第3話 学園祭のコスプレイベント
「ごめんね、こんな目のせいで……。龍世にまで迷惑をかけて」
義眼を気にするように、薫が髪を撫でる。俺はそのしぐさを見るたびに、血に染まった彼女の顔を思い出して胃が苦しくなる。
高校へ入学してからだいぶ時間が建ったが、誰も俺と薫に話しかける生徒はいない。
「いや、俺は気にしてないよ」
「だって私を助けたせいで、中学も高校も友達が出来なくなったし」
かつて彼女を慕う人達がいなくなり学校で孤立していた彼女を、俺が献身的に支えていくうちに、俺も友達も離れていった。
「薫が変になって離れる友達なんて、俺には要らないよ。薫は気にしないで。俺は薫が元気になって欲しいから好きでやってるから」
そんな俺と薫との生活に変化があったのは、高校一年の頃に参加した学園祭の時だった。
「……結構、人が多いよね」
「まぁ、学園祭だからなぁ。気持ち悪くなったら遠慮せずに言ってくれ」
薫は、俺の背中に隠れる様にひっついて学校内を歩く。
この日のメインとして、学級委員長の
学園祭の七川たちのコスプレショーは、まるで本物の舞台みたいに盛り上がっていた。
七川が主人公の衣装で堂々とステージに立つ姿は、普段の委員長からは想像できないほど輝いて見えた。
「私もこんな風に人前に立ちたい……でも、私なんかにできるのかな」
薫はそう呟いた後、 義眼を隠すように前髪を整えた。隠しきれない不安が、彼女の表情に滲んでいた。だが、俺にとっては真っ暗な夜道に一筋の光が見えた気がした。
彼女がこんな言葉を出すなんて、久しぶりだった。あの事件以降、人前に出るのすら怖がっていて俺のそばにいないと引きこもるほどに弱っていた。にも関わらず、 今日は違った。もしかしたら、コスプレを通して元に戻るかもしれない。俺は驚きと期待を膨らませて提案する。
「なぁ、このイベント終わったら七川達に聞いてみようか?」
「でも、私なんかが……」
薫が自信なさげに呟くのを見て、俺は首を横に振った。
「いやぁ、まさか薫さんと武岡くんが私のコスプレショーに興味を持って話しかけてくれるとは思ってなかったよ!だったら、一緒に私と次のコスプレイベントに参加してみない?」
コスプレイベント終了後の楽屋にて、俺と薫は七川に声をかけたら快く受け入れてくれた。
「だったら、次のイベントに一緒に参加しようよ!」
七川は目を輝かせながら手を握り締めて言った。
「大丈夫、薫ちゃん。私がぜーんぶサポートするから!! 絶対楽しいって!」
「俺も薫だって絶対できるよ。俺がそばで手伝うからさ」
薫は少しだけ微笑んだ。
「……うん。じゃあ、やってみようかな」
その一言に、俺はほっと胸を撫で下ろした。薫があの事件以降、自分から殻を破ろうとしているのが何よりも嬉しい。もしかしたら、俺も彼女もこれがきっかけで友達が増えるかもしれないし、昔のような明るくてかっこいい彼女に戻るかもしれない。
これ以降俺と薫は、七川のコスプレイベントの手伝いを通じて仲良くなっていた。
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