2 お嫁取り

この世界は通称女神様の箱庭と呼ばれる世界で、たった一人の美しい女神が創ったとされている世界だ。

ここでは恋愛感情をかってに持つのは最大の禁忌とされていて、男女の婚姻について必ず守らなければならないルールが存在している。


<その1>

お嫁さんを娶る儀式【嫁取り】は、女性は16歳、男性18歳以上で、ある一定の時期に行われる。


この俺<チリル>は、今年18歳になった。

つまり今年からそれに参加できる権利を獲得したということだ。


俺は絶対にお嫁さんをゲットしてみせる!


そう意気込みながら、俺は近くの森へと向かった。


◇◇◇◇

「よ〜し!<豆麦虫>の巣を発見したぞ〜!そ〜……と。そ〜と……!」


灰を被った様な薄汚れたグレー色の髪。

背も体格も平均……よりは少々小さく、顔の全パーツは小さすぎないが大きくない……要は人のイメージに残りにくい平凡顔。

それが俺<チリル>という人間を、視覚的に識別する全てであった。


ちなみに俺の視線の先にいる<豆麦虫>は、親指程度の蟻に似た虫。

背中に豆の様なコブを持っていて、そのコブをプチッ!と取ってすり潰し、水と混ぜて焼けば美味しいお焼きが食べれる。

それ目当てに、俺はバレない様にゆっくりとそいつらの巣へと近づいた。

穴を堀り土の下に巨大コロニーを作っている彼らを捕まえるには、気配を殺して近づき細い糸に好物の葉っぱをつけて、穴から垂らして釣る。


これが一番!……というか、俺はそれしかできない。


そしたら後は、奴らが引っかかるのを待つ。……とにかく、ひたすら待つ!!


「…………。」


ジー……とその時を待ち、そして────。


「────!!き、来たー!」


クイッ!

糸が引っ張られたタイミングで糸を引き、一匹の豆麦虫を釣り上げると……葉っぱに夢中なそいつのコブを直ぐにブチッ!とちぎった。

ちなみにそのコブは、豆麦虫からしたら邪魔なコブらしく、取られても痛くもないし寧ろスッキリするらしくてご機嫌で、そのまま穴に戻っていく。


それを見届けたら、後はその繰り返し。

その日は両手一杯の豆麦虫のコブを持ってホクホクと家に帰った。



「今日はすごく沢山の豆麦虫が取れたんだ!これならお焼きが沢山焼ける〜♬ 」


俺はご機嫌で、家にいた母さんと妹にそれを見せると、二人は俺を見てハァ……と大きなため息をつく。

そして気まずい雰囲気が漂ったが……意を決した様子で妹<レア>が口を開いた。


「お兄ちゃん……。あのね、お兄ちゃんがすごく頑張っているのは分かっているよ?

だけどね……それじゃあお嫁さんは来てくれないと思うんだ……。 やっぱり男の人は狩りができないと……。」


妹の<レア>は、俺に似ずなかなか可愛い顔をしていて、長くサラサラの茶色い髪と、クリッとした目がとても魅力的な女の子で今年15歳。

昔から常に16歳のお嫁取りに向けて、最高の婿候補を色々とチェックしている強者だ。

そんな魅力的な妹にそんな事をハッキリ言われてしまえば、大きなショックを受けて足元がおぼつく。


フラ……。

そのまま倒れ込みそうになったが首を横に振り、しっかり大地に足を踏みしめた。


「かっ、狩りは苦手だけど!俺、畑で野菜栽培なら得意だし、料理だって凄く上手くなったし……絶対お嫁さんを飢えさせたりしないよ!だから俺だって頑張れば……。」


「無理。だってそれ、お嫁さんになる女性でもできるもん。

男は狩り、肉。そして危険なモンスターから守ってくれる強さ。

それがモテる男の条件だから。」


ぎゃぎゃ────ん!!

トドメを刺され、ガタガタと足が生まれたての子牛の様になっていると、今度は母さんまでそれに追加攻撃をしてくる。


「あんた力も弱いし魔力も皆無だからねぇ……。多分去年死んじゃった寝たきりのおじいちゃんの方が強いよ。

無理してモンスターに殺される前に諦めた方が……。」


心底心配!と言わんばかりの言い方に、怒ることもできずに撃沈!!

ヘナヘナ〜……とその場にふさぎ込み声を殺して泣く。

するとレアはポンポンと俺の肩を叩き、慰めてきた。


「まぁまぁ、お兄ちゃんだけじゃないからさ、お嫁さん取れない人。

強い人はお嫁さんを取れるだけ取っていいから、必然的に沢山の男の人が余っちゃうからね。」


「そうよぉ〜。ほら、お母さんの親友の息子ちゃんも、実力がある子だったのに三十歳でやっとお嫁さんを一人取れたのよ。

実力ある男の人でもそうやって何年もお嫁さん取れない事だってあるんだから、実力ない男の人にはチャンスは絶対回ってこないわ。

無理して毎年モンスターに殺されちゃう人もいるし……諦めて<エデンフィールド>に行った方がいいわ〜。」


強い男が最もモテるこの世界では、女性はその魅力あふれる男性のお嫁さんになりたい。

だからここでは一夫多妻が当然の様にあって、それこそお嫁さんを飢えさせず守り抜く実力があれば何人でも取っていいことになってる。

それが<ハーレムクラス>と呼ばれる男一人女多数の一夫多妻大集団で、この世界の女性は、弱い男一人のお嫁さんになるより、強い男のハーレムクラスに入る事をほぼ100%望むのだ。


つまり────俺の様になんの取り柄もない弱い男に取られてくれるお嫁さんは、いないって事!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る