第6話 アイテムNo.009
五つの泥団子はそれぞれメロンぐらいの大きさまで膨らむとポコっと手足となる突起が飛び出し泥人形が生まれた。
俺は目の前に並ぶ五体の泥人形に命じた。
「……いいか、お前らはチームで戦う。枝を抑える組と攻撃する組に分かれろ」
泥人形たちは無言のまま、静かに頷くような動きを見せた。
「いけ!」
俺の合図とともに、五体の泥人形がトレントへと駆け出した。
まず四体がトレントによじ登り、動く四本の枝にしがみついた。
泥人形たちは激しく揺れながらも、しっかりとその動きを封じていた。
その隙に、残りの一体がトレント本体へと突撃し、拳を叩き込んだ。
重い打撃音が響く。
「やったか!」
だが、トレントには傷ひとつついていなかった。
あの攻撃を受けて無傷!?——-
そう思った刹那——
トレントが激しく暴れ出した。
「なっ……!」
その光景に俺は息をのんだ。
トレントは本物の木のように地面に埋まっていて、動けないものだと思っていた、
だが違った、根だと思っていた部分は、実は脚だった。
トレントは根を蜘蛛のように動かし、その巨体からは想像つかない速さで動いていた。
その動きでしがみついていた泥人形たちは振り落とされてしまう。
さらに枝が鞭のようにしなり、勢いよく振り回される。
「こいつ、こんなに激しく動く魔物だったのか!」
俺は驚きのあまり声を漏らす。
そして、五体の泥人形は伸縮する枝にまとめて粉砕されてしまった。
「くそっ……!」
俺は歯噛みした。
「カテンさん……どうします……?」
マリルも不安そうにこちらを見ていた。
だが、手応えはあった。
動きを封じて攻撃する。
この戦法に間違いはないはずだ。
ただ俺は知らなかった
トレントの硬さ、力、機動力、その全てが俺の想像を超えていた。
ならば……
こちらも数を増やせばいいだけだ!
俺はアイテム袋の中に視線を移す。
泥団子は、残り十個。
「……これ全部使えば……やつに勝てるはずだ!」
俺は泥団子に魔力を込め、一気に十体の泥人形を作り出した。
そして泥人形たちに命じた。
「四体は枝を抑えろ! 二体で脚の動きを止めてくれ!」
俺の指示に従い、泥人形たちは動き出した。
合計六体がトレントにしがみつき、力任せに抑え込む。
トレントが激しく暴れようとするも、枝と脚を押さえられ、ほとんど身動きがとれなくなった。
よし、ここまでは狙い通り……あとは、あの硬い装甲を破れるか……
俺は意を決して命じた。
「今だ! 残った四体で同時に攻撃しろ!」
四体の泥人形は一斉に飛びかかり、トレントの中心へ拳を叩き込んだ。
「グゴオオオオオ!!」
瞬間——魔物の悲鳴と共に激しい轟音が鳴り響く。
そして、トレントの胴体には、大きな風穴が開いた。
「「やったぁ!」」
俺たちは思わず喜びの声を上げていた。
その巨体はゆっくりと倒れていき、チリとなり消滅した。
「すごい……」
隣でマリルが呆気に取られながらも呟く。
俺は泥人形たちを見つめながら、拳を軽く握る
「……泥人形を十体用意すれば、トレントも倒せるんだな……」
これなら、魔力を温存しながら安全に進める。
スキルを使いすぎて魔力切れになる心配もない。
こんな方法があったとは——俺は、新たな発見に思わず口角が上がる。
目の前には、頼もしく立ち並ぶ泥人形十体。
「……こいつらと一緒なら、まだまだ先に進めそうだな」
俺はマリルへと振り返る。
「よし! この調子で進むぞ!」
「はいっ!」
マリルが元気よく返事をし、俺たちは泥人形と共にダンジョンの奥へと歩を進めた。
◇
「なんだか、さっきから魔物と遭遇するペースが上がってますね」
「そうか?……泥人形に任せてたから、あまり気にしてなかったな」
そう言われて俺は少し考えた……
「確かに……二、三体同時に出てくることが多くなったか……?」
魔物が現れても、泥人形が即座に処理してしまう。
俺たちが動くのは、泥人形では厳しい相手だけだから、増えている実感が湧かない。
俺は泥人形たちを見つめる。
彼らはわちゃわちゃしながら俺たちについてきているが、魔物が現れた途端、即座に戦闘態勢に入る。
なんとも頼もしい奴らだ。
そんなことを考えていると——目の前に、これまでとは比べものにならない数の魔物が現れた。
トレント三体、マンドレイク五体——。
「……さすがに、これは無理か……?」
俺は振り返り、撤退を考える。
しかし——
泥人形たちはすでに戦闘態勢で敵を見据えていた。
「カテンさん! 行きますか!? 私は行けますよ!!」
連戦の興奮からか、少しハイになっているのかマリルもやる気に満ちた表情を浮かべていた。
「……よし、やってみよう!」
俺は口元を引き締め、戦闘態勢に入った。
すかさず泥人形に指示を出した。
「俺たちはトレントを倒す!マンドレイクは半分の泥人形に任せる!残りの半分は俺たちと来い!」
俺の声を合図に、泥人形は行動を開始した。
俺とマリルは残る五体の泥人形を連れてトレントに向かう。
「俺とマリルで一体仕留める、残りのお前たちは攻撃を受けないように残りのトレントの足止めをしてくれ!」
指示に頷き、泥人形たちはトレント二体の脚を押さえ込み、動きを封じた。
「カテンさん、今のうちに!」
俺はすかさずトレントの弱点を見抜く。
マリルがその弱点魔法でトレントに攻撃、同時に俺もトレントに駆け寄る。
魔法が命中しトレントの体が揺らぐ、その瞬間、俺の剣がトレントの中心を貫いた。
「まずは一体!」
マンドレイクに向かわした泥人形を確認するとちょうど殲滅が終了していた。
「よし! このまま、残り二体もいくぞ!」
俺とマリルが一体を相手取る間に、泥人形たちがもう一体へ一斉に飛びかかった。
10体の泥人形が連携してトレントを素早く仕留める。
俺もマリルの魔法で敵の防御が崩れた瞬間を狙い、一閃——。
二体のトレントは同時に崩れ落ちた。
「よし……」
息を整えながら呟くと、マリルが何かを発刊したように言った
「カテンさん、あれって」
彼女の視線の先にあったのは——
「……ボス部屋の扉……!? ってことは……いつのまにか十九階まで来てたのか」
そこには、巨大な扉がそびえ立っていた。
意識せず進み続けた結果、気づけばここまで来てしまっていた。
その時、俺は自分の身体の奥から変化を感じる。
「……レベルが上がったか?」
「おめでとうございます、カテンさん!」
「ははっ……ありがとな」
泥人形を活用すればスムーズに進めること、そして魔力を温存したままここまで来れることがわかった。
「今日のところはここまでにするか」
充分な成果を得た俺は、引き上げることに決めた。
◇
ダンジョンを出る道中——
マンドレイクが一体、俺たちの前に現れた。
「カテンさん、レベルが上がったし、新しく何かわかることが増えてるんじゃないですか?」
「そうだな……ちょっと試してみるか」
俺は【鑑定】を発動し、マンドレイクを調べる。
《マンドレイク》
レベル:3
重 さ:9kg
魔力量:350/350
水をかけ続けると花が咲く。その状態で倒すと『マンドレイクの花』を落とす。
「……なんだこれ?」
今まで見たことのない情報が浮かび上がる。
「マリル、マンドレイクに水をかけてみてくれ」
「えっ? 何かわかったんですか!?」
「ああ、水をかけると特殊なアイテムをドロップするらしいんだ。やってみてくれ」
マリルは驚き、信じられないと言いたげに俺を見た。しかし、すぐに少し不安そうな顔になる。
「……そんなことが? わかりました。でも、攻撃してこないか警戒してくださいね」
「もちろん、何かあれば俺が守る」
俺がそう言うと、マリルは一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに口元がほころんだ。
マリルは両手を広げ、【アイス】と【ファイア】を同時に発動。
手のひらで氷を作り、それを溶かして水に変え、マンドレイクへ放水した。
すると——
マンドレイクの頭部が膨らみ、つぼみが開き花が咲いた。
「本当に咲いた……」
「この状態で……倒すぞ」
俺は短剣を抜き、マンドレイクを一閃。
すると、その場に花がポトリと落ちた。
「……出た……!」
「す、すごい! 本当に出ましたよ!」
俺は手に取って【鑑定】する。
《マンドレイクの花》
乾燥させるとカチカチに硬くなる。足で踏むと痛い。
「……なんか……微妙なアイテムだな」
俺が渋い顔をすると、マリルがクスクスと笑う。
「でも、他の魔物にも試してみる価値はありそうですよね?」
「ああ……確かに」
俺はマンドレイクの花を握りしめ、ニヤリと笑った。
「よし、次は他のやつでも試してみるか!」
——新たな発見に胸を高鳴らせながら、俺たちは次のモンスターを探し始めた。
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