第三章 もう一人の……⑭

3 おわりとはじまり


 なんとうつくしい光景なのだろう、と将軍ネルは先にある景色に見惚れた。

 自陣からわずか数百歩もない場所から先は地割れによって隔たれている。ウィリニア帝国を囲うように亀裂が入り、切断面がむき出しになって断裂されていた。極端な隆起と沈降がそうさせたのだ。帝国内部からは崩れ落ちた要塞からでも、木々が生茂り生命の始まりを思わせるような植物が群生している。

 そして様変わりし、大地の揺れにおさまるころには、こちらへ向かってきていた“剛鱗竜コル・タイハ”たちが森へ帰りはじめ、王国への侵入をすることはなくなっていた。

 あの獣はなにをするために帝国へと侵入しようとしていたのかが疑問に残る。普段は連山奥地に住まうとされている生き物が、どうして帝国まで集団で向かってきたのか。そのせいでこちらにまで被害が及ぶところだったのだ。

 彼らの接近で矢を放つよう合図をしたネルは、いとも簡単にやじりを弾く獣に苦戦を強いられ、危機に瀕していたのだが、どうやらこれで窮地を脱出できたと息をついた。

 帝国兵はというと、一連の戦闘と地割れによって進軍不可の状況、加えて帝国の見た目の変貌に呆気にとられ、困惑していた。

 断崖絶壁の孤立した国となってしまった帝国は、現世から隔絶された別世界のように異様な存在となって、君臨している。不覚にもネルはうつくしいと感想を漏らしてしまったのだが、向こうからしたら絶句ものに違いない。突如と生じた摩訶不思議なあり得ない事態を、ただ呆然と見ているだけなのは誰もがおなじだった。

 どちらにせよ、帝国側の損失は大きい。体制を建て直す必要があるのは確かだ。

 そして王国側も。

 ネル自身、いつまでも呆けているわけにはいかない。今後の動きをどうするかは自分の判断に委ねられている。だが、援軍ないし報告がなければ安心して持ち場を離れられないのが躊躇の原因となってしまっていた。

 しかし———

「おい!見ろ、あれを!」

 部下の一人が背後で歓声を上げだしたので何事かとふり返る。

 エンヴィアとトールイデーンの旗印が良く晴れた空に映えて見えた。待ちに待った同盟軍がようやく援軍を連れてやってきたのだ。

 歓声が軍全体に轟いた。

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