影の騎士団
カルボナーラ
第1話
この世界がゲームの中の世界もしくはゲームに酷似した世界であると認識したのはいつのことだっただろうか。いや、そもそも前世の記憶を思い出したのはいつだっただろうか。
どこか聞き覚えのある地名、人物名。幼く、まだ前世の記憶が定着していなかった当時は行く先々で妙な既視感を感じ、一人恐怖を感じていた。
前世の記憶が定着したのは確か、五歳を超えたあたりだったと思う。前世の記憶を完全に思い出した俺はここがワールドコネクト、通称ワルコネというソシャゲの世界だと理解した。
その記憶を考慮した上で自分のノルという名前、そして容姿をもう一度確認してみたところ俺は完璧に理解した。
俺は・・・・・モブキャラだった。
最初は多少納得のいかない気持ちがあったが、数年もすればそんなことは気にもしなくなった。というより気にしてる余裕もなくなったというべきか。
ゲームではモブキャラでもここは現実であり、ゲームに関わらない人間もそれぞれ生活する世界である。
人それぞれすべきことというものがあるのだ。子供であってもそれは変わらない。小さな村に暮らす子供なんてやることがたっぷりある。
そのうえ俺はゲームのシナリオをある程度理解しているため、自分や周りの人を守るために身体を鍛える必要まである。本当にやることが多すぎて困ってしまう。
幸いなことにモブである俺の父は過去に光の騎士団といういわゆる近衛騎士団に属していたこともあるくらい腕がたつようで、村を魔物から守る自警団をしながら空いてる時間には稽古をつけてくれた。
なぜ光の騎士団にいた父がこんなど田舎の何もない村にいるのかは知らん。ワルコネの知識を思い返しても俺の知る限りは父の名前は出てなかったと思うし、本人に聞いたこともないからな。
そんな父の訓練とモブであるにも関わらずこの身体がハイスペックだったこともあり、十歳になった現在ではそれなりに戦えるようになっていた。
父からは天才だなんだと騒がれているが、十中八九このハイスペックな身体のおかげだろう。何故ただのモブがこんなハイスペックなのか理解できないが、そういうものだと思うことにしよう。
そうして忙しくも充実した日々を送っていたある日、俺は衝撃の事実を知ることになる。
その日は朝から村の中がとても騒がしかった。それもそのはずでその日は、年に一回年末に行われる祝福の儀当日であった。
祝福の儀というのは、その年に10歳になった子供に神から祝福を与えられる日と言われている。
神からギフトと呼ばれる特別な力を授かる儀式と言われているが、その実態は国が優秀なギフトを持った者を把握し、引き抜くための場である。
確かゲームの主人公の一人であるアレックスくんは『勇者』というギフトを得たことで、ただの村人から魔王と戦うことを運命づけられた勇者になったはずだ。
そんな祝福の儀は都会の子供だろうが小さな村の子供だろうが強制参加のため、俺も当然受けさせられた。
どうせモブである俺のギフトなんてどこにでもいるような『剣術』とか『火魔法』とかそんなものだろうと特に期待せずに村にある教会に赴き、とっとと終わらないかなぁなんてことを思いながら自分の番が来るのを大人しく待っていた。
そうして自分の番が来て、ギフトを知るための水晶に手を翳すと水晶が光り輝き、その光が収まるとこんな文字が書いてあった。
『女体化』
まさかの3文字に普段クールなイケメン少年で通っている俺もお口をあんぐりと開けたアホ面を晒してしまった。
過去に何人ものギフトを見てきたであろう神官もこの結果には苦笑いをして手元の紙に書き込んでいる。
おそらく国の上層部に伝えるためだろうけど、意味があるのだろうか。こんなの伝えたところでなんの意味があるのか。
今ぱっと思いつく使い方なんて女湯を覗くことくらいしかないぞ。
まぁもとより対して期待していなかった俺としてはギフトが何であろうがどうでもよかった。ギフトがなくとも強者になれることは『木工』というギフトを持ちながらも光の騎士にまで上り詰めた父が証明している。
ギフトを授かったあとは特に何事もなく家に戻った。そして父と母にギフトのことを報告すると父は大爆笑し、母は「実は娘も欲しかったのよね〜」と言いながら微笑んでいた。
授かったギフトによって家族の縁を切るような家もあると聞いたことがあるが、俺の両親はそんな人たちではなかったらしい。
まぁギフト度外視の実力主義を体現している父とその妻である以上最初から無用の心配だったけど。
両親に報告したところ実際に試してみたら?という話になったため、俺は二人の前でギフトを発動してみた。
すると一瞬で変化は完了したのか眼の前にいた父と母は驚いた表情を浮かべ、すぐに母が手鏡を手渡してくれた。
渡された手鏡で自分の姿を確認すると、そこには衝撃的な事実が写し出されていた。
綺麗な黒髪に真っ赤な瞳を持った見覚えのある美少女。
隣で母がテンションを上げながら「名前はセラにしましょう」と騒いでいるが、その言葉に俺は確信した。
どうやら俺はモブではなかったらしい。
そこに映し出されていたのは影の騎士団ガルシア隊隊長セラ・ガルシアなのだった。
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