魔導士団合同訓練①
オルフ達が白魔導士団に加入してから一ヶ月の月日が流れた。
王都の郊外にある、広大な訓練場。
ここは普段、王国軍や各魔導士団が実戦訓練を行うために使用している施設であり、実戦さながらの環境が整えられている。
その訓練場に、この日、王国の六大魔導士団の若手たちが集まっていた。
「うわぁ……思ったより人がいるな」
白魔導士団の一員として参加したエリオット・グランツが、周囲を見回しながら呟く。
「まあね。若手を集めての合同訓練なんて、なかなか機会がないし」
同じく白魔導士団の一員であるシエナ・フォルティスが肩をすくめる。
白魔導士団から参加したのは、オルフを含めた五人。
1.オルフェウス・ナイトフォール(男性)
2.エリオット・グランツ(男性)
3.シエナ・フォルティス(女性)
4.リリア・フローラ(女性)
5.ライナ・アルヴェール(女性)
この五人は白魔導士団の中でも特に有望な若手とされ、今回の合同訓練に参加することになった。本来はイリスが参加する予定だったのだが、何か別の用事があるとかで参加を見合わせたため、オルフが参加することになった。
オルフがひと月前に魔導具屋で杖を手に入れてから、白魔導士団の一員としての日々はそれなりに充実していた。
ミラは魔法がまだ不安定で、実戦訓練には参加していないものの、聖堂での修行を通じて徐々に力をつけている最中だった。
代表する六つの魔導士団――白(治癒)、赤(戦闘)、青(召喚)、金(錬金)、紫(占術)、黒(幻術)。それぞれの団から、若手の魔導士が集まり、総勢二十数名が訓練場に揃っていた。
ただし、黒魔導士団だけは、例外だった。
本来ならば各団から五人ずつ若手が集められるはずだったが――黒魔導士団からは、たった二人しか来ていない。
「黒魔導士団、やっぱり少ないな」
「まぁ、あそこはな。二人来ているだけでもすごいんじゃないか……」
そんな囁きが、あちこちで交わされる。
黒魔導士団は、六大魔導士団の中でも異質な存在だった。幻術を主とする彼らは、赤と並び個人主義の傾向が強い。
普段から単独行動を好み、組織としての統率力に欠けると評されていた。
(……これが噂の黒魔導士団か)
オルフは軽く辺りを見渡しながら、集まった魔導士たちを観察していた。
各団の特徴がはっきりと出ている。
青魔導士団は、ローブの上から異形の精霊を象ったアクセサリーを身につけ、いかにも召喚士らしい雰囲気を醸し出している。
金魔導士団は薬瓶やスクロールを腰に下げ、科学者のような出で立ちをしていた。
紫魔導士団の面々は、不気味なまでに静かで、無駄な会話をほとんど交わしていない。
黒魔導士団は――あまりにも目立たない。黒のローブを纏った二人の魔導士は、他の団とは距離を取るように佇み、ほとんど存在感を感じさせなかった。
そして、赤魔導士団の若手たちは多くが杖だけでなく戦士のような剣などの装備を身に着けていた。
その中に、ひときわ目立つ金髪の青年の姿があった。
グレン・フォン・バルフォード。
王都で最初に相手をした、あの貴族のバカ息子。
(……また面倒なのがいるな)
オルフは眉をひそめた。
あのパレードの日、彼を叩き伏せて以来、直接顔を合わせる機会はなかったが――
どうやら、グレンも赤魔導士団の一員として合同訓練に参加しているらしい。
今のところ、向こうはこちらに気づいていないようだが、見つかれば確実に突っかかってくるだろう。
(余計なトラブルはごめんだが……)
軽く溜息をつきながら、オルフは視線を逸らした。
「それじゃあ、そろそろ始めようか」
訓練場の中央に立った三人の人物が、若手たちを見渡しながら口を開いた。
赤魔導士団 副団長 ガイル・ロックウェル
青魔導士団 副団長 ロウガ・ヴァルデン
金魔導士団 副団長 エミリア・グレイスフィールド
三人の副団長が、この合同訓練の進行役を務めるようだった。
訓練場に集まった魔導士たちの前に、青魔導士団副団長ロウガ・ヴァルデンが立つ。
身のこなしは軽やかで、鋭い眼光を持つ精悍な青年。青魔導士団らしく、彼の肩には淡く輝く魔法紋が刻まれた召喚士のローブが掛けられている。
「さて、みんな集まったな」
彼が声を上げると、自然と周囲のざわめきが収まる。
ロウガは一同を見渡しながら、はっきりとした口調で続けた。
「今回の合同訓練の目的は、今年開催される魔導士対抗戦に向けた戦力の強化と士気の向上だ」
魔導士対抗戦――それは、数年に一度開催される、六大魔導士団による大規模な競技会。各団が誇る魔導士たちが技を磨き合い、名誉と権威をかけて競う由緒ある大会。
「とはいえ、いきなり手合わせをさせるわけじゃない。まずは、各団の連携力と実地での対応力を試すことから始める」
ロウガは訓練場の東側を指さした。
「訓練場の東には、影待ちの森が広がっている。ここには魔力を持つ植物や小型から中型程度の魔獣が生息しているが、今からお前たちにはその森へ向かってもらう」
若手の魔導士たちの間に、わずかな緊張が走る。
「今回の課題はシンプル。森のどこかに生える
錬金術の材料としても珍重されるが、生息地が限られており、普通に探すだけでは見つけ出すことは困難。
「ルールは簡単だ。各団ごとに協力し、できるだけ早く戻ってこい。戦闘は禁止しないが、無駄な衝突は避けろよ?」
ロウガの言葉に、参加者たちは互いに視線を交わした。団同士の競争が前提とはいえ、油断すれば思わぬトラブルに巻き込まれる可能性もある。
しかし、その空気を一変させるかのように。
「おいおい、甘えたこと言ってんなよ」
低く、挑発的な声が響いた。
その声の主は、赤魔導士団副団長であるガイル・ロックウェル。鍛え抜かれた体躯を誇る、粗野で豪快な男だった。
「どうせこいつらには
ガイルは不敵な笑みを浮かべながら、腰に吊るした小さな木製のタグを指で弾く。
生命の栞。
持ち主が生命の危機に瀕した際、自動的に統括する副団長へと警告を送る魔導具。今回の訓練においては、万が一に備えて各団員に配布されることになっている。
「じゃあ思う存分殺し合えや、なぁ!」
ガイルが吠えると、赤魔導士団のメンバーたちが雄叫びを上げた。
「おおおおおおおッ!!」
地響きのような咆哮が訓練場に響き渡る。まるで戦場にでも向かうかのような熱狂に、他の魔導士たちは圧倒されたように息を呑む。
「……この野蛮な平民上がりが」
ロウガが舌打ちし、低く毒づく。彼の表情には、露骨な嫌悪が滲んでいた。
「やれやれ、これだから赤魔導士団は……」
隣にいた金魔導士団副団長エミリア・グレイスフィールドも、軽蔑するような目でガイルを見やる。彼女は溜め息混じりに艶やかな黒髪をかき上げながら、ぼそりと呟いた。
「戦闘狂の集まりとは聞いていたけれど、ここまでとはね」
そのやり取りを見ていたオルフは、静かに息をついた。
(……おいおい、本当に大丈夫か? これ)
元々、各団のカラーが違うのは知っていたが、ここまでハッキリと衝突が起きるとは思っていなかった。
オルフは無意識に、肩にかかる白いマントの襟を軽く引き上げた。
……どうやら、この訓練、単なる課題探索では済まなそうだ。
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