傲慢

第10話

 事務所から飛び出した一史はタクシーを捕まえるとHTテレビに向かった。


 雛形の言っていることは正しい。


 特に彼の立場なら責める余地もないほどの意見だ。


 だが一史はどうしても本間の本心を知りたかった。


 自分を認めてくれたはずの彼が、なぜ今の自分を見切ったような判断をしたのか、その理由が聞きたい。


 それも彼の口から直接聞きたかった。


 テレビ局に着いても本間にはすぐに会えなかった。


 午前中に原作者と打ち合わせをしていたらしく、そこで決まったことを各部所に指示を出しているので席を外せないと言われた。


 ここ数年、こんな風に待たされることは一史には全くなかった。


 どちからと言えば自分が相手を待たせることが多かった気がする。


 最初はそのことが心痛かった。


 けれど今では気にすることもなくなっていた。


 なぜなら、たとえ遅れても向こうは嫌な顔を一つしないからだ。


『いえ、今井さんがお忙しいことは重々承知していますから』


 そんな台詞がいつも返ってきた。


 いつの間にか相手より優位な立場に立っていることに傲慢になっていたような気になる。


 いつ来るか分からない本間のことを待ちながら一史はそんなことを思っていた。


「やっぱり本間さんには敵わないなぁ」 


 それは一史にとって正直な感想だった。

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