第24話 もう一人増やせばよくない?
「あ、雨咲君! 3000円だよ、3000円!」
西園寺はキラキラした目で、とても嬉しそうに報告してきた。
その両手の上には紙幣が3枚と、小銭が数枚乗っている。
「お~凄い凄い。途中で切り上げたにしては上出来だろう」
初めてのEランクダンジョンということも合わせると、その成果は十分だと思えた。
「えへへ~やったね」
飼い主に褒めてもらえた喜びを表すように、西園寺は
愛くるしい小型犬の幻影が見えた気がして、思わず頭を撫でたくなった。
なんという誘因力、なんという可愛さ。
暴れ出しそうな右腕を何とか鎮め、西園寺が見せてくれた換金の明細に目を通す。
[
20XX/09/24(土)15:33
魔石 金額内訳
1:441円 ゴブリン
2:480円 ゴブリン
3:601円 ゴブリン
4:917円 ゴブリンリーダー
5:930円 ゴブリンアーチャー
合計点数:5
計:3369円
・
・
・
お支払額:3019円
― ― ― ― ―
ほぉ~。
やはりFランクダンジョンよりも、魔石の買取単価が若干だが高い。
しかもリーダーとゴブリンアーチャーに至っては、もう少しで1000円の大台に乗っていたようだ。
確かに拾った魔石はどれも心なしか大きかったし、ズシッと感があったもんなぁ。
たった1度の戦闘だけで、ほぼFランクダンジョンの時と同程度を稼げてしまったことになる。
Fランクの時なんて、1体1体をチマチマ探しては倒すという工程を繰り返していた。
効率性が全然違う。
やはり本格的に稼ぎたいなら、一つでも上のランクを目指すのが王道になるんだろう。
「えっとお金、どうしよう? 崩してきてもいいかな?」
西園寺は紙幣を一枚つかみ、自販機を見て聞いてきた。
すぐに意図を察して頷く。
報酬の2割――約600円を払いたいから、お札を硬貨にしてくるということだろう。
「100円はおまけだ。手数料ってことで、何か好きなジュースでも買ってきたらいい」
「えっと――うん、わかった。ありがとう」
一瞬迷った表情をしたが、西園寺はすぐに返事をして走っていく。
100円程度でどうにかなるほど、浅く
「ただいま――では、雨咲君。どうぞ、おめでとうございます」
何かの贈呈式みたく仰々しい仕草で、100円玉5枚を渡してきた。
「これはこれは。ありがたく、ちょうだいします」
こちらも西園寺のノリに付き合い、腰を低くし両手で受け取る。
「ふふっ。……ありがとう、雨咲君」
何を感謝されたのか、一瞬わからなかった。
最初は西園寺のお茶目に乗っかったことだと思ったが、すぐに違うと察する。
「あ~。“今回はモンスター倒してないのに、私、お金貰っちゃってもいいのかな?”みたいなことは考えなくていいからな」
逆に、西園寺が強くなって同じ様なことになった場合。
俺はモンスター討伐に全く貢献してなくても、ちゃんと契約通り2割貰う。
だから後ろめたさなんかは感じなくていい。
貰える時に貰っておいて。
それをモチベーションに繋げて。
ちゃんと強くなってくれれば、それでいいのだ。
「……うん。雨咲君ならそう言ってくれるよね。だから私も、ちゃんとありがとうって言っておくね」
「……へいへい。どういたしまして」
手をヒラヒラと力なく振って応じ、先に歩き始めた。
真正面から何度も感謝されるのは、やはり慣れない。
西園寺はクスクスと嬉しそうに笑って、後ろからトコトコついてくる。
何が楽しいのやら。
子供のようにつかず離れず歩く西園寺も、やはり可愛かったのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「ぷはぁ~! これこれ! ダンジョン終わりの1杯はやっぱりキマるねぇ~」
ギルド会館の貸会議室にて。
西園寺は腰に手を当て、買ったばかりの紅茶をグビグビと飲んでいた。
あんなに可愛かった西園寺は一体どこへ……。
……いや、一気飲みしようとして全然飲めてない西園寺さんも普通に可愛いな。
「キマるなキマるな。紅茶業界への風評被害が
適当に相手をしつつ、話すべきことを頭の中で整理する。
「えへへ。だねぇ~」
西園寺もツッコミを受けて満足したのか、ペットボトルに蓋をしながら着席する。
数秒だけまったりしていたが、すぐに切り替えた表情に。
「――それで。“今後の方針”についてだよね? どうしよっか」
「……今日、思わぬ形でだが。ダンジョンでの大きなリスクを、現実に見た」
言葉を選びながらも、言うべきことを口にしていく。
「うん。東條さんの件、だよね。ソロは特に実力がないと、何かあった時、凄く危ないと思った」
西園寺も感じたことをちゃんと共有しようと、言葉にしてくれる。
「ああ。俺たちは二人で行動してるから、何かあった時の保険がある。……でもこれは逆に言うと、だ」
「……私か、雨咲君。どっちかがもし何か用事があって行けない、みたいなことになった時。ダンジョン探索できなくなるよね」
西園寺が継いで言ってくれた通りだった。
東條がソロで行ったために現実化したリスク。
あれを正に目の当たりにした当事者としては、やはり“最低二人以上で挑む”という保険・安全マージンをかけたくなる。
だが今は何とかなっているものの、俺がダンジョンに行けない日というのは必ず出てくるはずだ。
その場合、西園寺が休まざるを得なくなるというのでは稼げず酷である。
それは、ひいては俺も報酬を得られないのだから、何とかしたい。
「……でも、そのために“誰かを雇う”ってのは本末転倒だよな」
パーティーメンバーを募集したい場合、お金を払って雇用するという方法も普通にある。
でも今の俺たちの場合は、そもそも他者を雇うだけの先立つお金を十分に持っていない。
それに誰かもわからない相手をその日だけ雇うというのは、“命を預けるだけの信頼関係がない”という別のリスクを背負うことにもなる。
「初期費用がかからなくて、お互い気楽にダンジョン探索に誘いあえて、なおかつ信頼出来る人を増やせれば……だよね?」
西園寺が簡潔に要点を挙げてくれる。
だがそんなうまい話はないだろうなと思っているのが、分かりやすく伝わってきた。
確かに一見すると非現実的に思える。
しかし“西園寺”を見ていると、すぐに閃きは降ってきた。
「……増やすか。
「え? ――あっ!」
◆ ◆ ◆ ◆
スマホを取り出し【冒険者支援アプリ ダンサポ】を開こうとする。
西園寺と面談・契約するにいたったため、停止していた育成希望者の募集。
それを再開しようとしたのだ。
だがその前に、西園寺から控えめな声がかかった。
「……えっと。雨咲君。その、
言おうか言うまいか迷っている、そんな表情に見えた。
「なんだ? なにかあるなら言っておいてくれよ。西園寺の意見ももちろん聞くから」
「なら……その、候補の人って、もういたりするのかな?」
ん?
「いや、いないけど? ……もしかして、誰か推薦か?」
西園寺の態度というか、言い辛そうにしている感じで、何となく察した。
「あ、あはは。うん。――その、最初に
言われてなるほどと思う。
確かにそれは考えてなかったな。
「……あのね? 東條さんの話を聞いてたら、他人事に思えなかったの」
俺が考え込んでいるのを、否定的なニュアンスとでも勘違いしたのか。
東條を推した理由を、熱量を込めて語り出す。
「強くなりたいのに、結果が出ない。周りに、世界に置いていかれているような気分とかになって、凄く孤独なんだと思う。――だから、雨咲君が私にしてくれたように。私も東條さんと一緒に強くなりたい!」
事前に用意していた言葉では到底出せない熱を帯びている。
実感がこもっているのは、西園寺自身も同じ気持ちを味わったことがあるんだろう。
それがちゃんと伝わってきた。
「東條さん、凄く綺麗で美人さんだし、とっても優しくて気遣いのできる女の子だと思うの! 短い時間だったけど、それがわかるくらい、素敵な人だった。あと、脚も長くて凄く綺麗!」
えっ、外見というか、
……まあ確かに高嶺の花っぽい感じで美人だったし、太ももも凄くエッチだったけど。
あと、あの
減点2点!
「あと、あと……」
「いやいや、そんな必死になって考えなくても」
指折りし始めた西園寺にストップをかける。
顔を上げた西園寺はキョトンとしていた。
「えっ?」
「……俺、別にダメとか言ってないからね? ――最初に東條へ話を持っていくくらいは良いんでないの?」
別に応募した順とかじゃないから、それくらいの融通は利かせられる。
話がまとまらなかったら、また候補を探せばいいだけだし。
「あ――うん! ありがとう、雨咲君っ!!」
西園寺は飛び上がらんばかりに喜びを露わにする。
まだ東條がどういう反応をするかわからないのに、もう話が決まったみたいな盛り上がり方だった。
「じゃあ、えっと。私も見たあの応募内容をメールに添付して、東條さんに送ればいいよね?」
「えっ、連絡先交換してたの!?」
いつの間に。
……まあでもそうだよね。
連絡手段がないと、そんな話を切り出さないか。
その後。
西園寺が何度かメールや電話でやり取りし。
明日の日曜日。
ちょうど西園寺と契約して1週間となる日に。
東條と面談をすることになったのだった。
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