side 冬月 柊

 私には何にも変え難い大切な思い出があります。それは高校2年生の頃に起きたたった1日の思い出です。


 その日は朝、ほんの少しの違和感がありました。でも、それが何か分からなくて私はいつも通りに起きていつも通りの1日になるって疑っていませんでした。…でも、リビングではお母さんが倒れていたんです。違和感の正体は、家の中が静かすぎることだったんです。


 私は慌てて救急車を呼びました。そして救急車が来るまで私はどうすることもできませんでした。いくらお母さんを呼びかけても返事がありません。実際は全然時間も経っていないだろうけど、人生で一番長く感じた気がします。早く、早く…。気持ちだけが急いてしまいます。何かしたいのに、何もできない。それがこんなに辛いなんて思いもしませんでした。


 そうして私は目を覚さないお母さんと一緒に病院へ行きました。そこでやっていた朝のニュース。何の気無しに眺めていると丁度終わりの星座占いのコーナーでした。そして私の星座は第一位。ラッキーアイテムは四葉のクローバー。


 …私は意味が分かりませんでした。こんな思いをしてるのに一位って何?これで最下位だったらどうなるの?って。


 そして私はつい思ってしまったんです。もしかしてこんなことになったのはラッキーアイテムを持って無かったから?って。正常な精神状態だったらそんなことないってきっぱり断言できます。でも、いっぱいいっぱいだった私は少しでも何かに縋るしかなかったんです。


 私は四葉のクローバーを探すために病院を飛び出しました。…そしていくら探しても見つかりません。


 …やっぱり私なんかじゃダメなのかな?雨で薄暗くなっていて気分もだんだん沈んでいってしまいました。そんなときです。彼に出会ったのは。


 当時のことは実はあんまりよく覚えてないんです。ただ、少し安心感があったことは覚えてます。それから彼も一緒に四葉のクローバーを探してくれることになりました。


 それからどのくらい時間が経ったのか分かりません。でも、彼も一生懸命探してくれてることは分かります。そんな中、私が諦めるわけにはいきませんよね?


 そんな思いで探し続けた私たちはついに一輪の四葉のクローバーを見つけることができたんです。


 私は色々な感情が溢れて泣いてしまいました。そしたら彼は私を慰めるように優しく抱きしめてくれていたんです。


 結局私は最後まで彼の名前すら聞けませんでした。そして私の名前を伝えることもできませんでした。そして満足にお礼を伝えることもできなかった気がします。


 …私は名前も知らない彼を好きになってしまいました。でも、お互いに名前さえ知らない間柄、再会するためには私が有名になって見つけてもらうしかない、そう思ってました。


 …でも、彼の方がずっと有名だったんです。私のクラスの中にも彼、秋風 正孝さんに助けられたって人は何人もいました。そんな彼に再会するのは私が彼に相応しい人間になれてからです!


 そう決意して半年。私は生徒会長として学校の代表のような役割になることができました。これも全てはあの日、私に光をくれた正孝のおかげです。正孝様に並べる、なんて烏滸がましいことは言えませんけど、少しでも近づけた気がします。


 それから更に半年。この半年間は前任の生徒会長から色々引き継ぎをしたりして努力しました。そして入学式が終わった日、私は正孝様をお呼びしました。


 …私、あなた様に相応しくなれたでしょうか?

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