プロローグ ◇◇






 人生の中で、

 一番わかっているようで、

 実は知らないもの 

 それはきっと、自分自身だ。





 俺自身のことで言うなら、

 そうだな、明るくて、誰とでも仲良くなれる話しやすいやつ?

 とっつきやすくて、大体おちゃらけていて、悩みなんかなさそうで?

 自分で言うのもなんだけど、大体そんな感じなんじゃないか。




 だから俺は、俺が、だなんて思ってもいなかったから。


 ため息と共につぶやいた。


 「あの……、さ。——重いんだけど」



 —— ここは小塔の中。

 小塔とは塔の上層部にくっつくように隣接された、いわゆる装飾のためのモノであり、円形の狭い室内は実務的とは言い難い。ちょっとした物置か、せいぜい子どもの秘密基地ぐらいにしか、なり得ないだろう。

 しかし、今見えている部屋は違っていた。

 金色の藁に埋め尽くされている。刈り取ったばかりのいい香りが立ち込めている。その藁のところどころに、鳥の羽毛、ふかふかの苔が混じっていた。壁には何種類もの香草が掛けられている。


 俺は巣の中で仰向けになっていた。

 大人の男がすっぽり入るサイズの、金色の藁で出来た鳥の巣のような形。

 穀物のような匂い——彼女の羽の匂いが、藁の香ばしさに絡みつく。


 そして、俺にのしかかるようにして、四つん這いになっている


 ——シェノリス。


 「ってかよけるべきは俺か、はは……」

 


 よりによって、《シェノリス》の巣の中にいる。

 たかが人間ごときがこの巣の中に入るだなんて、世界広しと言えど俺くらいなものかもしれない。

 両手を挙げていたが、無礼を詫びるポーズにしては不恰好がすぎていた。

 それに俺は、詫びというよりはむしろ降参していた。

 この萌葱もえぎ色の、きれいな生き物に。


 シェノリス。

 人間の肉体に、羽と被毛を持つ彼女は、俺にのしかかるようにして、四つん這いになっていた。

 アーモンド形のきれいな黄色の瞳が、至近距離で俺の目をじっと見つめる。

 射抜くほどまっすぐだ。

 その癖は、相手をしどろもどろにさせるだけだと、今朝も再三話したはずなのだが。

 

 「ハズ」

 

 俺の名を告げる唇がやけに近く感じた。

 肩から垂れた黄緑色の巻毛が、砂漠育ちの俺の褐色の肌の上を行き来するのが妙にくすぐったい。


 「さっきの言葉、どういう意味」



 どういう意味、と聞かれましても。

 俺だってそんな——あんなことば、

 言うと思っていなかったから。







 人生という旅路の中で、

 まっすぐ広々とした目抜き通りを歩いてきたはずなのに

 いつの間にか路地裏に迷い込むことだってある。

 ふとショーウィンドウの前に立ってみろよ、

 思いもよらない自分が表出することだってある。

 でも、そうだな。

 暴いたのはあんたでもあるって自覚はあるんじゃないかな。




 そうだろ、————。

 





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