狂気の光

 最初にグラチアの材料になったのは誰なのか。数少ない資料を参考にするならば、ケヒンヤの近くに潜んでいた盗賊だと思われる。


 ルケアの心境にどんな変化があったのかは分からない。しかし悪人を捕らえ、実験に使い、十分に苦しめてグラチアを作ったことは恐らく確かだろう。そしてルケアはこのグラチアを患者に飲ませた。


 効果は劇的だった。グラチアはまさに特効薬と言うに相応しく、どれだけ黒の疫病が進行していようと一週間ほどで完治させた。


 現在のケヒンヤであった地域での発掘調査において、沢山の人骨が掘り出された。しかし放射性年代測定によれば、ある時期を境に埋葬遺体数が極端に少なくなる。患者記録が少ないのでなんともだが、グラチアの恩恵によって死者数が減少した状況証拠はいくつも示されている。


 グラチアの効果は黒の疫病だけにとどまらない。関節痛や内臓の疾患、骨折や切り傷などの外傷、果ては精神状態の安定など。まさに万能薬と言っても差し支えない効果を発揮した。


 ルケアはその成果に満足していたが、問題は生産方法だった。ただ幸運なことに、ここは混沌吹き荒れるガリドーニュ島であり、無法者には事欠かなかった。ルケアは治安維持の名目で”悪人”(中には本当に悪人か疑わしい者もいた)を捕らえてはグラチア生産に使っていたようだ。救貧院に病人を受け入れているとはいえ、その総数も少ないので何とか間に合っていたようだ。


 しかし長くは続かない。あらゆる病気を治す霊薬とそれを生み出す女魔法使いを人々が放って置くはずがないからだ。

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