13 嫁取り当日

〜嫁取り当日〜


とうとう本日で嫁取りはおしまい。

もうすぐ白いドレスとベールを羽織った女性参加者達が、ここへと集団でやってくる。

そしてこの未開拓地を見て回るのだが、その間、俺達男性参加者達は自分の建てた家と皿の上の貢物を必死にアピールするのだ。


それに興味を惹かれると、女性参加者達は立ち止まってくれるので、今度は自分の皿の中のモノを差し出すのだが、ここで受け取ってもらえれば仮婚約成立。

そのまま皿の上のモノを次々と差し出しては、それを受け取ってもらい、その後は家へとご招待する。

そして、女性が家に入ってくれれば正式な婚約が成立だ。


そのまま卵下ろしの儀式に突入して朝を迎えれば、結婚成立となる。


その後は愛の証である赤ちゃんが入った卵が玄関に置かれているので、卵は女性がその家で育て、男性は家に食料や資源を生涯届け続けるというわけだ。


周りの皆はソワソワしながら、髪をとかしたり服の埃を丹念にとったりと、少しでもよく見せる様に努力していた。

俺も勿論最低限綺麗に……と、髪を撫で付けたが────直ぐ近くにアレンという圧倒的存在が側にいるため、その手も止まる。


……いっそ今までの仕返しに、ドドリアンの実を体に擦り付け、アレンの側に立ってやろうか。



<トドリアンの実 >


サッカーボールほどの大きさのトゲトゲしたフルーツ。

中身はまろやかで美味しいが、とにかく外皮が臭く、近づくのすら嫌がる。



フッ!と薄暗い気持ちが顔を出すが、そんな事をしてしまえば、意地悪アレンと同種になってしまう。

首を振って、自分を綺麗にする努力をし続けた。


「これよりお嫁周回、開始しまーす!男性参加者はアピール準備を開始してくださーい!」


先に到着した教会の神官達が俺たちの居住場所に来て宣言をしたため、その場に緊張が走る。


とうとう来た!この時が……。


ドキドキしながら、お嫁さんの到着を待つと……白いベールをはためかせ、それはそれは美しい女性の集団がゾロゾロと到着した。


「おお〜……。」


「う、美しすぎる〜!」


男性参加者は、全員ポケ〜としながら白いドレスの集団を見つめ、勿論俺もそのあまりの美しさに見惚れてしまう。


その中でも先頭を歩く女性は特に神がかりな美しさを持っていて、歩く姿はまるで女神の様に神々しい。

しかもその外見にふさわしく、仕草の一つ一つも洗練された上品さを感じる。


お嫁候補ナンバーワンのアンジェ様だ。


まさに高嶺の花……いや、天上の女神様の様。


「うわぁ〜……。」


これを見れただけでも参加して良かった。

そう思うほど煌びやかな女性集団を見つめていたが、他の皆んなは直ぐに独自のアピールを直ぐに開始する。


「俺は手先が器用でーす!アクセサリーなどなら、誰もが羨むモノを作れまーす!」


「俺は火属性魔法が得意なので〜お肉の焼き具合は誰にも負けませーん!レア、ミディアム、なんでもあれ!」


キラキラ光るアクセサリーをこれでもかと女性集団に見せたり、お肉を焼いて目を惹こうとする参加者。

他にも、それぞれの強みを全面に出してくる参加者達だったが、女性達の目は真っ直ぐアレンを見つめていた。

それに伴って、当然真隣……というか、穴である俺の家はアレンの家にめり込んでいる形で存在するため、注目を集めるが……。


「えぇー……ここ、アレンさんの家のゴミ穴じゃない?」


「変な匂いする〜。カビ臭〜い!早く行こ!」


サササー!と足早に去っていくお嫁候補達を見て……見事にトドメを刺された俺は、その場に崩れ落ちた。


清々しい程の完敗……。

男としてダントツ最底辺……。


ここまで完璧な敗北を知れば、もはやアレンがどんなにキラキラしててもどうでもいい。


こうして人生って、一つ一つ自分ってモノを受け入れていくんだろうな……。


人生を悟り、俺はゆっくり顔を上げてアレンが立っている場所を見た。

するとアレンは、作業台の様な机の上の前に巨大な霜降り肉をデンっ!と置く。


「あの大きさ……光沢……脂身の形……。間違いないわ。ドラゴンの肉よ!」


キラっ!とお嫁候補者達の目が光る。


ドラゴンと言えば、見たら終わりと言われるほどのすごく強い厄災レベルのモンスターなのだが……アレンは、まるでそこら辺の虫を払う様に倒してしまう。


以前、邪魔だと言う理由で倒した時など、その死骸はこの国で一番偉い王様に献上され、お城にご招待されたのだが……アレンは無視した。

激怒した王様は、なにやらおっかない報復をすべく兵士を差し向けたのだが、それもまさに虫を払うかの様にアレンによって一全滅。

真っ白になって立ち尽くす王様やお偉いさんに向かい、アレンは淡々と言葉を掛けた。



「邪魔。消えろ。二度と顔を見せるな。」



それから一切の音沙汰がないため、王様達は忠実にアレンのお願いという名の命令を聞いている様だ。

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