第2話 離婚

 家に帰ると、珍しく妻がダイニングに座っていた。私が帰る頃合いには自室に戻るので顔を合わせるのも半年、いや一年ぶりぐらいだろうか。無言のまま自室に行こうとすると、「分かってますよね」と妻が話しかけた。久しぶり過ぎてまるで他人の声のようだ。まあ、もう他人のようなものだが。十年以上家庭内別居を続ければそうだろう。「ああ」と答えると、書類を差し出した。全く話すことのない夫婦だが、暗黙の了解として、定年退職後の離婚は確定事項であり、この書類は財産分与の書類だろう。手に取って目を通すと、大枠想定通りであった。自宅は元々、妻の両親の援助で購入したものなので、妻が所有する。投資物件は折半。現金は妻、退職金は私。想定と異なるのは退職金が無い事であるが。「承諾してくれたら、慰謝料とかいらないから。あとマンションは売って現金を折半でも良いけど、それだとお困りでしょ。夏までに500万円払ってくれたら権利は放棄するわ」

 こちらもすべてバレているようだ。もしかしたら退職金が無いことも。完全に詰められて反論の余地も無い。放心したようにサインをして渡す。「あと四月には出て行ってね。ここは売るから」職どころか家も失うことになってしまった。

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