原作うろ覚えのギャルゲーの主人公に転生した。…って、俺が主人公!?事件とかに巻き込まれるってこと!!?

義妹編

第1話

 「…て…さい。に…さん」


 遠くで知らない人の声がする気がする。普通なら恐怖しかないと思うけど、鈴を転がすような澄んだ声にどこか懐かしさを感じるような気もする。


 「朝ですよ」


 次の声はさっきよりはっきりと聞こえた。目を開けるとすぐ近くには美少女と呼んでも差し支えないような容姿を持った女の子がいた。


 空の青さを切り取ったような澄んだ水色の髪。深海のような深く奥底まで見通すような藍色の大きな瞳。スッと芯の通ったような鼻筋。桃のような瑞々しくも柔らかそうな唇。色白ではあるけど不健康さは感じさせない潤った肌。


 日本人離れした美少女と呼んでも過言ではない彼女だが、違和感はまるでなかった。知らないはずなのに、どこか引っかかりを覚えるような、喉の奥に小骨が刺さったような違和感がある。


 「やっと起きたんですか兄さん。もう朝ごはんの用意ができてるので早く着替えて降りてきてください」

 「…あ、ああ。今行くよ」

 「…それだけ、ですか?」

 「…え、ええっと?」

 「あ、な、何でもないです。気にしないでください」


 戸惑いながらも何とかそれだけ返すと寂しそうにしながら部屋から出ていっちゃった。恐らく俺がそうさせちゃったんだと思うけど、残念ながら心当たりは何もない。それに、それ以前に未だこの女の子が誰なのか思い出せない。


 こんな目立つ容姿の子を忘れるなんて考えられないけど、どこか既視感のあることは確かだった。つまり、彼女がイメチェンでもして変わる前の姿を知っているのか、長い間会ってなくて単に忘れてるだけか、初対面でぐいぐいくる女の子なのか、あたりかな?


 俺のことを兄さんなんて呼んでるから最近会ってないなんてことは考えにくい。そもそも俺に妹なんていな…あれ?そもそも、


 起きた瞬間から美少女が目の前にいたからそっちに注目しちゃったけど、よく考えてみればここがどこだかもよく分かってないことに気がついた。ベッドやらスマホやらpcやらは分かるし、文字やら計算やらも分かるから日常生活にはそんなに困らなそうだけど…。


 そういえば、昔はゲームとかも好きでやってたな。最近は忙しくて時間が取れなかったけど。…そういえば、俺は何歳なんだ?さっきの美少女も中学生くらい、いくら上に見ても高校生だったけど、かなり年の離れた兄妹だったのか?俺の感覚的にはもう10年くらいゲームもできてないし、学生の頃はゲームするくらいの時間はあるでしょ。つまり、妹とは10以上年齢が離れてるってことだ。


 …いや、そもそも俺の職場ってどこだ?仕事の内容は?車の運転の仕方は覚えてるけど、そもそもどこに向かえばいいのか分からない。…俺、詰んでる?って、こういう時こそスマホを見ればいいんじゃん!職場の連絡先やら上司の連絡先くらい入ってるでしょ!最悪取引先とのメールのやり取りとかが残ってれば十分だ!


 …パスワードって何?ベタなのは誕生日とかだけど、自分の誕生日なんて知らないよ?せめて顔認証とか指紋認証とかないの?…電子機器って記憶喪失の俺に厳しいんだな。もっとバリアフリーとかユニバーサルデザインとかにしてよ!!

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