第4話 SF 第3・4戦 MOTEGI

 スーパーGTから1週間後、休んだのは月曜日だけで火曜日からチームに合流した。初日はスポンサーや関係者へのあいさつ回りである。弱小チームとしては大事なことである。今年から大手の建設会社がスポンサーについてくれているので、朱里のイメージを大事にしなければならない。にこやかな雰囲気をかもしださないといけないので、時々朱里は疲れることがある。ホテルの部屋に入るとムスッとしていることが多くなった。

 金曜日、朱里の機嫌がよくない。ブレーキの調子が悪いのだ。MOTEGIはSTOP&GOのサーキットなので、ブレーキのトラブルは致命的だ。人前ではにこやかな表情をしているが、ピット裏ではぶすっとしていることが多かった。マネージャーの凛さんは、そんな朱里がメディアに見られないかと心配だった。

 土曜日、先週の岡山とはうってかわっての晴天だ。最高気温は28度にまで上がるという。まるで初夏だ。タイヤに厳しくなるかもしれない。

 午前の予選では、無理をしない走りに徹した。監督の野島パパからは

「無理なアタックはしなくていい。一番まずいのはマシンを壊すことだ。ポールタイムは1分30秒になるかもしれない。となると、108%枠に入るには1分37秒で走ればいい。そのタイムなら今のマシンでもだせる。コーナーでは早めのブレーキでいいぞ」

 と言われた。朱里は(アタックできないのか)と不満気だ。でも、チームには1台しかマシンがない。スペアパーツはT社が融通してくれるが、他のチームみたいにスペアマシンがあるわけではない。

 結果、予選はトップから6秒落ちとなった。ぎりぎりセーフである。今までにないスピード差なので、ファンには失望感を味わわせてしまったが、トラブルを抱えていては仕方がない。

 午後の第3戦。第1コーナーで波乱が起きた。中団の2台が接触。それを避けようとした3台がオーバーランをしている。そこを朱里は最後尾からコースを見定めて抜いていく。22位から一気に17位に上がった。すぐにSC(セーフティカー)が導入となった。SCあけが問題だ。

 4周目SC解除となった。後ろから3台がせまる。すぐ後ろには新人の大林がせまっている。同じT社のマシンを使っている。新人には負けられない。だが、ブレーキはまだ不調のままだ。思い切ってブレーキを踏めない。アクセルワークで何とか持ちこたえる。

 6周目のS字。大林に並ばれた。こうなるとブロックできない。上りの加速で負けて18位に下がった。

 7周目のS字からV字コーナーにかけて、残り2台にも抜かれた。加速の鈍さを見透かされてしまった。

 11周目、タイヤ交換のためにPIT IN。他のマシンも入ってくる。監督からは

「これでいい。無理はするな。完走が絶対条件だ」

 と言われた。SFでも完走ねらいの安全運転かと思うと、朱里は口をへの字にしている。ヘルメットをかぶっている時は、どんな表情をしてもメディアには撮られない。凛さんだけが知っている朱里の顔だった。

 25周目、バックストレートでオイルフラッグがでている。(オイルか?)と朱里は思ったが、無線で「何か落下物だ」という連絡がはいった。たしかに下りのところで、何かが落ちている。何か紐状のものだ。

 28周目、優勝候補のH社がマシントラブルで停まっている。ここまでランキングトップのマシンだ。後で聞いたら、例の落下物をひっかけたということだ。ついてない。落下物はコース脇にある埋め込まれているTVカメラのコードだったという。オーバーランしたマシンがひっかけていったのが、抜けてしまったようだ。1台だけの責任ではないようだ。コース脇にTVカメラを設置するのが問題なのかもしれないが、オーバーランする方も問題だ。

 結果、第3戦は19位で終わった。完走はできたが、不満ありありの朱里であった。


 日曜日、第4戦。今日はくもり空だ。最高気温は25度までいかない。春らしい天候ともいえる。

 午前の予選。昨日よりブレーキの調子はいい。でも、無理はしない。目標の1分35秒台をめざす。結果、1分35秒776を出すことができた。Q2にはすすめないが、まずは予定どおりだ。ピットにもどってきて、朱里はメカの大木さんに声をかける

「ブレーキよくなっていたわ。安心して踏めるもの」

「はい、徹夜でブレーキを交換しました。今は少し眠いです」

 という返事に朱里は笑顔を返していた。その様子を見て、監督の野島パパも微笑んでいる。前回の鈴鹿ではメカのミスで順位を落としただけに、ピット内の雰囲気がよくなってきているのは救いだ。

 2輪のレースを終えて、いよいよ第4戦の決勝だ。予選最下位に変わりはないのだが、今回は手ごたえがある。福田がピットスタートになったので、ひとつグリッドがあいている。そしてスタート。またまた第1コーナーでアクシデント。朱里の目の前でインコーナーからとびこんできたマシンがアウトのマシンにまともにぶつかった。それに3台がからんでオーバーランをしている。朱里はすんでのところで、かわした。危機回避能力の高さはだれもが認めるところだ。(スピードがでていないから避けられるんだ)と、陰口をたたく人もいるが、今回はまさに神技のステアリング操作だった。

 SC導入。無線で「朱里、タイヤ交換だ!」と監督が騒いでいる。今回は最初からピットレーンがあいている。続々とピットレーンに入っていく。朱里も最後尾で入る。8台はそのままホームストレートを駆け抜けていく。ある意味でバクチだし、2台体制のチームは同時に入るとタイムロスになる。朱里のチームは1台だけなので考えることはない。

 2周目、ある意味大きなアクシデントが起きた。朱里はV字の手前でポールのT社の3番のマシンを抜いたのである。右後ろタイヤがぐらついている。(ポールなのにかわいそう)と朱里は思ったが、後でバトルをすることになるのである。

 5周目、SC解除。3番はタイヤを換えて最後尾につけている。朱里は18位。3番は21位にいる。

 9周目、3番が朱里の後ろについた。バックミラーにちらちら映る。コーナーごとにラインを変えて抜こうとしているが、同一周回なので簡単に抜かせるわけにはいかない。バックストレートでスリップにつかれ、インに3番が入る。だが、朱里はラインを守り、インをおさえた。3番が退く。観客席からどよめきが起きる。朱里は優勝候補をおさえたことで身ぶるいがした。監督も無線でなんか騒いでいる。どうやら「すごい!」と言っていたようだが、よく聞き取れなかった。監督のどなり声は何を言っているかわからない。

 10周目、メインストレートで3番に並ばれ、第1コーナーであっさりパスされた。やはりポールシッターは速さが違う。

 19周目、全車がタイヤ交換を終えて、後半が始まった。朱里は一時15位にまでポジションを上げていた。だが、歴戦のメンバーはやはり速い。朱里の弱点はS字である。ここで抜かれることが多かった。パワー不足もあるが、ラインどりの課題もあった。インをおさえていてもアウトから抜かれることもあった。まだまだ力不足だ。

 26周目、大林が第1コーナーでストップしている。どうやらタイヤトラブルだ。これで17位にあがった。後ろに3台いる。この3台と後10周の戦いだ。ペースは悪くない。

 結果、朱里は17位でレースを終えることができた。ビリではないことで、ファンやスポンサーにアピールできて、監督の野島パパは喜んでいたが、朱里はあまり喜べなかった。後ろ3台は何かしらのトラブルをかかえていたからだ。本当のバトルがしてみたいと思っている朱里であった。


 イタリア・イモラのWECでは小田が苦戦していた。朱里の代わりに出場したエイミーは代役を見事にこなしていたが、接触トラブルがあり、優勝したF社に追いつけず、5位で終わった。ハンディがきついのもあるが、マシンそのものが古くなってきているのも否めない。


 次戦は1週間の休みがあってゴールデンウィークに富士で開催されるスーパーGTである。高速サーキットで朱里は好きなコースである。3週続けてのレースがあるので、まずは休養である。

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