第23話 青眼の乙女。

 

 ボクは、光希が好きだ。

 昔じゃあない、今の光希。


 お母様に連れられて初めて出会ったのは、お互い子供の頃だった。その頃は、ただの良い子だったけれど。


 出国の挨拶で、久しぶりに光希を見た時、変わったなぁって思った。それで、お母様に無理を言って、日本の学校に通わせてもらえることになった。


 でも、君は花鈴っていう名前すら覚えていなかった。


 ボクには特技があってね。

 人の心の色が見えるんだ。


 君の心はとっても、青くて、深くて。

 何万年もかけてできた氷柱みたい。


 とても、17歳とは思えない。


 だから、ボクは今の光希が好き。

 同年代の子じゃ、物足りない。


 どうしても君のことが欲しくて、魅了の媚薬で、手っ取り早く君を虜にしようとした。


 でも、ダメだった。


 龍涎香、麝香じゃこう、シベット……、材料を集めるのに数年分のお年玉を投入したのに。君には全く効かなかった。


 この余った媚薬、どうしよう……。

 捨てるのもったいないし、ネットで売ったら捕まりそうだし。


 そうだ。これは、光希の中学の参考書の中に、隠蔽の魔法で隠しておこう。まさか、あの歳で中学生の勉強とかしないよね?


 フフッ。ボクってば、天才。



 それにしても、悔しい。ボクの媚薬が効かないなんて。それで、眼を使ってよく見たらね、君は、赤い鎖でがんじがらめだった。


 魔を祓い、神を退けて、君をうつり世に留める鎖。こんな命懸けの大魔術を使わせるなんて。まったく、君ってヤツは、赤い魔女にどれだけ愛されているんだい。


 嫉妬を禁じ得ないよ。


 青は赤に負けないなんて言っちゃったけど。

 君が望んで鎖を受け入れてる限り、その鎖はボクには切れないんだ。


 君の魂をこの世界に安定させる程の強固な愛の呪い。


 でも、赤の力なんて要らない。

 青の魔女の力だけで、君をこの世界に留めてみせる。


 死神だって、ボクが退けてあげる。


 魔女って怖いよ。

 いつの間にやら、青も黒も、赤に巻き込まれてるんだから。


 でもね、でもね。

 色々と理由はつけてみたけれど。


 ほんとは、好きなだけなんだよ。

 君が好きで好きでたまらない。


 毎日一緒にいるのに、ドキドキして苦しいの。


 エッチなことしようとすると、頭痛がするって言ってたでしょ?


 それはね。浮気防止じゃなくて、純潔を強要する愛の呪い。両想いの相手じゃないと呪いが発動するの。


 この前はきっと、君がボクのことを好きじゃなかったから、頭痛になってしまったんだと思う。


 悲しい。


 だから、君がボクのことを愛してくれれば、なんの問題もないんだけど。


 光希はボクを女の子として見てくれない。


 ボク、可愛くないのかなぁ。

 胸が小さいから、魅力が足りないのかな。


 毎晩、抱きしめてくれるのに、光希は何もしてくれない。


 今夜はキスくらいはしてくれるかな?

 今夜は勇気を出してほしいな。


 君が望むなら、本当に最後までしてもいいんだよ。対価なんて望まないから。 


 でも、「まだ身体が未発達だから性行為はダメ」って言って、拒否されるようになっちゃった。オジサンのお説教かよっ!!って思ったけれど、心配してくれるのは嬉しかった。


 もしかしたら、歳の差を気にしているのかな。

 それだったら、何の心配もいらないよ。


 もし君が、向こうの世界の肉体だったとしても、同じように大好きだから。


 しきたりとはいえ、ボクのことを全部は話せないのがもどかしいよ。


 ね。光希は知ってる? 

 従姉妹は結婚できるんだよ?


 あーあ。

 ボクを虜にするなんて。


 呪いたいくらいなのに、君にぎゅーってされるだけで泣いてしまうほど嬉しいんだ。

 

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