1−6話:雪side

「お疲れ様です」


 ライブ当日。控え室に入った私は今日サポートを行うバンドメンバーに挨拶をした。すでに私以外は揃っており、準備をしていたメンバーの視線が一気に私に注がれた。


「お疲かれー」

「雪凪(せつな)おつかれー」

「おつー」

「ヤッホー」


 全員バラバラの挨拶を返してくださり、私はぺこりと頭を下げた。

 お世話になっているバンドの一つで、男性二人、女性二人のバンド。皆さん大学生で、高校生である私はここでは妹のように可愛がってもらっている。普段は姉という立場だから、ここに来るとちょっと気恥ずかしくなってしまう。


 軽く準備を済ませてすぐ、リハが行われるが、正式なバンドではないので先輩方に演出面は全部任せてる。私は、自分の音だけ意見を口にする。いつもこんな感じ。


「なぁなぁ雪凪」

「え、あっ、はい。なんですか?」


 リハを終え、控え室で音の調節や歌詞の確認を行っていると、バンドメンバーの一人、圭人(けいと)さんが声をかけてきた。


「女子校ってどんな感じ?」

「え、どんなって……」

「圭人ー、下心見え見え」

「最低です……」

「え、そんな胡桃(くるみ)!」


 まぁ男性からしたら女子校なんて秘密の花園。みたいなイメージだろうけど、お嬢様学校というわけではないから、普通の共学校とは何一つ変わらない。


「そんな期待するようなことは何もないですよ。共学と何も変わりませんし」

「そうなんだ……残念」

「でも、スキンシップは激しいですし、女の子同士で付き合ってる子もいますし」

「え!」

「そうなんですか?」


 圭人さんと胡桃さんがすっごく驚いていた。というより、少し引いてる?だけど、他の二人。春樹(はるき)さんと南(みな)さんは首を傾げて「そんな驚くこと」という感じだった。


「このご時世普通でしょ。むしろ偏見持ってる方がおかしいと思う」

「そうだね。同性愛への認知は昔に比べて高くなってると思う」

「でも、同性同士じゃ子供作れないだろ」

「少子化問題の解決にはならないよね」


 女子校の話から、同性愛についての話に逸れてしまった。なんだかグループ会議が始まってしまい、私は完全に空気となってしまった。

 会話に入ることもできず、私はギターを弾き始める。だけど、なんだかひどく胸が痛い。突き刺さるような鋭い痛み。


 同性愛への偏見が完全に解消されたわけではない。だから圭人さんと胡桃さんは当然の反応だった。だけど、辛かった。

 顔も知らない。けど、多分うちの生徒である“水色の桜”さん。その人物に私は特別な感情を抱いている。なんて表現していいかはわからないけど、きっとこれは……周りからしたらおかしな感情なのだろう、考えてしまう……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る