第10話

 「な、何でって。迎えに来たの!…その、正孝さんが何か悪いことなんてするわけないって。!私が一番よく知ってるから誤解を解こうと思ったの」

 「そ、そうか。…でも、無茶はダメだよ?どうやら俺が怒られたりするわけじゃないみたいだし、もう誤解は解けてるから。だけど、もしかしたら喧嘩とかになってるかもしれないから、そんな危ない可能性がある場合は来ちゃダメだからね?」


 …でいいのかな?流石にここから俺が非難される流れにはならないだろうしな。


 「…じゃあ、俺たちはもう帰るよ。それじゃあ、また」

 「は、はい。またのお越しをお待ちしております正孝様、妹君いもうとぎみ様」

 「!?わ、私は正孝さんの妹じゃないから!」

 「ま、まぁまぁ。もう帰ろ?」


 …でも会長が言うと楸も反応していた。俺なんかの妹じゃヤダって。それってつまり俺が嫌われてるってことだよな。少しは仲良くなれた、なんて思ってたけどやっぱり全然ダメだったか。…まぁ、俺が楸から兄さんを奪った存在なんだし当然か。


 そうして俺と楸は昨日約束していた通りプリンを買いに来ていた。


 「…ねぇ、正孝さん。私って、やっぱり正孝さんの妹にしかなれないのかな?」

 「?急にどうしたの?」


 行列に並んでしばらく経った頃。楸は唐突にそう呟いた。…そりゃあ、楸は義理とは言え俺の妹であることに変わりはないんだし、きっとそれはこれから先もずっと変わらないんだろうな。


 …なんて。俺はまだ一年くらいしか彼女と関わってないのに何一丁前に家族扱いしてんだって言われたら反論できないんだけどね。


 「その、今日だってすぐに私が正孝さんの妹だって気付かれたんだし、今だって兄妹で来てるって思われてるのかなって。私はデ…で、でかけるってイメージで来てるのに」

 「そこは分からないな。でも、俺は楸が妹で良かったって思うよ?俺を家族としてずっと支えてきてくれたのは紛れもなく楸なんだし、この一年楸と一緒に暮らせて良かったから。…うん、だからさ?俺の妹になれるのは楸だけなんだよ?」

 「…そっか。確かに私、ちょっと焦り過ぎてたみたい」


 途中から俺も何が言いたいのか分からなくなってきた。それでも楸が妹で良かったって思ってるってことだけは伝えなきゃって思ったから、それがちゃんと伝わってるならいいかな。


 「正孝さん!」

 「ん?」

 「私、頑張るから!これから先、ずっと正孝さんの家族でいられるように…」

 「…ああ、分かった。それじゃあ俺ももっと頑張って楸の自慢の兄にならないとな」

 「…もう正孝さんは自慢の兄さんだよ」

 「そんなの、俺の方こそ楸はもう自慢の妹だぞ」

 「…そういうことじゃないのに」


 ?俺にとっても自慢の妹だってことなのに、そういうことじゃないってどういう意味だろう?楸は俺を自慢の兄だって言ってくれたのに、それも意味が違うってこと?…よく分からないな。

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