せる。頼んだぞ」


 そうしてダンジョン都市に向かうことが決まった。


 さて、俺はどうなるかな。

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