第17話 怪鳥退治④

 ククは上流へ向かって一人歩く。

 命からがら長柄杖を用いて流れに抗いつつ下流へ下っていったから、どれくらいの距離を流されたのか判断は困難だが、おそらくそんなに距離は離れていないはずだった。

 深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

 分裂したカラスの姿をした魔物をある程度まで集め、一気に下流へと駆け下りる。退治することなど考えず、ただひたすら逃げ続ければ良い。

 一見単純に見えるが、緊張はある。

 無数のカラスの群れに囲まれないよう、細心の注意をはらって行動してみせる。

「よし、やろう」

 己を鼓舞しつつ、森へ入る。

 肩にはイヒカが視界を共有している、ツバメが一羽乗っていた。

 道を見失わないように気をつけながら、苔むす地面を踏みしめ、足を進める。一音一音森に響く音に集中した。

「————やあッ‼」

 ビュッと背後から風を切る音がして、ククは反射的に長柄杖を振り抜く。鈍く杖にカラスの胴が直撃し、悲鳴の泣き声が耳を横切る。

 その音を合図に、無数の鳥の群れが頭上を旋回する。カラスの姿をした魔物だ。

 肩から光のツバメが飛び立ち、元来た道へ引き返す。どうやら先導してくれるみたいだ。

「ふうっ……!」

 ククは途中で止まって、魔物の相手をしつつ、徐々に誘導していく。ある程度数が集まらせ、原型に戻させないと退治は出来ない。

「うそ⁉」

 ククは滑って川に転ぶ。水が入って思わずむせた。

「うえ……」

 泣き言は言っていられない、振り向くと目前まで影が迫っている。

 光が割って入ってきた。イヒカのツバメだ。

「イヒカッッ‼」

 ククはその場にいない相棒の名前を叫ぶ。相棒の危機に、助太刀に入ったのだ。

 ツバメは影を呑み込むようにして煙のごとく消失する。

 ククは急いで立ち上がり、堆積した大岩をつたって岸から岸へと飛び移る。背後を再び振り返り、カラスがついてきていることを確認し、走り出した。

(あと少し、がんばれクク‼)

 息が切れそうになり、弱気になる自分を励ましながら二人の元へ走る。



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