貞操逆転世界のレーサー prototipo

#52

プロローグ

第1話 運命のカウンターステア

 何もかもいつも通りだった。

 いつも通り足らない参戦資金。

 足らないスペアパーツ。

 騙し騙し使っているエンジンとモノコック。

 そして雨と霧。


 ここは富士大日本レースウェイ。

 一キロ直線の後、三十度バンクのコーナーカーブに入ってそのまま外周を回り、ヘアピンに入るなんて、世界に類を見ない位頭のおかしなサーキットだ。


 死んだ奴を数えるのに人の指じゃ足りない。

 なのにクソッタレなレース運営者は客が入るからとレイアウトを変えようとしない。

 客寄せパンダの俺たちは今日もここを走っている。


「ソウ! インターミディエイト小雨用のタイヤじゃ無理だろ!」

 

「入ってこい! レインタイヤ雨天用のタイヤを準備してある!」


 自己資金と友人たちからのカンパで、なんとか食い繋いで参戦していた下位カテゴリのツーリングカー市販車の改造車クラスレースでの戦績と走り方が評価された。

 特に雨のレースでの際立つ戦績が良いと言う事で、世界スポーツカー耐久選手権の最上位クラス、グループワンのシートを辛くも手に入れた俺は、スポーツカーと言うにはあまりにも大きく、そして凶暴な形をした車で。

 今日も地域柄が相まって酷くなる一方の雨と霧の中、暴れる車体をねじ伏せながら走っていた。


 さっきまではインターミディエイトで頑張れとか言ってたのに都合のいい事だ。

 どうせチームオーナーの気まぐれに監督が付き合わされたのだろう。

 まぁ良い、死ぬかもしれない確率が多少下がるならそれに越した事は無い。

 さっさとタイヤ交換して危ない橋から降りよう。


 そう考えて、早速ピットインの為にコース脇へ逸れたら……よりにもよってピットの入り口近くでクラッシュしているバカが3台も居る!

 ピットインどころじゃない。こりゃSCセーフティーカーだな。(重大なクラッシュが発生した時等にコースへ入りレースをコントロールする車の事、そして大体の場合はセーフティーカーだ、とかセーフティーカーですね、と言う言い回しをする時はレースが一時中断となる事を意味する。)


 そう考えて哀れな三人と三台を横目にホームストレートへ戻ろうとした。


 ……おかしい、最終コーナー出口のシグナルがグリーンのままだ。

 アクセルを踏むしかない。全開だ。


 雨と霧の中で下手にスピードを落としていたら、後ろから来る車に何をされるか想像したくも無い事になる。

 とは言え同時に別の想像したく無い事も頭に思い浮かんできた。

 雨足が明らかに強まっている。

 水たまりができている。


 インターミディエイトじゃいつハイドロハイドロプレーニングを起こしてもおかしく無い。

(水が膜を形成し、タイヤを浮き上がらせる現象の事。アクアプレーニングとも呼ばれる)

 実際さっきからその兆候がうっすらと現れていて、タコメーターの動きが不自然に一瞬高まったりしている。

 

 何とかそれに動きを合わせて誤魔化しているがそれにも限界がある。

 チームオーナーには嫌味の一つ所では無い文句を言われるだろうが、死ぬよりはマシだ。

 ストレートのイン側に寄ってレコードラインから外れてペースを落とそう。


 そう考えた所で俺の人生の運は尽きたらしい。

 人間の対応限界を超えた速度で跳ね上がるタコメーターの針。

 ハイドロプレーニングが起きたはっきりとした証だ。

 さっきまでのごまかせるレベルじゃない。

 リカバリーは諦めて、とにかく死なない様に止まれる様に最善を尽くす。

 マシンは真横を向き、カウンターステアは当てられるだけ当てている。

 だけど姿勢は制御し切れない。

 真横を向いたままホームストレートを暫く滑走した後、想像の通り、実際そうはなってほしく無い事が起きた。


 要はクラッシュした。


 ホームストレートの内側のガードレールへ、左斜め前から思い切り突き刺さる!


 フロントカウルが吹き飛び、車の内部構造が剥き出しになる。

 左タイヤが押されてステアリングが切れなくなる。

 その状態でストレートのレコードライン上までピンポン玉の如く弾き飛ばされてしまった。


 ――いくら何でも止まった場所がヤバすぎる、一刻も早く動かさないと。

 チームラジオからはさっきからやかましく何かを言ってきているがそれどころじゃ無い。


 タイヤがバルクヘッド(車内と車外を隔てているフレーム)まで干渉しているらしい、抵抗になっているせいでアクセルを踏んでも車が動かせない。


 最悪だ。

 そして最悪に最悪は重なるらしい。


 真横を ”運の良い” 誰かが一台走って行った。

 うまい具合に俺の事をウォータースクリーンで隠しやがった!


 晴れろ! 晴れろ! 晴れろ!

 クソッタレが! オンボロのモノコックは全体的に歪んだのかドアが開けられない。

 逃げられない!

 ベルトはもう外した! あとは外に出てガードレールの外に飛び出すだけなのに!


 開かないドアを拳が砕けるかも知れない事も構わず殴り続けるが、こんな時に限ってびくともしない。

 ひどい時は締まりもしない事もあった奴の癖に!


 そうこうしている間に”お迎え”が来た様だ。

 見慣れた丸目4灯のヘッドライト、それが一瞬で近づいて来る。

 必死に避けようとコントロールしているが、どうみてもあいつは避けられない。

 最後の瞬間、よりにもよってチームメイトのカーナンバーがチラリと見えた。



 すまん。



 人殺しにしちまって……本当にすまん。



 それが今生での最後に口から溢れた言葉だった。







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