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――創造、自由、未知への挑戦
ライラホールディングスは『全ての人々に健康と安全』を企業理念とし、常に進化を行ってまいります。
創造は我々を我々たらしめる力です。
創造は我々の世界を広げ、豊かにしていきます。
自由を縛ることがあってはなりません。
自由を縛ることは研究者にとっての死を意味します。
未知への挑戦を諦めません。
未知への挑戦は常に人類を進化させてきました。
世界中の人々だけではなく、世界中の動物を疫病や飢饉から救うために、日々研究に取り組んでいます。
これからもライラホールディングス一同をよろしくお願いいたします。
ホームページに掲載されている企業理念を一通り読み終わる。
「企業理念を忘れるべからず……」
つまりは“創造、自由、未知への挑戦”的なテーマを見つけなければならない。
周りが卒論についての用意や実験を慌ただしくしている中、自分一人だけ何も出来ずにただボーッと日々が過ぎていく。
今までこんな事は無かったが、経験すると意外と焦るものだ。
「“
今日はもうアパートに帰って論文のテーマ探しに明け暮れることにするか、と半ば自暴自棄になっていると。
「おかしいだろ!!」
少し遠くの方から、そんな自分の宙に浮いた気分を吹き飛ばすかの如く、絶叫に近い怒鳴り声が聞こえてきた。
何事かと、咄嗟に声のした方向へ目を向けると、大学近くにあるライラホールディングス傘下の病院にパトカーが数台停まり、結構な騒動となっていた。
騒ぎを聞き付けたら知りたくなるのが人間の
既に集まっていた野次馬の後ろから覗き込むと、警察官に後ろから羽交い締めにされている二人の中年男女が、チラシのような物を持って病院の入口でずっと叫んでいた。
「ここの医者に寝てないのに夢遊病だって診断された娘が失踪したんだよ!!」
「そもそも、あんなに患者が居るのもおかしいと思わないの!?」
「私達の家族を返せ!!!」
鬼気迫る表情で病院内へ叫ぶ男を警察官が押さえ込み、パトカーへ引き摺るが、男も負けじと叫ぶ。
「あんたら警察も、まともに捜査してくれないくせに、俺達の事は捕まえようってか!!」
千明は眼前の騒動を放ったらかしに、脳内でぐるぐると様々なことに思考を巡らせていた。
夢遊病か。
これだ。
これ以外に何がある?
今話題になっているものを卒論のテーマに持ってくるのは堅実と言えるだろう。
「この子よ、
警察官にチラシを見せつける様に広げる女の悲鳴にも近い声で、思考が現実に引き戻される。
「あんた達も、宝生でずっと行方不明者が出てるの知ってるくせに!!」
女の言葉に出てきた一つの単語に、千明は反応する。
「……また宝生」
月嶋から聞いた研究所の話も宝生だった。
こんな短期間で同じ土地に関連した話が出てくるとは。
男女はパトカーに無理矢理乗せられ、チラシが数枚、アスファルトに散らばった。
野次馬の最前列に居た数人がチラシを拾うが、パトカーがそのまま走り去った事でチラシはそのまま地面に放置されてしまう。
群衆に割り込み、拾ってみる。
すると『捜しています』という文章と共に少女の写真がプロフィール付きで掲載されていた。
そのチラシを持ったまま千明は病院に入り、フロアマップを頼りに精神科へ歩みを進める。
受付に居る看護師さんが忙しそうに動いているのを
「先生」
「――!?」
突然扉を開けた千明に驚いている、眼鏡を掛けた、至って普通の医師がそこには座っていた。
「ま、まだ、呼んでいないはずですが」
「違います。俺、患者じゃないです」
首を横に振り患者用の椅子に座ると、医師が化け物でも見るような目でこっちを見るもんだから、乱暴に先程のチラシをデスクへと広げた。
「“夢遊病”についてお聞きしたいんです」
俺は、案外この状況を楽しんでいたりするのかもしれない。
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