ナモとニモ

@nanimonimo05

第1話 ニモ

 夜のカジノは熱気に包まれていた。

 カードがめくられるたびに歓声が上がり、ルーレットの回転音が心地よいBGMのように響く。

 そんな中、一際目立つ男——長い黒髪を無造作に束ねたニモは、積み上げたチップを眺めながらニヤリと笑った。


「よーし、今日はツイてるぜ!」


 隣に座っていた金髪の美女がニモに微笑む。


「運がいいのね、私にも分けてほしいわ」


「もちろん♡でもその代わり、君のハートももらっていい?」


 軽くウインクを飛ばすと、美女はくすくすと笑った。


「ふふ、面白い人ね」


 そんな甘い空気の中、ニモはカードをめくる。


「じゃあ、全部いくか!今日も愛してんよーギャンブルの女神ちゃん♡」


 テーブルの上に大量のチップを投げ出し、ディーラーと最後の勝負に出る。

 場の空気が一瞬張り詰めた。そして——


「バーストです」


「……は?」


 ディーラーの冷静な声が、ニモの脳に直接響く。


「お客様、全てのチップを失いました」


 静まり返る周囲。ニモはぱちくりとしたあと、乾いた笑いを漏らした。


「ハハ……いや、ウソだろ?今のは見間違いじゃない?」


「現実を受け止めてください」


 そこへ、カジノのオーナーらしきスーツ姿の男が現れた。


「ニモさん、借金、どう返してもらいましょうか?」


「……ま、待て待て。まだ終わっちゃいねぇだろ?」


「いいえ、終わりです」


 スーツ男が指を鳴らすと、屈強な借金取りたちがズラリと並ぶ。


「逃げるのはナシですよ?」


 一瞬の沈黙。


「お前がそう思うならそうなんだろうな……お前ん中ではな!」


 そう叫んだ瞬間、ニモは全速力で逃げ出した。


「待てコラァァァ!」

「誰が待つかー!」


 夜の街を駆け抜けるニモ。その後ろを借金取りたちが鬼の形相で追いかけてくる。


「クソッ、なんでこうなるんだよ!」

「お前が全部賭けたからだろうが!」


 必死に路地裏を駆け抜け、ニモは突然ポケットからカエルを取り出した。


「くらえ、カエルアタック!」


 カエルを投げる。ピョン、と軽やかに跳ねるが、当然ながら借金取りには何の影響もない。


「……なにしてんだオイ」

「……ワンチャンあるかと思ったんだよ!」


 絶体絶命かと思われたその時、ニモは見覚えのあるバーの扉を発見。勢いよく飛び込んだ。


「ナモちゃーん!ツケで酒一杯!」


:バーにて


 静かなジャズが流れるバーの中、グレーの髪を持つ男——ナモがカウンターでグラスを拭いていた。

 彼の肩には、同じ色をした蛇が絡みついている。


 ナモは一瞬ニモを見た後、ため息をつく。


「……また借金か?」

「ちょっとばかしな!まあ、ツケで!」

「お前の“ちょっと”はいつも致命傷なんだよ」


 借金取りたちがバーの前まで来たが、ナモが軽く手を上げると、彼らは苦い顔をして引き下がった。


「お前がここにいるってことは、ナモさんがなんとかするってことか?」

「違ぇよ。こいつは今、現実逃避しに来ただけだ」


 ナモは冷めた目でニモを見ながら、新しいグラスに酒を注いだ。


「で、今度はいくら負けた?」

「まあ……小さい額だよ、うん」

「……」

「たぶん」

「……」

「いや、思ったよりデカいかも?」

「お前、今すぐ死んだ方が楽じゃね?」


 ニモは苦笑いをしながら酒をあおる。


「愛してるよ♡ナモちゃん」

「うるせぇ、さっさと飲め」


:彼女の記憶


 グラスを傾けながら、ニモはふと昔のことを思い出した。

 カウンターの向こう、ナモのシルエットが、どこか彼女の姿と重なって見える。


『お金ってさ、ある時はただの紙切れなのに、ない時はすごく重くなるよね』


 白金色の長い髪が揺れる、優しい笑顔。


「……はは、そういや、そんなこと言ってたな」


 甘い記憶。だけど、それは過去のもの。


「ま、今さら思い出しても仕方ねぇか」


 ニモは残った酒を一気に飲み干した。


「さて、そろそろ金を稼がねぇとな!」


:奇跡の大逆転?


 その後、再びギャンブルへ向かうニモ。


「今度こそ取り返すぜ!」


 しかし、開始3分でまたしても大敗。


「終わったぁぁぁ!!!」


 その瞬間、ニモのカエルがピョンと飛び跳ね、偶然にもディーラーの手元にあった札束をひっくり返した。

 紙幣が宙を舞い、気づけばニモの前に札束の山。


「……おい、これって……?」

「……まさか」


 借金取りが頭を抱えて言う。


「こいつ、本当に運だけは持ってやがる……」


 ナモが酒を飲みながら、ポツリとつぶやいた。


「……バカは死ななきゃ治らねぇな」


(完)

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