雑務係は没落貴族令嬢と歩みを進める
@Tahasu36
前編 一目惚れと彼女のこと
「おい! また間違えているぞ!」
「すみませんでした! 急いで直します!」
いつものように雑務係の僕は上司に書類上の不備を指摘される日々を送っていた。元は建物の清掃がメインだったのがだんだんと事務系の仕事が増えていき慣れない仕事に頭を抱える。
「これもお願いしますね」
「ここについて、ちょっと教えてください」
最近では、他の事務員や受付係の人からも遠慮がなくなったのか、いろいろと頼み事をされることが多くなり、より仕事が忙しくなってきた。つらい。
そう思い続けて仕事をしているとあっという間に夕方になり、任務に行っていたパーティが続々と帰ってきた。いつものように受付係が対応し、僕は事務員と一緒に後処理や報酬の管理などを行う。
ふと、受付係のほうを見ると、ある女性が目に飛び込んできた。
「綺麗だ…」
つい口から出てしまった。しかし、そう言ってしまうのも無理はない、と思う。長い金髪、金髪に映える白いローブ、傷つきながらもしっかりとロッドを持つ手、カウンター越しでもわかるスタイルの良さ。任務で疲れているのか、疲れたように呼吸をする動作でさえ目を惹きつける。
「わけ分からないこと言ってないで仕事してください」
一緒に作業をしていた事務員から咎められてしまった。でもしょうがない、だって本当に綺麗なんだから。そう言い訳を心の中で言いながら作業を進める。
◆
「本日の仕事は終わり! 皆のみに行くぞ!」
「はーい」
「ま~た飲みですか、毎週やってますよ」
「別に来なくてもいいんだぞ、次からの査定を楽しみにするんだな」
「それは冗談として受け取っておきますよ。まあ、楽しいから行きますよ」
「じゃあ突っかかるな、ほら早くいくぞ」
うちでは毎週金曜日に事務員メンバーで飲みに行っている。おそらく本当に査定などには影響しないと思われているが、実際そこそこ楽しいし、帰っても暇だから結局いつも行っている。
◆
「だからさぁ、俺はもっとなんか凄いクエスト、ほら、ドラゴンやトロール討伐のとかをもっとやりたいの!!」
「いや、トロールはともかくドラゴンとか全然聞かんし無理だよ!」
「受付係の、あの、いつも右から二番目に座っている青髪の人?」
「ああ、…さんのこと? その人がどうしたの?」
「ほら、あそこに座っている人と付き合い始めたんだって!」
「え――! すごい! 冒険者と受付嬢の恋じゃん! やっぱあるとこにはあるんだねぇ」
「ね、私たちもかっこいい冒険者と付き合えたらなぁ」
「やっぱ、事務員より冒険者っしょ! 男っぽいし」
飲みは中盤に入り、大きな仕事がしたいと打診する者、恋バナで盛り上がるグループなどいい感じの空気になってきた。先の話にひきずられ周りを見ると、夕方に見たあの女性がいた。楽しそうに笑って相槌を打っているかのように見えるが、時折うつむき暗い顔をしている。もしかしてそこまで馴染めてないのか、そう思っていると、
「お前、あの子に見惚れているのか? ほら言ってみろ」
「そうなの? ああ、確かに可愛くて綺麗な子やん!」
ワイワイガヤガヤと上司の言葉を皮切りにどんどん人が集まってくる。気恥ずかしくなって、
「ち、違いますよ! ただ見ない顔だなって思っただけで」
と言うと、
「ほんとかなぁ」
「でも確かに、他の人は見たことある気がするな」
「最近入った子かも」
「ちょうどいいじゃん、話しかけて聞いて来なよ」
「あ、思い出した。確かあの子、元貴族の娘だった気がする」
「なにしたん? 家自体が堕ちたの? 家族から追放されたの?」
「それはしらな~い」
すると隣の卓の冒険者から、
「ああ、あの子は家自体がなくなったんだよ。理由は知らないが。魔法の才能があることは知られていたからあそこのパーティが引きとったんだよ。ま、貴族の娘らしく体力が無いからついていくのもやっと、というより正直ついていけてないらしいがね」
あの女性への侮辱にはムッときた。しかしそれ以上に、
元貴族の娘? それで今は魔法使いをやっている? パーティのレベルについていけてない?
あの女性についての情報がいろいろ流れてきて呆然としてしまった。
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