第9話

 映画を見た後軽くウィンドウショッピングをしていると、ずっと歩いていたせいもあって佑月は徐々に疲れていっていた。

 あまり無理はさせられないと壮太が言うので、この日はこれでお開きだ。

 時間は午後の六時過ぎ。解散にはまだ少し早いが、体調面があるので仕方ない。

 自然に手を繋いで、ショッピングモールを出る。

 今日はデートらしいデートができて楽しかった。色々ドキドキしたけど、それも含めて初めての青春に胸が躍っている。またデートしてもいいな、とも思えた。


「壮太くん、わたしに元気があったら、また行こうね。次は……そうだ、これからさらに暑くなるし、服でも買いに行こ?」

「ああ。けど夏休み始まるしな……部活ない日、事前に送っとくよ」

「うん」


 部活がない日に加え佑月の体調も良くなければ行けないが、それでもまた行けるんだと嬉しくなる。


「――お、電車来たな。うわ、人多い……。しんどかったらもたれ掛かってくれていいからな」

「そうさせてもらうー」


 ぎゅうぎゅうの電車に乗ると、もたれ掛かる以前にほぼ密着状態になった。目の前には、壮太の厚い胸板がある。彼が守ってくれたらさぞ頼れるんだろうな、なんて考える。

 五駅程度、十分足らずで着く距離とはいえ今日は沢山動いたので疲れてきた佑月は、壮太に軽く体重を掛ける。


「疲れた」

「沢山動いたもんな、お疲れ」

「でも楽しかったよ」

「ああ、俺もだ」

「ふあぁ~……」

「危ないから寝るなよ?」

「大丈夫。そこまで眠くはないから」


 そうして少し休んでいると、壮太は迷った末に、佑月の髪を撫でる。撫でられるのは好きなので甘い声が出そうになるが流石に電車の中なので我慢して、佑月は忠美を委ねた。



 最寄り駅に着き、二人は十字路で別れた。

 遊んでいてアドレナリンでも出ていたのか、急に疲れが襲ってきて足取りが重くなる。

 ゆっくりと家に帰っていると、部活終わりであろう由夏が後ろからとんと肩を叩き声を掛けてきた。


「おかえり、佑月」

「あ、由夏ちゃん……」

「デート、どうだった?」

「楽しかったけど……あの映画、狙ってた?」

「そりゃもちろん」


 やはりか、とため息を吐き、映画の感想を伝える。と言っても、気まずかったという感想がやはり一番に出てくるのだが。


「あはは、そうだろうねー。壮太はどうだったの?」

「その、手ぎゅっとしてくれてた」

「ひゅ~、進展してるぅ。これから、大丈夫?」

「まあ、ゆっくり話す程度なら」

「じゃあ家行っていい?」

「いいよ、今日一人だし……あ、そういえば作り置きないんだった」

「じゃあご飯作ってあげるよ。一緒に食べよ」

「うん、ありがと」


 いつも作り置きか出前なので、作ってくれる人がいるのは嬉しいことだ。特に由夏のご飯は美味しいので、何なら咲綾がいない日は毎日来てほしいくらいである。

 家に帰ってからいったん由夏は着替えて佑月の部屋にやって来た。

 いい時間なので夕食の支度をしながら、佑月にデートの事を改めて聞いてくる。


「まあ、楽しかったよ。映画見て、ウィンドウショッピングして。わたしの服とかアクセサリーとか見るのも付き合ってくれるし、体にも気を使ってくれるし」

「あの壮太がねぇ」

「昔は違ったの?」

「ショッピングとかはあんま行きたがらないタイプだったから」


 由夏曰く、昔の壮太はどちらかと言うと行く場所も自分で決めるタイプで、彼女が主体になる買い物なんかはあまり乗り気ではなかったらしい。何なら、由夏の時は買い物にはあまり付き合ってくれなかったとか。そう考えると、相当愛されているのだろう。

 お試し期間中とはいえ、嬉しいものだ。まだ正式な彼女になりたいかと言われると少し迷ってしまうが、改めて告白されれば、今度は少なくとも一度断る、なんてことはないだろう。


「佑月、なんか嬉しそうな顔してんじゃん」

「ちゃんとわたしを見てくれる男子って、初めてだから」

「そっか……」

「それに、由夏ちゃんみたいに普通に話してくれる女子も」

「あはは、あたしはただ人の恋路に突っ込んでいきたいだけだよ?」

「でも、なんて言うか、面倒見いいし、利用しようだとか嫉妬だとか、そういうのないから」

「まあ佑月ちゃんに変な嫉妬心とかないし。むしろ一緒にいて私も落ち着くから、あんまり仲悪くなることしたくないからさ」

「由夏ちゃん……」


 なんだか心が温かくなった気がする。恋心――ではないのだろうが、由夏に対しても壮太に近い感情を抱いていた。二人も親しい人が出来た、それだけでも心の支えになる。


「んでー、佑月は次のデートの予定とか入れたの?」

「ううん、まだ。向こうの部活もあるし、こっちの体調もあるから」

「そっか、夏休みに離れるってことにならなきゃいいけど」


 由夏曰く、友人の何人かが夏休みにうまく予定を合わせられず、そのまま疎遠になってしまったらしい。


「ま、誘えるうちに誘っておくことだねー」

「由夏ちゃんも、夏休み遊んでくれる?」

「もちろん。あたしはどうせ夏休みに部活出る気ないし、基本的に暇だから」

「じゃあ、夏休みの課題一緒に進めようよ。あと、夏休み中お姉ちゃんの予定がいっぱいらしいから、何もないときとか、家に来てくれたら嬉しいな」


 夏休みは暇だし、何より予定が入らないと心も体も鈍ってしまう。去年はせっかく回復していたのに夏休み中家に籠っていて一気に症状がぶり返した。せっかくできた友人だ、数年ぶりに、楽しく遊びたい。いや、遊ぶ。

 そう決意して、二日後。ついに夏休みが始まった。

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