第15話

 俺が春花さんに対して秘密を聞く覚悟があるのかを問いただした。


 「…覚悟?そんなもの、とっくにできてるよ。正孝に距離を置かれるほど辛いことはないって再確認できたから。だからそれが変わるなら、私はたとえ悪魔とだって契約するだけの覚悟はあるよ」

 「…そっか。なら、教えるけど、…実は俺、記憶喪失なんだ。一年前の4月9日、それ以前のことは全く覚えてないんだ。…だから春花さんのことも、ごめん」

 「……そう、だったんだ」


 春花さんはそれだけ呟くと俺も春花さんも楸もしばらく何も言わなかった。しばらく無言の時間が続いた部屋の中にやがて小さな啜り泣くような音が響くようになった。


 「…ぐす、ぐす」

 「…春花さん?」

 「ぐす、何よ?」

 「いや、その…」

 「…ごめんね。私、何も知らないで」


 …違う。俺が何も言わなかっただけだ。楸のおかげで表面上は何も問題がないような感じで生活できていた。それに色んな人からお礼も言われるようになってきて正孝の代わりがちゃんとできてるんじゃないかと思い込んでた。でも、そんなわけないって気付かせてくれたのが春花さんだ。


 「謝らないで。伝えてなかった俺のせいなんだから」

 「違う!…私が勝手に距離を置かれたんだって拗ねてただけだもん。正孝がそんな人じゃないって知ってたはずなのに…」

 「…ごめん。俺は春花さんのことも覚えてないんだ。だからきっと春花さんの知ってる正孝じゃない」

 「…ううん。正孝は何も変わらないよ。だってあんなにたくさんの人から感謝されてたんだし、例え記憶が無かったって正孝が優しい人なのは変わってない」


 …春花さんはそう言ってくれるけど、やっぱり俺と正孝は違うよ。だって俺はこの世界がゲームだって知ってるから主人公として行動できてるだけで、もしモブとかだったら何もできないに決まってるから。だからそういう意識が一切なくても進んで人助けをするような正孝とは根本的に違うんだ。


 「…そっか。でも、やっぱり違うと思う。俺の意識は体を借りてるってイメージが強いからいつか返せたときに元の正孝が困らないようにしてるだけだから」

 「そんなこと!」

 「…それに、もし俺が本当に優しいならこんなに春花さんを悲しませることも無かったはずだから」

 「…分かった。正孝がそう言うなら私もそう思うことにする。…もう、私の幼馴染みの正孝じゃなくてクラスメイトの秋風さんだってことにする」

 「…ごめん」

 「…ううん、確かに関係性が0になっちゃったのは悲しいけど、でもこれからは元幼馴染みとしてガンガンいくから覚悟してね」

 「…分かった」


 そう言って春花さんは笑った。無理矢理で少し不恰好ではあったけど、きっと俺はその表情を忘れないと思う。俺が秘密を隠したせいで傷つけた証なんだから…。


 …いつか誰にも言えていないもう一つの秘密、転生者だってことも伝えられる日が来るのかな?

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