第三章 もう一人の……⑤
天幕に戻る途中セイカとばったり出くわした。彼女は組んでいた腕を解いて眉を下げ、リィーザをじっと見つめている。
「てっきりあたしたちについてくるものだと思ってた。別行動するのか」
「誰かさんがまいた種を摘みに行くだけだよ。セイカも連れて行きたかったけど、女王との約束があるだろうからおいていく。すべてが終わったら、里〈ヒテゥル〉に戻って来てくれれば、わたしは満足だ」
「誰かさんって誰のことだ」
「秘密だよ」
セイカはリィーザの躱しに眉をしかめた。だが、問い詰めても彼は口を割らないだろうから、それ以上の追及はやめた。
「あの王子、謎めいていて弁明すら疑わしい。胸に一物ありそうな態度だし。なのに頼れそうな相手が減るとか困るんだけど」
そっぽを向いてしゃべるセイカは口をとがらせていた。やはり彼女はミロクにすべてを委ねられないと警戒していたらしい。彼女も本能でミロクが王〈メーレ〉だと無自覚でも感じるはずなのだが、どうにもそれが無意識的に不祥へと向かってしまっているようだ。それは彼が親戚だからか、はたまた別の要因なのか、リィーザには知る由もない。
リィーザはセイカの肩を寄せて頭に手をおいてなでた。彼女はすぐさま煩わしそうに手で払い、背を向ける。
その背中をリィーザは愛おしく眺める。今なら、なぜ王同士が直接相まみえてはならないのか、わかる気がする。自分たちは数少ない存在かつ、存在位置が近いのだ。次元がおなじだから、まるで運命の人を見つけたときの燃えるような感情を伴って、こうして自然と惹かれあう。ミロクとは親友のような一致を、セイカとは異性としての熱を。
リィーザは一時の別れをひとしきり惜しんでから、陣を出て暗闇に溶け込んだ。
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