第10話 嫉妬の目線

 私は、踊るのが嫌いだ。

 いや、正しくは……苦手だ。


 幼いころから常にトップを獲れと、両親に言われ続けてきた。

 勉強も、魔法も、食事の作法から踊りまで。


 幸い器用にこなせていた。ただそれは、能力のおかげだったけれど。


 ただ、踊るのはどうしてもうまくできなかった。

 人前に出ることが恥ずかしく、常に視線にさらされている感覚が、身体をこわばらせる。


「なあエヴィ、俺と踊らないか」

「……どうして、私と?」

「誰も俺とペアを組みたがらないんだ。それにお前は見栄えもいい」

「ふうん。もう少し痩せたらいいわよ?」


 そんなとき、スロース・エンヴィルドが声をかけてきた。

 私が一人だったので、都合が良かったのだろう。

 でも、極力踊りたくないし、ましてや怠惰で悪名高いスロースとなんて。

 だから、無茶な約束をした。


 なのに――。


「あのお方は誰だ?」

「スロース様じゃないか。随分とお痩せになられたな」

「人は変わるもんだな。綺麗な顔立ちだ」


 次に会ったとき、彼はとてもお痩せになっていた。

 私の約束を……本気だったんだ。


 私も約束を守り、勇気を振り絞って彼をダンスに誘った。

 本当はしたくなかったけれど、それでも一生懸命に踊った。


 そしてスロース様は、私が思っていたよりも上手だった。


 リードも……してくれた。


 けれども、両親は納得してくれなかった。

 恥ずかしいと、私に対して冷たい言葉を投げかけた。


「エヴィのダンスを褒めてあげてもらえませんか」


 そんなとき、彼が庇ってくれた。

 頑張っていたとほめてくれた。


 嬉しかった。


 何もかも完璧にしなさいと言われ続けてきたけれど、それでいいと肯定された気持ちになった。


 

 気づけばスロース様を目で追っていた。

 

 彼の評判は頗る悪い。


 確かに以前のスロース様はそうだったかもしれない。

 でも、今は違う気がする。


 彼のことをもっと知りたい。


 体重、身長、魔法、食べ物の好み、嫌いな物、好きなタイプ。


 これが好きという感情なのかどうかはわからない。


 スロース様のことを思うと心が切なくなる。

 

 魂が、彼につなぎとめてほしいと願っている。


   ◇


「いいですねえっ! いいです! いい動きですよ。スロース様!」


 舞踏会が無事に終わり、いつもの日々が戻ってきていた。

 木剣での実践訓練。お相手は、いつもの強面恍惚おじさんベリル兵士長だ。


 嬉しそうに、それでいて猟奇的に笑っている。


 そのとき、右肩にヒットした。


 数値が4000に減り、思わず微笑んだ。


 しかし――。


「あァ、いってえな……っと、失礼しました」


 たまに漏れ出る言葉が、怖い。


 元々冒険者をしていたはずだ。原作では丁寧な言葉遣いのキャラだったが、真実は違う気がする。


「ハァッ、いいですね。いいですねええっ!!!!」


 ほら、俺がいい攻撃すると、すぐこうなるんだもんな。


 まあ、いいけど。


「スロース様!」


 そこで、キャロルの声がした。

 いつも飲み物などを用意してくれているので、休憩を促してくれているんだろう。

 ありがたいなと思い振り返ると、なぜかその横には――金髪碧眼、嫉妬ヤンデレのエヴィがいた。


「スロース様、お元気でしょうか」

 

 さすがに試合はストップ。

 駆け寄ると、丁寧にエヴィはスカートをカーテシー。

 丁寧な挨拶が余計に怖いな。


 な、なぜ家に……。


 とりあえず返事をせねば。


「久しいな。エヴィ嬢」


 丁寧な言葉遣いは慣れていないので、とりあえずこれでいいかな。

 なぜかエヴィは頬を赤らめる。

 

「そ、そんな綺麗だなんて……嬉しいですわ」


 言ってない。

 脳内変換どうなってるんだ?


 そういえば原作でも勘違いがひどかったな。いや、それはそういうレベルではないが。


「スロース様にお礼がしたいとのことで、来てくださったようです」


 キャロルが補足してくれたが、お礼されるようなことをしたか?

 というか、キャロルの真顔がなんか怖いな。


「舞踏会で、私をリードしてくれたでしょう」


 そのことか。凄い律儀だな。ただ約束通りに踊っただけだというのに。

 ただ丁寧なだけか。

 ゲームのキャラクターとは大きく変わっているのかもしれないな。


「わざわざすまないな。ゆっくりしていってくれ、と言いたいところだが、今は訓練中なんだ。だから、今日のところは――」

「見ているだけでいいので、問題ございませんわ」


 するとその場で体育座りを始める。この時代にもそんなポーズあるの?

 

 すぐに飽きて帰るだろうと思っていたが、一時間経過してもずっと体育座りをしていた。

 水分補給での休憩のときなんて、目をキラキラさせて俺を見つめている。


「凄いですね。スロース様が剣術をあそこまで扱えるとは知りませんでしたわ」

「ベリル兵士長のおかげだよ。俺は大したことしてない」


 いつまでいるんだろうと思っていたら、なんとベリル兵士長がとんでもないことを言い放つ。

 戦ってみたらどうだ、と。


「え、模擬戦……ですか? 俺とエヴィで?」

「そうですね。エヴィ嬢、どうでしょうか」

「いいのですか? 私はもちろん構いませんわ!」


 俺はかなり構わうんだが。


 しかしこれは朗報かもしれない。

 嫉妬は、七つの大罪の一人。


 今の俺がどれだけ通用するのか、それを試させてもらうか。


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