当て馬系男子、漁夫の利でペロリといただかれました
タルトタタン
プロローグ
「な、な、何だこれは……!?」
ルーク・エヴァンスは目を見開いた。
目の前にいるのは侯爵令嬢セシリア・ヴァレンティーノ。その長い黒髪が揺れ、鋭い瞳が彼を射抜く。案内されるはずだった客室ではなく、どう見ても彼女の寝室。そして——彼女はドアの鍵をかけた。
「いいじゃない。私たち、婚約したんだから」
セシリアは微笑む。冷静でありながら、どこか挑発的な笑み。ゆっくりと距離を詰めながら、静かに言い放つ。
「さっさと既成事実を作りましょう」
「なっ……!? だ、だからって、俺たち昨日知り合ったばかりじゃないか!」
ルークは慌てて後ずさる。が、その声が震えていることに自分でも気づいていた。
侯爵家の令嬢。成績優秀で誰もが一目置く存在——そんな彼女が、突然こんなことを言い出すとは思いもしなかった。
「ずっと見ていたわ、あなたのことを」
セシリアは静かに囁く。その声音には、どこか確信めいた響きがあった。
「叶わない恋の行く末を。だから——観念しなさい」
ルークがさらに距離を取ろうとした瞬間、セシリアが肩に手をかける。
ぐっと力が込められた次の瞬間、ルークの背はベッドに沈んでいた。
「えっ、ちょっ、セシリア!? な、なにを……!」
「静かにして」
彼女は淡々と告げる。
「私が決めたことよ。もう後戻りはできないんだから」
ルークの心臓が高鳴る。セシリアの指がシャツのボタンへと伸びる。その仕草は迷いがなく、恐ろしいほど冷静だった。
「ま、待て……!」
混乱し、抗おうとする。しかし、セシリアの美しい瞳に囚われてしまう。
彼女は微笑んだ。静かで、逃げ場のない微笑み。
「言い訳は無用よ。あなたが私を受け入れたから、こうなったの」
ルークの脳内で警鐘が鳴り響く。どうしてこんなことに……?
伯爵家の次男として、皇太子の幼馴染として、俺は——
皇太子の婚約者に恋をした。報われないと知りながら、それでも想いを告げた。そして、感傷に浸っていたはずだった。
なのに——
どうして今、侯爵令嬢セシリア・ヴァレンティーノに押し倒されているんだ?
彼女に好かれるようなことをした覚えはない。俺たちは、数日前に初めて出会ったはずだ。
そう……あれは——数日前の出来事だった。
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