51〜

第51話 あえて発動してみちゃえばよくない?


 

 少しの休憩を挟んで、4階層攻略を開始する。

 西園寺も東條も、未だ余裕を残した表情で頼もしい限りだ。

 


 しばらく進むと、モンスターを発見する。

 骸骨がいこつがそのまま歩きだしたようなアンデッド、スケルトンだ。 


 

「BOOOOO……」



 皮膚も筋肉もない白骨で、もちろん声帯も持っていないだろう。

 にもかかわらず、地獄の底から這い出て来たような声が聞こえた気がした。

  


「お~! 声がお化け屋敷よりリアルだね」   

 

「そうね。私ももっと怖い感じと思ってたけど、案外に普通だわ」


 

 二人にも、スケルトンの声は聞こえていたらしい。


 目隠ししていても、西園寺はダンジョンワームに拒絶反応を示していた。

 だが、スケルトンには怖がっている様子はない。

 

 虫はダメだけど、おばけ系統は大丈夫らしい。

 クッ、俺の計画が一つダメになってしまった。



『きゃっ! ……ご、ごめんね雨咲君。おばけが怖くて。……怖くないように、雨咲君の雨咲君、握ってもいい?』

 

    

 ――いやダメでしょ!



 ……脳内西園寺よ、そこは“手”じゃないのか!?

 まったく、西園寺は現実でも脳内でもエッチなんだから!


 

「――見たところ1体だけね。それなら脅威じゃないわ。倒してしまいましょう」 


      

 東條の提案に、否はなかった。

 東條と二人で、スケルトンへと向かっていく。



「BOAAAAA」


 

 スケルトンがこちらに気づいた。 

 低く唸るような声を上げて威嚇いかくしてくる。



「はぁっ!!」


 

 片手剣で切り込む。

 スケルトンに反応され、盾で受け止められた。

 

 力づくで押し込もうとするが、中々押し切れない。

 骨だけの身体のくせに、どこにそんな力があるんだよと愚痴ぐちりたくなる。

  

 

「BOOOOOO!」 

   

 

 相手も、ショートソードで攻撃してきた。

 同じように、こちらも盾でしのぐ。


 うっ、手に、衝撃が、結構来る……。 

 理不尽!


 だからっ!

 何で骨しか無いくせに、そんなに威力あるんだよ!


 俺だって、毎日ぼにゅ――じゃなかった。

 いちご・オレと、飲むブルーベリーヨーグルトでカルシウム摂取しまくってんだぞ? 

 足りない、もっと沢山飲まないとってことか?

 

 ……ならお前のせいで、俺が二人の胸をじかに吸うことになったらどうすんだ、あぁん!?

 


 ――ありがとうございますっ!! 



 スケルトンの動きが止まった隙を、東條がきちんと突いてくれた。

  

 

「ナイスっ、雨咲君っ! ――せぁっ!!」 


 

 大きく振り上げた両手剣を、力いっぱいに叩きつける。

 スケルトンは頭蓋骨から足先の骨に至るまで、一撃で砕け散った。

  

 まるでボーリングのピンが吹き飛んでいくように、バラバラになっている。

 

 ……だが、まだ骨の残骸は光の粒子とならない。



◆ ◆ ◆ ◆


  

「……コアを壊さないとね」



 足元に落ちた黒い球体を、東條が剣先でつっつくようにする。

 スケルトンの胸骨きょうこつに守られていたものだ。 


 そう。

 アンデッドのスケルトンは、核を破壊しないと倒したことにならない。

 これで勝利したと思い放置していると、時間経過で復活するのだ。


 

 それを知らない冒険者も、まれにいるらしい。

『新たに遭遇したモンスターと、復活したスケルトンの挟み撃ちになって、危ない目に遭った』という話はたまに聞く。



「あっ、東條さん今のダジャレ? 『コアをこわさないと』って!」


 

 西園寺がやってきて、クスクスと東條の発言を拾っていた。

 


「えっ? ――あっ、いやっ、あの、ちっ、違うの、今のは!」



 そしてダジャレを言ったつもりが全くなかった東條さん、珍しくテンパってます。

 あわあわと弁明してる東條さん、可愛い。

  


コアは物理でも、普通に破壊できるらしい。けど――」   

     

  

 チラッと二人の表情を窺う。

 西園寺も東條も、それだけではピンと来ていないらしい。

 先を促すように、小さく相槌を打ってくれる。


 ……これは東條も知らないのか。



「アンデッドは【光属性】に弱いだろ? で、その核も同様に【光属性】が弱点なんだ。だから【光属性】の攻撃で破壊すると、どうやら“質の良い魔石”が落ちるらしい」



 換金を待つ間に読んでた、ギルド会館の冒険者雑誌で知った情報だ。

  

 すると、二人の表情が驚きと感心の混じったものに変わる。   



「へぇ~! そうなんだ、知らなかった!」


「私もよ。それは、冒険者科高校の授業でも習わなかったわね」



 お~やった。 

 西園寺と東條の尊敬ポイントが1ポイント上がった気がする。

 これが恋愛シミュレーションゲームなら、もう西園寺も東條も告白イベント待ったなしだな。 

  

 雨咲塾は机上きじょうの勉強にとどまらず、実戦的な知識も養えます!

   

 

「――ってことで。西園寺先生の出番です、お願いしますっ!」



 三下の腰巾着こしぎんちゃくっぽく、低姿勢に頭を下げた。


 西園寺も、自分の役割にピンと来たらしい。 

 尊大に、そしてとても偉そうに胸を張った。

 

 ……うわっ、西園寺、その胸の動きはエッチ法違反スレスレだよ。

 


「フォッフォッ。まあまあ君たち、この偉大な私に任せたまえ」


 

 存在しないひげを撫でる仕草も、何だか凄く嚙ませ犬っぽい。

 噛ませ犬西園寺も可愛い。


 犬のコスプレとかしたら似合うだろうな、西園寺。


 肌の露出多めな際どいコスプレ衣装をした、ドッグ西園寺が脳内に出現する。 

  


『ご主人様。構ってくれなきゃ寂しいわんっ。撫でて撫でて! ――きゃんっ……あ、雨咲君。そこは、敏感な所だから、優しく触って欲しいわんっ』



“そこ”って“どこ”なんだ西園寺ぃぃぃ!!


 うん……これは明確にエッチ法違反ですね。 

 西園寺、どれだけ罪を重ねれば気が済むんだ……!

 


「――【ホーリーショット】!!」



 超至近距離から、西園寺はコア目掛けて魔法を放った。

 黒い宝石のような球体は浄化されるように、見事に消滅する。


 そして、綺麗な魔石が落ちていた。  



「うわっ、凄いよこれ!」



 西園寺は目をキラキラさせ、拾い上げた魔石をすぐに俺たちへと見せてくれる。

     

 

「本当に綺麗……――さっ、流石です先生! よっ、日本一!」 



 魔石の質を確認した後、東條はハッとしたように西園寺先生をヨイショする。

 三下の太鼓持ちやってくれる東條さん、超可愛い。

 慣れないノリでも一生懸命やってくれてるところが、ギャップがあって凄く可愛かった。


 通常よりも明らかに魔石の質は良さそうで、換金時が楽しみである。




「ありがとう、ありがとう! まぁ、ワシが力を使えば、こんなもんじゃよ」



 偉ぶってるくせに、一人称が安定しない西園寺先生も可愛かったのだった。



◆ ◆ ◆ ◆



 その後も、スケルトンと2度遭遇した。

 1体ずつしか出現しなかったため、同じように連携して討伐。 

 もちろん西園寺先生にご登場をお願いし、浄化魔石を追加でゲットできた。

 

 そしてまたしばらく歩いていると、初めての出来事に遭遇する。



「……あっ、トラップだ」   



 特に意識していなかった所に、違和感が視界へと入ってきた。

 岩壁に、直径30㎝ほどをしたスイッチのような突起がある。

 

 明らかにそれだと気づける物だった。



「Eランクダンジョンだと流石に分かりやすいね」


 

 西園寺も警戒心は緩めずに、罠を興味深そうに観察する。

 

 

「……なるほど。複製コピートラップね、これは」



 東條はすぐにその脳内から、該当する情報を引き出してくれる。 

 見辛いが、でっぱりの表面には、デフォルメされたモンスターのような絵があった。

 その矢印の先は、同じデザインのモンスターが2体になっている。


 言われてみると、確かに自分の知識にも当てはまる情報があった。  

 

 

「あ~。押したり踏んだりすると、一番近くにいるモンスターが増えるんだっけ?」



 もっと高難易度のダンジョンになると、やはり足元などに隠して配置されているらしい。

 そして気づかず踏み抜き、知らぬ間に強力モンスターが増えている、というトラップだ。 



「ええ。でもここはEランクダンジョンだし、仮に押してしまってもそこまで危なくはないと思う」



 東條の見立てを聞いて、一つの提案をする。



「……じゃあ余裕がある今の内に、一回経験しておくか? どんな感じなのか、実際に見ておくのもアリだと思うんだが」


「私は良いと思うよ」


「……そうね。『気づいて余裕がある場合、解除しておく』のも冒険者としては大事な心掛けだもの」



 二人からは特に反対されることなく、同意してもらえた。


 東條が言ったのは、要するに。

 冒険者間でのマナーとか、教訓とか、思いやり的なものの一種だろう。

 教習でも、聞いた覚えがある。


 後から来る冒険者は、もしかしたら罠に気づかないかもしれない。

『かもしれない探索』が大事らしい。


 なので余裕があれば、前を行く冒険者が解除しておくことがベターだ。 

 そういう互いの配慮や気遣いの元、冒険者という存在は成り立っている。


 ……まあ自分のできる範囲で頑張ろうってことだ。 

 


「うわっ、大きな虫がいる!? ……あっ、ダンジョンワームっ!? 増えるの!?」



 都合よく、モンスターの姿が見えた。

 つまり複製コピーされるのは、ダンジョンワームということになる。


 それが事前に分かっただけでも、心の準備が全然違った。

 ……虫嫌いの西園寺も、ある意味で全然違うだろうけどね。   

   


「よしっ、それじゃあ押すぞ――」



 二人が頷くのを見て、スイッチへと手をかけた。

 力を入れてゆっくり動かすと、スイッチは簡単に奥へと進む。

 スイッチが、ピタリと岩壁にはまった。


 

 ――すると、スイッチがあった場所の周囲に、魔法陣が展開される。



「あっ、ダンジョンワームの下にも、魔法陣が出てるよ!!」



 西園寺の声で振り返り、指さす方へと視線をやった。


 確かに、ダンジョンワームを囲うようにして。

 同じ光の色、同じ模様の魔法陣が展開されている。



 魔法陣がブレたかと思うと、横に同じ魔法陣がズレて二つになった。

 そしてその上には、横の個体と瓜二つのダンジョンワームが増えていたのである。



「うぅぅ……虫が、増えたね」



 バッチリ増えましたね~。

 西園寺は、やはり生理的に受け付けないという顔をしている。


 ……怖かったら、俺に抱き着いても――えっ?


 

  

「ZYUZYUUUUU――」  

  

 

 元個体オリジナルのダンジョンワームが。

 口の部分から泥土を吐き出した。

 

 

 ――しかも俺たちへ目掛けてではなく、複製体コピーに対して。



◆ ◆ ◆ ◆



 一瞬何が起こったか分からなかった。


 オリジナルとコピーの。

 存在を、一つしかない陽だまりを賭けた戦いでも始まったのかと思った。

 

 

 ……だが、そんな展開では全くなかったのである。



「あっ、嘘ッ、あれ“糸”なの!? まゆを作ってるの!?」


   

 東條も、目の前の光景が信じられないという声だった。 

 オリジナルが吐き出した泥土は、コピーの身体の周囲をどんどん覆っていく。


 まるで巨大な泥団子でも作っているような工程に見えた。


 それは東條が言葉にしたように。

 まるで“蝶へと至るためのさなぎ状態”を、コピーのために作っているみたいだ。

 


「っ!!」



 ――なにをオリジナルとコピーで、熱いパワーアップ展開作ろうとしてんだ!!



 させねぇよ!?


 まだまだ泥団子が形成されるまで余裕がある。

 そして仮に泥団子ができてさなぎになったとしても、蝶へと羽化するまでも、またさらに時間があるはずだ。

  

 だがすぐに、2体のダンジョンワームへと駆け出す。



“ダンジョンバタフライ”というモンスター名が頭をよぎった。

 それは、Cランクダンジョンから聞くことになる名前である。


 “こんな方法でなれる可能性が実はありました”なんて、そんなの聞いてない。 


 状況的には余裕がありまくりで、ゆっくり対処したとしても全く問題ないだろう。

 むしろこういう想定外の事態を経験できていることこそ、当初の予定通りと言えた。


 だが、それでも理不尽な怒りはフツフツと湧いてくる。

 こいつら、焦らせやがって、許さん……!!

 


「【ホーリーパワー】!!」



 後ろから、西園寺の援軍が届いた。

 温かい光に覆われ、いつもよりも力が湧いてくる。    



「――【強撃】!!」



 スキルの出し惜しみもしなかった。


 片手剣の刀身が、スキルの光によって強く輝く。

 そこへさらに、西園寺のくれた光が上乗せされた。

 

 泥糸を吐き出し続けるオリジナルへ、無慈悲な一撃をお見舞いする。



「ZYUZYU――」



 特殊行動中は、キャンセルも回避行動もとれないらしい。

 

  

「お前も、コピーも、ここで死ぬんだよぉぉ!!」


 

 まったく状況を知らない人が聞いたら、悪役とでも勘違いされそうなセリフを吐いて。

 コピーのために、泥土の噴出を止めないダンジョンワームを切り裂いた。

 

   

「――せあっ、やぁっ!!」



 そして隣では。

EPエナジーポイントを使った東條が、怒涛どとうの攻撃を繰り広げていた。

  

 まるで親のかたきでも取るように、未完成の泥土まゆを一人で破壊していく。

 東條の周囲には、あふれ出る生命力のような流体が見えていた。

 一撃一撃の威力が、普段の比ではない。

 

EP使用状態の凄さを、改めて東條を介して認識できたのだった。



 耐久性がありそうな、乾いた泥土のまゆを。

 EP状態の東條は、瞬く間に削り取っていった。


 そして中にいたコピーの姿が、再び露わになる。

  


「これで、終わりよっ!!」  

 


 ゲームなら秘奥義カットインでも出そうなくらい、気迫のこもった声である。


 東條は。

 無防備になったコピーのダンジョンワームを、必殺の威力でもって倒したのだった。



――――

あとがき

前話で50話到達の際、お祝いの応援コメントを沢山いただきました。

ありがとうございます!


エッッッ報告も含めて、いただける応援コメントは大変励みになっております!

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