第2話 設定への文句

 馬車の揺れに身を任せながら、春人はどうにか現状を把握しようと周囲を見回していた。

「これ、王都行きなんだってね?」


「ええ、村で手に入れた馬車だけど、すごく揺れて気持ち悪いわ。こんな移動方法もテンプレよね」


「俺は別に文句ないけど、いい加減飽きるんだよな。なあ、春人。まさかお前、転生してすぐこんなステレオタイプな展開に放り込まれるとは思わなかっただろ?」


 「正直、何が何だか。まあ、異世界ってことならこんなもんだと思ってたけど……」


春人は額を押さえ、外の景色を見ようとする。

緑の森が続くばかりで、道路すらままならない。

時おり車輪が溝にはまり、大きく揺れるたびに頭がぐらぐらする。

「でも、この世界観ってみんな嫌なのか?」


そう尋ねると、リリアがむっとした表情で振り向いた。

「嫌っていうか、もう見飽きたのよ。弱小王国の王女とか、飽き飽き。せめて魔法学院に通う天才少女とか、そっちの方が映えそうじゃない?」


「俺はどうせ魔王とか言われて、世界征服を狙う役になるんだろ? 毎回薄っぺらい設定で戦わされるのもごめんだ」


ヴォイドが腕を組み、車内の天井を見上げる。


 そのとき、控えめな声が割り込んできた。

「わ、わたしなんて、どうせ村娘とか小間使いとか……いつもモブみたいな立場ですよ。ほんと、1回こっきりの登場で終わりそう」


それはモブ子だった。

村で見かけたときも遠慮がちだったが、今も帽子をぎゅっと握りしめている。

「別に嫌いじゃないけど、私だってもっと目立ってみたいな、なんて……」


「目立つには作者に主張するしかないさ」


「作者って……本当にそんな実体があるわけ?」


春人は話題についていけず、目を白黒させる。


 「あるっていうか、私たちが文句言うと世界が変わるでしょ? あれは作者が設定をいじるからよ。そもそもキャラに不満が出るって時点で、作者が楽しい物語を用意してない証拠だと思うの」


「たしかにな。俺たちがこうやって勝手に文句つけてるのも、いまいち盛り上がらないからだろ」


 「でも、こんなファンタジー世界でも、けっこう魅力はあると思うよ?地球じゃ味わえない魔法とか、竜とか……普通に胸が躍るんだけど」


「竜が出るにしたって、どうせどこかで見たような描写しかないんじゃないの?古臭い城下町とか、決まりきった魔法騎士団とか……定番すぎると逆に退屈なのよ」


「うう……私なんて、登場しても道端の人Aとか、そんな扱いよ……」


 「まあまあ、せめて今は前向きに……」


春人がなだめようとしたところ、馬車が大きく揺れた。

「わわっ、何か轍にでも嵌まった?」


リリアが車窓から頭を出して確認しようとする。

重くきしむ音が耳に響き、馬の嘶きが聞こえた。

「どうせこんな移動手段も、絵的に面白くないわね。もっとド派手な旅の仕方があればいいのに」


「そうだな……少なくとも俺は、もうちょっと迫力ある役どころにしてほしい」


 「それこそ、作者に直接交渉できれば、いくらでも変えてもらえるんでしょうか……」


「そうね。なんなら今すぐにでも文句言いにいきたいわ」


ヴォイドも意外と乗り気な様子で、腕を組んでうなずいた。

春人は嫌な予感を抱きながら、どうにか収集をつけようと口を開く。

「ちょ、ちょっと待って。流れ的に危ない方向じゃない?」


「危ないかどうかは、この先のストーリー次第でしょ?やりたいように文句言わなきゃ、どうせ盛り上がらないのよ」


嫌な汗が背中に伝うのを感じながら、春人は馬車の揺れに身を任せるしかなかった。

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