9 お嫁候補ナンバーワン
流石に母さんやレアに聞けないもんな……。
困ってしまってガリガリと頭を掻いたが、多分何とかなる。……多分。
腕を組みながら考え込んだが、とりあえず何かをすると次の日の朝、赤ちゃんが産まれてくる卵が家の前に置かれていると……。
この<卵下ろし>こそ、女神の奇跡の一つ。
ちなみにこの卵は、愛が深いほど数が多いらしく、今までで最多は五つだそうだ。
「卵の数によっては食い扶持が増えちゃうから、それも考えないと駄目なんだよな〜……。 」
そのせいで子供を養えなくなった男がヘルフィールドに送られたこともあったので、お嫁の数は慎重に選ぼう!と学校でも嫌というほど聞いた。
大きなため息をついたその時────大神官様は、突然端に寄りゴホンッと咳払いをする。
「それでは、今年参加するお嫁候補より開会の花撒きをしてもらいましょう!
────では、お嫁候補者の入場です!」
ワッ!!!と歓声が上がる中、ズラズラと前にやって来たのは、沢山のお嫁候補者達。
色とりどりのカラードレスを着ていて、とにかくキレイで目を引く。
俺も他の参加者達も目が釘付けで、お嫁候補者達を凝視していたが、アレンだけは相変わらずの無表情だ。
それなのに、お嫁候補者達の目はアレンに釘付けだったが……。
お嫁候補者達にとって、これは一生に一度の大事なイベントで、お家柄が良い女性にとっては、家の存続だって掛かっているため必死だ。
よりよい男を自分の家に取り込む。
そして家をより大きくしてもらうわけだ。
その際、沢山のお嫁候補者がいるハーレムなら、家同士の繋がりも作れる為、家柄が良い女性ほどお嫁は多い方が良いと考えている。
ただし、そのハーレム内の順位は非常に重要で、熾烈な戦いがこれから始まるらしい。
家柄が良くない俺には未知の世界だ……。
「う〜ん……。」
一応は一般家庭な俺としては未知の世界で……困惑しながらお嫁候補者達を見る。
その中で、多分一番前に進み出ているのが、今のところお嫁候補者として順位が高いもの達のはずだ。
「やっぱ、お嫁ランキング人気ナンバーワンはアンジェ様か……。
後はナンバーツーのレイラ様に、ナンバースリーのナタリー様だな。」
「このトップスリーはこのまま変わらないだろう。
何てったってこの国の中でトップに君臨するお家柄だもんな。」
周りで騒がれる話を聞きながら、改めて他の女性達より前に出ている華やかな女性達を見つめた。
真ん中の一番綺麗な美少女がアンジェ様。
国を支える格式あるお家の長女で、顔よし!スタイルよし!頭良し!と非の打ち所がない人なのだとか。
更に魔力の扱いに長け様々な魔法を使えるそうで、お嫁さんになっても後ろではなく隣で歩いてくれる存在になるはずだ。
金色のサラサラヘアーに、パッチリした目鼻立ち。
控えめな赤のカラードレスが本当に似合う堂々とした立ち姿を見て、こういう人の隣に立てる男の人が羨ましいなと思った。
しかし、アンジェ様の目は……真っ直ぐ誰かさんを見ているのは分かっていたので、視線を下に向ける。
だから気づかなかったのだ。
その注目されている誰かさんが、ずっと誰を見ていたのかを。
「────それでは<嫁取り>、これより開催しまーす!!」
大神官の開会の言葉を合図に、お嫁候補達が一斉に手に持つ花を空に投げる。
色とりどりの花達は空を飾り、これから嫁取りの儀式に参加する者たちの背中を押してくれた。
参加者たちは、そのまま我先にと街の外にある未開拓へ走る。
そこに家を建て、三ヶ月掛けてそこを守りながら生活していかなければならないのだ。
俺はグッと拳を握って、もう見えなくなっている他の参加者達を必死に追いかけていった。
「ここからここは俺の土地だ!」
「なんだと!ここは俺の土地だ!」
ギャーギャーとそこら中で喧嘩をしながらも、皆が日向のいい場所を取っていく中、俺もその戦いに参戦────できるわけもなく、木々に囲まれた日陰のじめっとした端の土地に落ち着く。
「ここでいいんだ、キノコが育ちやすいから。」
毎年日向のいい土地は争奪戦。
それに勝ち抜ける事はできない事を幼き頃から悟った俺が目論んだのは、日陰で行えるきのこの栽培だ。
「まずはキノコを採集しよう!話はそれからだ。」
モンスターに出会ったら『死』な俺は、そのままウロウロと街側に近い場所を探し周り、やっとこさスタンダードキノコを採集した。
「よーし!これを土壌に植えれば、あとは勝手に増えていくから美味しいキノコが……。」
ホクホクと自分の土地に帰ろうとした、その時────。
────ドッ!!!!
正面から凄じい風に襲われ、踏ん張ることもできずにコロコロと転がされてしまう。
「わぁぁぁぁぁー!!な、なんだ??!」
転がった先で、長い雑草にしがみつき目を凝らすと、俺の土地と決めた場所の隣の土地、そこにアレンが剣を握って立っていた。
そして────……周りを囲っていたはずの木々が……全てなくなっていたのだ。
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