第28話 如月照VS白井・ホワイエット・優

「粛清」


 白井の投げ掛けに、俺はノータイムで応じる。白井は「ふっ」と息を漏らし、グラスを置いた。


「熊田さんと鎌元さん。2人とも、君がったんだね?」

「ああ、そうだ」


 タンッ!


 直後、漆黒のテールコートの内側から1丁の拳銃が引き抜かれ、銃弾が発射される。


 俺は軽く首を傾げて直撃を回避、背後で何かがパリンッと割れた。


「当たるわけないか。でも反応速度は把握した。君、Aランクだろ。ははっ、驚いたな。Aランクの時点で彼らを殺していたのなら今頃はSランクに届いているハズ。そうなっていないということは、低レベルの状態であの2人を殺してみせたのか」

「あの2人の頭が悪かっただけだ」

「それで、粛清っていうのはどういうことかな」

「あ? そのままの意味だが。贋物がヒーローを騙るんだ、殺されても文句は言えないだろ」

「……ぷっ。はっ、はは、あはははははッ!! なるほど、そういう感じね。あー、でも何となく分かるかも。性格って人相に出るって言うしね。君さ、そんなにピュアで生き辛くはない?」

「余計なお世話。今度は俺から聞かせろ。お前はどうして人を殺す。いや、動機は分かっている。快楽を得るために殺す、そうすることでしか快楽を得られないから、そうする以外の術を持たない」

「? 分かっているのなら、質問をする意味がないんじゃないかな」

「あるよ。我慢しようとは思わないのか?」

「は?」

「お前が欲望を我慢すれば、それで済むことだった。400人以上もの人間の命が失われることもなかった。人間には理性がある。それを放棄した存在は、俺は猿と変わらないと思う」

「随分と調べてくれたみたいだね。しかし待ってほしい。よくよく考えてみなよ、どうして僕が我慢しなくちゃならないんだ? 君だってお腹が空いたらご飯を食べるだろう? 眠くなったら眠るだろう? 他の人はそうやって欲求を満たすことを許されている。発情したら性行為をして鎮められるわけだしさ。要するに、欲求を解消するというのはそれこそ人間が当たり前のようにやっていることだ。それをしない人間なんて、そんなの機械的すぎて逆に怖いよ」


 平行線か。

 分かりきってはいたことだ。


 この手の人間と理解し合えるなんて最初ハナから思ってないし、万が一分かり合えたとしても殺すことには変わりない。


 俺はグラスの中身を一息に飲み干した。

 毒の類が含まれていないのは【神眼】で視えている。


「グラスの中身が空になったら始めよう」

「おっ、いいねソレ。ハリウッド映画みたい」


 それから俺は拳銃を取り出して、天井に向けて構えた。


「……なんのつもりかな?」

「お前がグラスの中身を空けたらシャンデリアを撃つ。真っ暗になればお前はスキルで紛れることができる」

「意味が分からないんだけど」

「お前の得意でってやると言っているんだ。それでも俺が勝つ」

「ふうん。ちょっとイラっとしちゃった。でもまぁ、僕は大人だからね。苛立ちに任せて怒鳴ったりとか、そういう子供みたいな真似はしないであげるよ。怯えさせるのも可愛そうだし。それに、今の段階で楽しんじゃうとせっかくの焦らし・・・が台無しになってしまう。運が良いね。君は僕の趣向のお陰でサクッと死ねる、おめでとう」


 白井がグイとグラスを傾けて、白ワインを飲み干した。同時に、俺は拳銃でシャンデリアを撃ち抜き。


 パリィンッ!!


 視界が黒一色に染め上げられた。

 イギリス風のインテリアやタペストリーで飾られたリビングが、闇に呑まれる。


「それじゃあ、始めようか」


 そう言って、白井がスキルを発動した。


「へぇ」


 なるほど。

 【神眼】を発動した状態だと、こんなふうに視えるのか。


 確かに溶けている。

 黒に一体化し、黒そのものになっている。

 黒の中に潜っているとも言い換えられるな。


 だが視えている。

 全て、何もかも。

 この神の眼を前に、暗黒の君主のスキルは何ら意味を成さない。


 ただしステータスは別だ。

 ステータスの暴力で迫られれば、俺に勝ち目はない――そのハズだった。


 ステータスの差で小細工を無為にされ、俺は死ぬ。

 それが本来の起こり得る正しい未来だ。

 しかしそうはならない。


 右からのナイフが一閃。

 俺はいとも容易く回避する。


「ん、避けられた? いや。まさかね」


 左からの攻撃も簡単に避けることができた。

 黒に紛れて、四方八方から刺突攻撃が繰り出されるが……まるでお話にならない。


「バカな。なんで当たらない。どうなっている!?」

「やっぱり対策するまでもなかったな」


 俺は白井の右腕を掴んで、鳩尾に肘鉄を食らわせた。


「ぉぐっ?!! が、はっ!!」


 白井がガクッと膝をつく。

 ステータスに結構な差が生じていても、急所への直撃は相応にダメージを受けるようだ。それも当然、だからこそ急所と呼ばれている。


「ふっ!」


 俺は右足を振り上げ、白井の顎を粉砕する勢いで蹴り上げた。


「ガッ!?!??」

「俺からすれば、お前はシルバーズシリーズだ。挙句、急所を責めればちゃんとダメージを受けてくれる。やり易いことこの上ない。経験値ご馳走様って感じだな」

「ふっ、ふぁけるナ!!」

「お、顎ブチ割れたか? 活舌終わってんぞ」

うぅひゃいうるさいじゃまレだまれ!!」


 そしてまたもや繰り出される刺突。

 

 そう、これが白井・ホワイエット・優という人間の弱点欄表記外に存在するもう1つの弱点。


 俺は爺ちゃんの言葉を思い出す。


 

 ――強さは一朝一夕じゃつかんぞ。

 ――確かに武器は人を強くしてくれる。でもそれに頼りっきりのヤツは弱い。覚えておけ!



「白井。お前の敗因を教えてやるよ」


 俺は白井の鳩尾に銃口を突きつけ、引き金を引いた。


 パンッ!!


「がふっ!」


 神の眼でステータスを確認するも、まだHPは0になっていない。流石はSランク、いい感じだ。仮に今ので死にかけてもポーション飲ませて回復させるけどな。


 ちゃんと後悔・・させないと、粛清の意味がない。


「お前さ、スキルに頼りすぎなんだよ。鎌元のほうが圧倒的に強かったぞ?」


 なにせ6000回近く殺されたからな。

 擬似的に、ではあるが。


「なんでお前みたいな雑魚が7位なのか理解に苦しむ。兄の七光りか? だとしたら滑稽だな。七光りがあっても7位止まり。それってさ「お前は弱い」って言われてるのと同義だとは思わないか?」

「はっ、が、あ。な、にゃんで。こ、ひょんなことガ……」

「言っただろ。お前はスキルに頼りすぎなんだ。動きがてんで素人、攻撃も単調で分かり易い。たぶん寝不足の状態でもボコボコにできる」

「ふじゃぇんにゃあ!! ぼ、ぼ、ぼぅを、僕を誰だと――」

「頭の狂った快楽殺人鬼。それだけだ。そしてその報いを受ける時がきた」


 ガッ!!!!!


 今度は顔面に渾身の膝蹴りを入れてやる。


「ぶガ?!!」


 次は人中に一撃。

 喉を潰し、白井の背後に回り込む。


 上着をまさぐると、やはりスティレットナイフが隠されていた。


「俺に飲み物を差し出す際に忍ばせていたんだろう。でも残念、俺には全部「視えてる」んだよ。なにがヒーローだ、ふざけるのも大概にしろよ」

「ぃっ、#$)0”1~~~!??」


 もはや言葉にならない言葉を上げる白井。

 だが、痛がっているのだけは分かる。


 なにせ大好きなスティレットナイフが、今は自身の胸部に差し込まれ、内側の肉をグチャグチャと抉ってきているわけだからな。


「随分と痛そうじゃないか」

ひゃぅ#て助けて

「断る」


 ザグ、グリグリ。

 ぐちゃ……ぐちょ、ヌチャ。


 不愉快な音が暗闇に溶けていく。

 俺は何度も何度も、まるで自宅の鍵を開けるときみたいに、スティレットナイフの柄を回転させ、白井の体組織を破壊していった。


「どうだ、今までしてきたのと同じことをされる気分は」

「ぁグ! あ――ぉぇ。なさィごめんなさい

「それは俺に向けるべき言葉じゃないだろう。そしてお前が殺してきた人間はもうこの世界にはいないんだ。あとは分かるな? お前は死ぬしかない。それ以外で罪を償う方法なんてないんだよ」


 ぐちゃ……ゴリ、ゴリ。


 刃先が硬い感触を捕らえた。

 なにか筋のようなものに当たっている。


 俺はさらに奥深くにスティレットナイフを押し込み、やがては柄を握る指先までもが傷口に侵入していった。


「~~~~~ッッ!!!!」

「ああ、気持ちが悪い。心底気持ちが悪いよ。こんな感触で悦楽に浸っていたお前のことが心の底から気持ち悪い。なんでお前みたいのがヒーローを名乗る?」

「が……ヤ、め」

「お前のせいでヒーローが穢れる。ヒーローが踏みにじられる。俺の中の理想のヒーロー像が、マックスマンが、母さんとの思い出が……全てが蹂躙されていくんだ。許せるワケがない」

「…………」


 もはや声は無く。

 聞こえるのは、血が滴る音だけだった。


 ポタポタ……ポタポタ。


 それでも俺の蹂躙は終わらない。

 傷口に、右手が完全に侵入する。

 そのまま爪を立てて、内側から破壊する。


 骨を掴んだ。

 全力を込めて圧し折った。


 メキッ――!


 部分的に背骨だろうか?

 神経もろとも逝っただろう。


 もはや声は無い。

 あるのは血の滴る音と、不愉快な感触だけ。


「そろそろか。白井――今頃は後悔しているだろう。快楽のために人を殺すだなんて、そんなことしなきゃ良かったと。心の底から後悔しているだろう? もしそうなら、頑張って頷いてみせろ。それができたら最上級ポーションを飲ませてやる。まだHPは0になってない。Sランクのお前の耐久力があれば、死だけは回避できる。死ぬまで車椅子生活は免れないだろうが」


 俺は救いを差し伸べる。

 白井にとっては、天高くから垂れた雲の糸。


 白井はゆっくりと頷いた。

 その姿は――俺が視たあのときの光景とそっくりだった。


 白井は力なく頷き、地面を睨むよ・・・・・・うに項垂れた。・・・・・・


「よく出来ました。じゃあ、死ね」

「…………っ!!」


 俺はスティレットナイフを逆手に握る。

 渾身の力で白井の首に突き刺した。


 静寂。

 鮮血が迸る。


「~~~~~~~~~ッ」


 直後、白井の全身が吊り上げられた直後の魚のように仰け反り、ビクビクと激しく痙攣して、藻掻き、足掻き、のたうち、腐敗した人体の一部がそうなるときみたいに、ズルりと力なくくずおれた。


 【神眼】がステータスを映し出した。

 HPは0/235。


 これで3人目の粛清が終わった。


「次はお前だ、首を洗って待っていろ――」


 ヒーローランキング第7位、齋藤二郎。

 死神の鎌は、既にお前の喉元だ。

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