第13話 アイテムNo.005-007
ギルドでの修行を終えた俺は、そのままダンジョンへと向かった。
魔力の照準を絞る感覚は掴めたが、魔物にも通用するのかという不安を抱えながら、俺はダンジョンの中を進んでいた。
「……まずはコイツで試してみるか」
目の前にラットモンスターが現れた。俺は特定の部位を狙うため、まずは前脚を鑑定してみる。
――――――――――
《ラットモンスター 右前脚》
重さ:3kg
――――――――――
「おぉ、魔物にもちゃんと使えた」
修行の時のように、特定の部位を狙って情報を引き出すことができた。
俺は続けて後脚も同様に鑑定する。
――――――――――
《ラットモンスター 右後脚》
重さ:5kg
――――――――――
「よし、うまくいった!」
俺は手応えを感じ、拳を握る。
しかし、ふと考えた。
これを戦闘にどう活かせばいいんだ?
「カテンさん、どうしたんですか? 成功したのに浮かない顔ですね」
隣にいたマリルが俺の様子を見て、心配そうに問いかける。
「いやな、うまく部位ごとに狙えるようになったことは嬉しいんだが……これをどうやって戦闘に活かせばいいかがわからなくてな」
スキルの使い道が分からなければ、ただ情報が増えただけに過ぎない。
「そうですね……ところで、さっきは魔物のどこを鑑定したんですか?」
「前脚と後脚を調べてみた。ちなみに後脚のほうが若干重かった」
「なるほど……ラットモンスターは素早く動きますし、後脚の方が発達しているんですかね?」
発達している部位が重い……?
その言葉を聞いて、俺の脳裏にギルド長を鑑定した時の記憶がよみがえる。
彼女が俺より体重が重かったのは、鍛え抜かれた筋肉がついていたからだ。
じゃあ、部位ごとの重量の違いでどこの筋肉が多いか分かるんじゃないか?
「……なるほど! それだ!」
俺は思わず声を上げた。
「カテンさん、急にどうしたんですか?」
マリルが驚いたように俺を見る。
「魔物がよく使っている部分は他の部位より筋力が多くなって重たくなるだろ? つまり、重たいところはそいつが普段よく使っているってことじゃないか?」
「それが分かれば……敵の得意な動きを予測できるってことですね!」
実際、ラットモンスターが得意とする素早い動きと、後ろ足の重量が重いということは辻褄が合っている。
ならば、アルミラージの場合はどうだ?
あいつらも後ろ足を使い、勢いよく跳ねながら突進してくる。
移動方法は違えど、根本的な原理はラットモンスターと同じはず。
「よし、次はアルミラージで試してみるか」
俺たちはアルミラージを探すため、五階層へと向かった。
◇
しばらく歩いていると、一匹のアルミラージが姿を現した。
「カテンさん、アルミラージです!」
「よし、試してみよう」
俺は新しい力が役に立つかもしれないという期待から、これまで以上に集中して【鑑定】を発動した。
――――――――――
《アルミラージ 右後脚》
筋力:78%
骨密度:22%
――――――――――
「……えっ?」
今までとは違う情報が頭の中に表示された。
「カテンさん、来ます!」
マリルの声で我に返る。
スキルの異変に気を取られ、敵が目の前まで突進してきていることに気づくのが遅れた。
「っ……!」
マリルが咄嗟に魔法を放ち、アルミラージを一瞬怯ませる。
俺はその隙に身を引き、なんとか攻撃を回避した。
戦闘を終え、俺は息を整えながら鑑定結果についてマリルに相談する。
「さっき、やつの後脚にスキルを使ったら、重さじゃなくて筋力と骨密度の情報が分かったんだ……」
「えっ!? そんな細かいことまで……すごいです!」
「でも、もう一度確認しようとして前脚を調べたら、今まで通り重さしか分からなかった」
説明を聞き終えたマリルは少しの間、何かを考え込む。
「カテンさん、もしかして、魔力の放出量が関係してるんじゃないでしょうか?」
「魔力の放出量?」
「はい。カテンさん、さっき魔物と遭遇した時、いつもより集中していたように見えました。どうですか?」
「……そうだったかも」
確かに、さっきは仮説が正しいか確かめたいという気持ちが強く、無意識に集中力が増していた。
「よし、もう一度さっきの感覚を思い出しながら試してみよう」
俺たちは再び魔物を探し始めた。
そしてすぐに、アルミラージが現れた。
俺はさっきの感覚を思い出しながら集中してスキルを発動した。
――――――――――
《アルミラージ 左後脚》
筋力:77%
骨密度:23%
――――――――――
……やった、うまくいった!
俺は確信する。
魔力の放出量を増やすことで、さらに詳細な情報が得られることが判明した。
「これは……すごい」
新たな発見に興奮しつつ、俺はしばしその余韻に浸っていた。
だが——。
目の前のアルミラージは、そんなことお構いなしに跳びかかってきた。
しかし、俺たちは先ほどの戦闘で敵の動きを掴んでいた。
マリルの魔法で隙を作り、俺がすかさず攻撃を叩き込み、一撃で仕留める。
「カテンさん、どうでしたか?」
「……成功だ。これでスキルの精度がさらに上がった」
俺は満足げに頷き、マリルと拳を合わせた。
今の戦いで、魔力の放出量を調整すれば、より詳細な情報を引き出せることがはっきりと分かった。
「カテンさん、すごいです! これで敵の弱点をもっと細かく分析できるようになりますね!」
「ああ、だけど、まだ実戦での応用はこれからだな」
これをどう戦闘に活かすか、それは今後試行錯誤が必要だろう。
その時、ふと目の前に転がる魔石が目に入った。
「……そういえば、魔石を鑑定したことなかったな」
俺は興味本位で魔石にスキルを発動する。
――――――――――
《魔石》
風属性:64%
地属性:26%
光属性 : 10%
――――――――――
「えっ……? 属性?……」
予想外の情報に思わず言葉が漏れる。
「カテンさん、どうしました?」
マリルが俺の様子を見て首を傾げる。
「いや、魔石を鑑定したら、風属性64%、地属性26%、光属性10%って表示されたんだ」
「……え、それってつまり、この魔石は風と地の魔力でできているってことですか?」
「そうかもしれない。もしそうなら——」
俺はある仮説を思いつき、思わず息を呑む。
「もし、魔物の中の魔石の属性が分かるなら、その魔物に効く魔法も予測できるんじゃないか?」
「えっ、それって……!」
マリルが驚き、目を見開く。
「もしそうなら、私も魔物の弱点を突いて戦えるってことですよね!」
彼女は期待に満ちた表情で俺を見つめていた。
「……まあ、まだ確定じゃないがな」
俺はそう言いながら、手のひらの上の魔石を見つめる。
このスキルが本当に魔物の弱点を見極められるものなら、戦い方が根本から変わる。
俺は魔石を軽く握りしめ、心の中で決意を固めた。
その時——
「カテンさん、あれ……!」
マリルが指さした先を見ると、ドロップアイテムの《アルミラージの角》が落ちていた。
「そういえば、俺のレベルが上がってからまだこいつのドロップアイテムを調べてなかったな……」
俺のスキルを使えば、これまで知ることのなかった情報を引き出せるかもしれい。
俺はそんな期待をしながら角を拾い上げ、スキルを発動する。
――――――――――
《アルミラージの角》
熱湯で茹でると表面の硬い皮がめくれる。内部はゼリー状になり、摂取すると魔力が少し回復する。
――――――――――
「……食えるのか」
予想外の情報に俺は思わず呟く。
「カテンさん、どうでした?」
「マリル、角は茹でると中身が食えるらしいぞ」
「……それ本当ですか?……」
「あぁ……しかも魔力も回復するらしいから、お前は今後世話になるかもしれない」
「私……食べたくないです」
ひとまず角を回収し、後で試してみることにした。
さらに探索を続けると、洞窟の壁際に見慣れない植物が生えているのを発見した。
「これは……ツチバナか?」
「ですね。これもまた変な使い方があるんですか?」
俺はすぐにスキルを発動した。
――――――――――
《ツチバナ》
クロガネの溶液に混ぜると疲労感を緩和する。
――――――――――
「……クロガネと?」
俺は以前、クロガネの強化薬を使った後、少しの間だが気絶してしまったことを思い出す。
このツチバナを混ぜれば、その欠点を緩和できるかもしれない。
俺はツチバナを慎重に摘み取り、袋に入れた。
しばらくして、今度は地面に埋もれている鉱石を見つけた。
「これはクロガネ……じゃないな」
「少し質感が違うような……なんだか表面が滑らかというか……」
俺は鑑定を試みた。
――――――――――
《カネガネ》
粉末状にし水に溶かすと粘性を持つ液体になる。
――――――――――
「カネガネか……粘性?」
これも戦闘に使えそうな情報だ、試してみる価値がありそうだ。
俺は慎重にカネガネを採取し、袋にしまう。
こうして、俺たちは新たなアイテムを手に入れた。
アルミラージの角、ツチバナ、カネガネ。
実際に試してみないことにはどれだけのことができるかは不明だが、何かしら戦闘での活用ができるのは間違いないだろう。
俺は新しい発見に満足しつつ、マリルとともにダンジョンの出口へと向かった——。
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