第27話 3人でダンジョンに行っちゃえばよくない?
今日もまた、魔の月曜日を迎えてしまった。
なぜ人は争うのか。
なぜ人は愛し合えないのか
なぜ人は月曜日なんて概念を持ってしまったのか。
悲しい。
悲しいよ俺は。
月曜日だって、生まれてきたことを誰かに憎まれるなんてかわいそうだ。
だから、さ。
今日は月曜日の誕生を祝って、“月曜感謝の日”という祝日にしないかい?
人はすぐにありがたみを忘れる生き物だ。
無くなって初めて、かけがえのない大切なものだったことに気づく。
そうならないためにも。
定期的に、月曜日への感謝を思い出す日があったっていいじゃないか。
なあ、そうだろう、あんた?
ダメなのかい? 少しくらいならいいじゃないか、ほんのちょっと、さきっちょだけ……そうか、ダメか。
……すまない。長々と話してしまって悪かった、俺の結論を言おう。
――月曜日よ、消えて無くなれ。
「3連休、マジで充実してたわ~!」
「俺も俺も! 別の学校の女子と合同ダンジョンデートしたぜ? 最高だったぞ!」
「いいなぁ~。今度は絶対俺も誘ってくれよ?」
教室にやってくると、リア充たちが休日の成果を楽し気に共有している。
現実逃避に、脳内で洋画の吹き替えごっこをしている俺とは大違いだ。
仲間と会える月曜日が楽しくて楽しくて仕方ないらしい。
クソッ。
そんなに月曜日が好きか。
なら俺の月曜日くれてやるからさ、お前らの土曜日俺にくれよ。
何なら日曜日をもらってやってもいい。
それくらい嫌なんだよ。
あいたたた……頭が痛い。
「――へぇ! 西園寺、Fランク試験に受かったのか。おめでとう!」
雨の日の低気圧頭痛みたいな、月曜日頭痛に悩まされていると。
一際ハイテンションな驚いた声が聞こえ、思わず頭プッチンプリンしかける。
「あはは。ありがとう。でも、大野君のBランクに比べたらまだまだだよ」
「そんなことないさ! 大きな一歩だろ」
どうやら登校してきた西園寺と、大野君ら一軍グループが話しているようだ。
特に大野君の声が大きく、嫌でも耳に入ってくる。
「――で、その別の学校の子とパーティー組むことになったんだけど。その女の子がまた凄く綺麗でね!」
西園寺の声も聞こえてくる。
だがその声は清涼剤のようで、ガンガン痛む頭に優しくとても心地いい。
……ごめんね大野君、プッチンプリンしそうになって。
でももう大丈夫。
悪いのは、陽キャのテンションをあげてしまう月曜日なんだ。
そうだ、おかげで真の敵を思い出せたよ。
会話の内容的に、西園寺が話しているのは“東條”のことだろう。
しきりに美人だと褒めていた。
「……へぇ~そっかそっか。西園寺、パーティー組んだんだ。おめでとう」
聞き役に回った大野君や男子たちから、西園寺に軽く祝福の言葉が贈られる。
だが同じ男子だからこそ、そこには若干含みのニュアンスがあるのを聞き逃さなかった。
意中の女子と同じパーティーになれなかったことを、本気で強く残念がっていると同時に。
でもその相手が西園寺と同じ女子らしいので、何とかまだ折り合いがつけられてホッとしている。
……そんな微妙な心境が読み取れたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
現実逃避ならぬ月曜日逃避に、クラスメイトで人間観察を続けていた。
適当なところで切り上げ、手持無沙汰にスマホを取り出す。
「ん?」
すると、メッセージが届いていたのに気づいた。
送り主は、昨日新たに登録されたもう一人の女子である。
『おはよう、雨咲君。東條です。午後の予定を確認したいのだけど、いいかしら?』
西園寺とは対称的。
全く絵文字のない事務的な感じだった。
普段の東條が。
あまり感情を表に出さない女性なのだということを、改めて再認識する。
……これでメール上では“おっは~!”とか“きゃぴぃ~”とか言ってくる女子だったら、それはそれで衝撃だけどね。
『うっす、東條。雨咲です。午後の予定を確認するの、OKです。授業が終わり次第ダンジョンに向かいます。4時までには到着できるかと。西園寺にも確認お願いします』
送信後、文面を見返して若干後悔する。
東條につられて、堅苦しい文章になってしまったか?
女子とのメールってどんな感じでしたらいいんだっけ……。
ヤバい、コミュ力0が即バレしてしまったかもしれない。
だがすぐに返事が戻ってきた。
『……会社の事務連絡かしら? 何でそんなよく分からない他人行儀なの? 確認するのはいいけど……。西園寺さんと雨咲君、一緒のクラスなのよね? なら雨咲君が確認した方が早いと思うけど』
あっ、やっぱり堅苦しい感じに伝わってたっぽい。
いやぁ~言葉だけのコミュニケーションって難しいね。
『メールは、二人の間の障壁、物理的距離なんて超えてしまうんだ。だから俺と西園寺の距離、東條と西園寺の距離。そこに違いなんてないんだよ、東條』
『それでも、あなたが西園寺さんに確認しない理由にはなってないでしょうに。……まあ私から確認しておくからいいけど』
スマホ越しにだが、東條がジト目で
それは、ほらっ。
クラスカーストのド底辺、もしくは戦力外の奴が。
いきなり1軍トップの西園寺に話しかけるとか、あれじゃん。
そう、あれあれ。
あれでそれがこれだから、ああなってこうして、それなわけ。
だから控えてるんすよ。
……しかし、その後の休み時間中。
『東條さんから予定の確認来たよ。授業終わったら、現地集合でいいんだよね? それと、教室での雨咲君の様子を知りたそうだった。“雨咲君ってクラスでどう過ごしてるのかしら?”ってなんだか心配してたよ?』
その1軍トップさんから、可愛い絵文字付きでメールが来たのだった。
どう過ごしてるって……言及することが無いほど何もしてないんだよ。
間接的に、女子二人から心をえぐられたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「あら、こんにちは雨咲君」
放課後。
集合場所へと到着すると、そこには既に東條が待っていた。
俺の姿を認めて、上品に挨拶してくれる。
紺色の制服姿で、まだ冒険者
「っす、東條。お疲れさん」
手を上げて挨拶を返しながらも、その格好に自然と目が行く。
細いウエストに対して、ブレザーの胸元はとても窮屈そうだ。
ボタンが今にも限界を迎えるのではないかと心配になるほどである。
東條のスカート姿も初めて見るが“そんなに短くて冒険者科高校の制服、大丈夫か!?”と案じてしまう。
まあ確かに、ミニ丈のスカートから覗く東條の脚も、これはこれで芸術だとは思うけども。
「ふふっ。メールだとあんなよそよそしいのに。対面だと、ちゃんと普通なのね」
長く綺麗な黒髪を横から小さくかき上げ、東條は楽しそうに品よく笑う。
バカにされているというよりは、親しい友人をからかっているような言葉加減に聞こえた。
「……いや、実はこれは仮の姿で。真の俺は、何とメール上でのみ姿を現すことができる。そんな
コミュ障という名の、永遠に解呪されないデバフね。
「ふふっ。何それ」
だが軽くあしらわれてしまった。
むぅ~嘘は言ってないのに。
「――お待たせ! 二人とも、ごめんね。また私が最後で」
西園寺も間もなくやってきた。
ダンジョン近くの簡易建物へと移動し、着替えや準備を済ませる。
「……よし。西園寺も東條も。準備はできたな」
「うん、バッチリだよ!」
「ええ。私も大丈夫」
それぞれ冒険者
今日は、東條にとってはある意味でリベンジ戦。
先日俺たちが出会ったEランクダンジョンだ。
「……とりあえず、先に【調教ミッション】を終わらせよう。今日は二人とも、ダンジョン内でやるミッションだから」
西園寺と東條へ方針を伝える。
「わかった」
「ええ。……その【調教ミッション】で得られる“調教ポイント”、だったかしら? それを使って、またパワーアップするのよね?」
東條の確認に、うなずいて補足説明をする。
「昨日も簡単には話したが、【調教ツリー】っていう潜在能力を解放するスキルがある。それを使うために【調教ミッション】で“調教ポイント”を貯める必要があるんだ」
そう説明しながら、二人の左上にある【調教ミッション】を確かめる。
今日はやはりどちらも、ダンジョン内で行わなければならないミッション。
そして報酬が調教ポイントのものだった。
[調教ミッション]
●デイリーミッション
ダンジョン内で主人と5分間、肌を触れ合う
報酬:調教ポイント+100
↓調教Lv.1により調教ポイント+50
報酬:調教ポイント+150
現在00:00.00
― ― ― ― ―
[調教ミッション]
●デイリーミッション
主人と500歩ずつ、ダンジョン内を歩く
報酬:調教ポイント+100
主人
従者
― ― ― ― ―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます