第27話 アービル伯爵 vs リンカ ※リンカ視点
「“世界転移”!!」
――ぐわぁぁぁぁぁん!
伯爵が魔法を唱え、ふと気づいた時にはもう既に周りの景色が変わっていた。
「ぐふぁははははは! ここは次元世界。わしの次元魔法で作り出した新たな世界だ!」
「これは……!」
「本当に飛ばされたってのか!」
奇妙な空間だった。
地面はまっさらだが、紫色の闇があたり一面に立ち込めている。ただ闇が逆に灯りにもなり、ある程度奥まで視認することも出来る。
「ここがアービル伯爵の作り出した新たな世界……あいつのせいでみんなここに連れてこられたの……」
周りをキョロキョロして状況を確認する。
「フレイくんがいない……! ……言ってた通り後回しにされたってことなんだね……」
むしろ安心する。こっちの世界の方が明らかに危険だ。とりあえずは巻き込まなくてすむ。
「何もないだろう? これでいいのだ。ここからこの世界は
アービル伯爵は得意げに語る。
「さて始めるとするか。お前らの皆殺しショーをな。観客はおらんがのう」
「みんな! 来るよ!」
「殺されてたまるか! グレートにお前をぶっ倒してここから出てやるよ」
「ぐふふ、出来るといいのう」
「ふむ……だが数が多くて目障りだな。“次元の波動”!!」
――ぶわぁぁぁぁぁあ!
伯爵が闇の衣のようなものを大きく羽ばたかせ、こちらに得体の知れない波動を放出。
「きゃああああ」
「ぐわああああ」
「ぶへぇえ!!」
私とゴードン以外のメンバーが全員吹き飛ばされてしまった。
「雑魚は相手にする価値すらない。まぁ残った貴様ら2人もわしにとっては雑魚同然だかな」
飛ばされたメンバーは波動にやられたのかうめき声を上げるだけで動くことが出来ていない。
「みんなー!!」
「リンカ先輩! 心配してる暇はねえぜ! あいつを倒さねえと」
「う、うん!」
私は戦闘モードに性格を変化させる。
「へ! 久々の強敵ってか! いくぜ!」
そしてオレは伯爵の下へ走り出した。
伯爵はこちらを見て不気味な笑みを浮かべてばかりで微動だにしない。
舐め腐ってやがる。
そのまま伯爵の下へ近づいていく。
「まずは一撃――」
「ぐふふ、無駄だ。“
後数秒で伯爵に辿り着くと言った所で、目の前に黒い円が生み出される。
「なん……! でも関係ねえな! この円ごとぶち抜くぜ!」
オレは止めることなく振りかぶった拳をそのままぶつけようとした。
――スルッ
けれどそこに感触はなく、オレはすり抜けるようにその円に突っ込んでいく。
「は?」
そしていつの間にかオレは最初にいた位置に戻されていた。
通り抜けたわけでもない。
「どうなってんだ!?」
「次元魔法は世界を渡る魔法。その力を持ってすれば空間を捻じ曲げることなど造作もないわ」
「そういうことか! ちっ!」
「グレートにめちゃくちゃだなおい!」
つまり闇雲に攻撃しても無効化されてしまうってことか。厄介だな……
「貴様、先程までと喋り方がまるで違うな」
「オレは戦闘になるとこうなるんだよ!」
この性格に変化できるからこそオレはここまで強くなれたんだからな。
「ゴードン合わせろ」
「あいよ。任せろ」
オレは再び伯爵に向かって駆けていき、伯爵の下へ急接近する。
「学習しないゴミだな。無駄だと言ったろう。“次元の円環”」
「“変獣・スピードモード”」
――ビュオオオン!!!
オレは青いオーラを
そしてそのまま伯爵の元へ超スピードで迫った。
「ほう」
「このスピードには対応できねえよなぁ? おらぁ――」
「対応する必要もない。“次元の円環”」
伯爵は再び黒い円を作り出した。
そうくるか……ただ……
オレは瞬間的に後ろを確認する。
先程作り出した黒い円はさっぱりと消えていた。
よし……これなら……
「今だ! ゴードン!」
「おう! 飛んでけ! “トルネードアックス”!」
――ぶおおおおん!!!
いつの間に反対方向に回り込んでいたゴードンは全力で伯爵に斧を
斧の回転が空気を巻き込み、それが一つの風となって斧に
数多なものを切り裂く風の斧と化して、伯爵に向かっていく。
「へっ……挟み撃ちだ。どうする?」
「……ふん。誰が2つ作れんと言った」
伯爵は新たに黒い円を作り出し、斧を吸い込んでいった。
――ドカーン!
そして斧は伯爵の後ろに垂直に落下する。
「っ……さっき消えたのはフェイクか!」
「そんな意図はないがな。たまたま消えてしまっただけだ。ぐふふ」
明らかに分かってやってやがる。
タチがわりい。
「そろそろわしも攻撃するとしよう。“
――チュドーン!
「ぐはぁぁあああ!」
「ゴードン!!!!!」
ゴードンが黒球に撃ち抜かれ、倒れてしまう。
「ぐふふ。圧縮した空間は鉄をも凌ぐ硬度を発揮する。貴様らを殺すには十分な威力だ」
「ぐぅぅぅぅぅ」
意識はあるようだが立ち上がることができていない。
一撃でこれとは……
「くっ!」
「これで戦えるのはお前1人か? ぐふふ。やはり冒険者などというゴミはこの程度の力しか持ち合わせていないのだな」
「ちっ……やべえな」
あの変な円のせいで物理攻撃が全く効果を為さない。
さらには火力もスピードもある遠距離攻撃を備えている。
「お前もそろそろくたばれ。“次元球”」
――チュドーン!
またもや伯爵から黒球が打ち出される。
「“変獣・シールドモード”」
――ガキィィーン!
オレは黄色のオーラを纏い、黒球を受け止める。
「はぁ!」
――バコーン!
そのまま黒球を蹴り飛ばした。
「効かねえなぁ!」
「奇妙な技を使うな」
「お前には言われたくねーよ」
ただこのままではジリ貧に近い。
よし……こうなったら
「“変獣・パワーモード”」
赤いオーラを纏いパワー全振りのモードに切り替える。
「空気砲!」
――ドーーーン!
オレは全力で空気をぶん殴り、その空気を伯爵に向けて放った。
空気砲の飛んでいくスピードはオレのスピードモードをも凌ぐ勢いだ。
「この速度なら黒い円を作ってる暇はねぇ!」
「
伯爵は未だ動く様子はない。というか動けていないのだろう。
「当たれぇぇえ!」
「…………………ぐふふ、当たるわけあるまい。“
――シュン!
空気砲が当たる直前、伯爵はその場から瞬時に
「なに!? っ……どこだ!?」
オレは急いで辺りを見渡す。
すると伯爵は先程いた場所とは反対側に移動していた。
「ぐふふ。世界を渡れるのに、自分を転移できない道理はない」
「まじか……こいつは……やべえなあ」
ちっ……これじゃあ奥の手すらも使えねえ。
「空気砲! 空気砲! 空気砲!」
「むだむだむだぁ! ぐふぁはははははは!」
オレが空気砲を打つたびに伯爵は転移で避けていく。
当たらねえか……
ただこいつは……
空気砲を繰り返していく内に分かったことがある。
奴は必ず元の位置から一番離れた対角線上に移動してくる。
つまり、そこを突けば。
「空気砲!」
「バカの一つ覚えか。芸のない。“次元転移”」
伯爵はまた転移を発動した。
ここだ!
「“瞬時変獣・スピードモード”」
パワーモードからスピードモードに即時変化。
オレは全速力で奴が来るであろう反対方向に向けて走り出した。
そして伯爵が転移で出現した時、オレはその目の前まで迫っていた。
「もらったぁぁぁ!!」
これなら避けれない。転移を発動する暇さえ無いはずだ。
オレは爪を立て、思いっきりその手を振るった。
――スカッ
「………は?」
「ぐふふ、甘いわゴミめ。“次元球”」
「あがぁぁあ!」
――ズドーン!
オレはあの黒球に吹き飛ばされてしまった。
なにが……
「この闇の衣はわしの次元魔法の源。そもそも物理攻撃など受け付けんのだよ」
「ばか……な……」
「気づいたか? 貴様がずっと遊ばれていたことに。そもそも避ける必要すらなかったのだ! ぐふふ、やはりゴミはゴミだ! ぐふぁははははは!」
伯爵は勝ち誇ったように高笑いをあげている。
オレはふらふらになりながらも力を振り絞って立ち上がった。
「……」
まだ最初に吹き飛ばされたみんなも、ゴードンも動くことはできない。
「へへっ……これは……流石に万事休すか……」
悪い……
オレはみんなを守れなそうだ……
フレイ……せめてお前だけでも……逃げてくれ。
――バリッ!
その時何かが割れる音が聞こえた。
「なんだ……あれは」
伯爵は珍しく笑みを消し、何かに驚いている。
その目線の方を向いてみると……
空間にぽっかり穴が空いていた。
「なんだありゃ……」
――バリィィィーン!
その穴を見ていた時、そこをぶち破って何者かが現れた。
「誰だ……貴様は……」
そこに現れたのは黒装束を身につけた謎の人物だった。
―――――
読んでいただきありがとうございました!
レビュー一件頂きました! ありがとうございます!
もっともっとたくさんの方に見ていただきたいので、よければ【⭐︎やレビュー】で応援してください!
よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます