7 アレンに逆らうということ

大事な一歩は、地面との派手なキスで終わる。


「うああああああああ────!!!俺の大事な……輝かしい未来への一歩があああ!!!」


「……チリル。早く答えて。一体どこに行こうとしているの?」


惨めったらしく地面に倒れている俺を、まるでどうでもいいと言わんばかりに、アレンは無表情で淡々と言う。

ムッ!とした俺は、すぐに立ち上がり、ジッと俺を見下ろすアレンに怒鳴った。


「お嫁取りに決まってるだろ!!今日からアレンは嫁取り敵だ!」


「────はっ?何言ってんの?チリルはエデンに行くんでしょ?冗談はやめて、早く行きなよ。」


それが当たり前の様に言って来るアレンは、俺を腕を強く掴んで、家に帰そうとして来たが、俺は踏ん張る。

反抗的な態度にムカっ!としたのか、アレンは眉を寄せて怒りの感情を表に出す。


「チリルが嫁取りなんてできるわけないだろう!!我が儘はいい加減にして、大人しく待ってればいい!!────分かった?」


実力が遥か上のアレンに怒鳴られる……それって俺みたいな実力が虫並みくらいの存在にとっては、凄くしんどい事だ。


アレンは強いし頭もいいから全部正しい。

顔も良くてみんながアレンが好きだから、結局どんなに間違った事だってアレンが正しくなってしまう。


チラッと視線を回せば、青ざめている母とレアがドアから顔を覗かせていた。

二人はアレンと俺が幼馴染である事を誇りに思ってて、今、青ざめているのは、俺がアレンに見限られないかを心配している。

こんな凄い人に嫌われたら、俺が村八分にされると思っているから。


それを心配してくれているのが分かっているから、何だかんだでアレンの言うことを聞いて来た。

でも────……。


俺は散歩を拒否するワンちゃんの様にその場に踏ん張り、アレンを睨む。

すると、アレンは目を僅かに見開き、驚いた様子を見せた。


「無理でもいいんだ!俺はやりたいからやる。アレンの言うことはもう聞かないぞ!」


「…………。」


ビシッ!と言い切ってやると、アレンは無表情で何を考えているのかわからなかったが……とりあえず腕を掴んでいる手は緩んだので、すぐに脱出する。

そしてそのまま振り返らずに教会へと走った。



◇◇◇◇

ワイワイ────。


ガヤガヤ……。


嫁取りが開始される開会式は六時。

教会に着くと、もうたくさんの人たちが集まっていた。


「毎年凄い賑わいだけど、今年は過去一番の盛り上がりだな〜。

よーし!俺は頑張る!えいえいおー!」


気合いを入れて、嫁取り参加者が集まる場所へ行くと、その場の全員がギョッと目を見開いて俺を凝視する。

その視線に驚き固まる俺に、かつて一度だけ話しかけてくれた同級生達がキョロキョロしながら駆け寄って来た。


「チリル、お前、見学席はあっちだぜ。さっさと行かねぇと、参加者になっちまうぞ。」


一人が見学者が集まる場所を指差して言うと、もう一人もそうだそうだと賛同する。


「早くいけよ。アレンにめちゃくちゃ怒られるぞ。」


『アレンに怒られる。』

一体こんな格下の俺の何が不満かは分からないが、どうやらアレンは他の参加者達にまで、俺が気に入らないから参加させない!と豪語していた様だ。


いや、格下だからか……。


格下だから目に入るだけで不快。

だから、もう目につくこともない様にエデンに行けって事の様だ。


ガガーン!


凄くショックを受けたが、コレはこれ!それはそれ!

俺はもう気にしない!


「アレンが怒ったって関係ないよ。俺は誰が何と言おうと、嫁取りに参加する。だからこのままでいいんだ。」


「えっ?」


「えぇぇぇぇ……。」


二人は困り顔でオロオロしていたが……突然ギクリッ!として固まった。

そして、それと同時に女性のキャー!!という真っ黄色な声が聞こえて……その正体を知る。


「ア……アレンだ……。」


「……め、めちゃくちゃ怒ってるじゃねぇか。こ、こわぁ〜……。」


二人は真っ青になって震えながら、俺の側から離れ、更に他の参加者達の空気も変わり全員がシャンと背筋を伸ばした。


俺は一瞬だけチラッと女性の声の方を見たけど、完全なる無表情に……死ぬほど機嫌が悪い空気を感じてすぐに目を逸らす。

しかし、参加者の集まる場所にアレンがやって来ると、まるで光に群がる羽虫の様に、次から次へと参加者達が集まっていく。


「アレン!お手柔らかに頼むぞ!せめて俺たちの嫁さん一人でいいから残してくれよ?」


「大体の目星はついているのか?選び放題な奴は本当にいいよな〜。」


チヤホヤ。


チヤホヤ……。


同性でライバルだと言うのに、誰もがアレンを褒めて気を使っていた。

みんなのアレンを見つめる目はキラキラしていて、心から尊敬している事が分かる。


……いいなぁ。


アレンのいる場所が羨ましくて羨ましくて、鼻の奥がツン……としてきた。


「…………。」


バカみたいだ……。


直ぐに比べてしまう自分を叱咤し、無言で鼻を擦り、アレンの方から視線を外す。


自分は自分!

人より優れている所が一個くらいは……。


せっかく浮上しようとしている気持ちも、アレンのキラキラオーラが近くにあると逆に沈んでしまう。

そのため、少しでもそのキラキラ輝く場所から遠ざかるために、会場の端っこへと向かった。

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