第11話 鍛錬


 俺たちは集めたアイテムを換金するためにギルドへ戻った。



 カウンターに向かうと、ラフィーナが声をかけてきた。



「2人とも、おかえりなさい! ダンジョンはどうでした?」



「おう、いい感じだったぞ」



 そう答えた瞬間、後ろから豪快な声が響く。



「ほう、上手くいったのか? そりゃ聞かせてもらわねぇとな!」



 振り向くと、ギルド長がいた。



 俺はギルド長の姿を見て、相談したいことがあったのを思い出した。



 だが、まずはマリルとの連携がうまくいったことを二人に報告することにした。



「ほぉ、アイテムと魔法を組み合わせて戦ったのか。おもしろいことをやるじゃないか!」



 報告を聞いてギルド長は感心したように頷く。



 俺は続いて以前から悩んでいたことを2人に相談する。



「今言ったように俺たち、アイテムを使って戦ってるんですけど、そのせいでなかなか稼げないんですよ」



 二人の納得した様子を確認してさらに続ける。



「それで今日、マリルと探索して手応えを感じたんで、そろそろもっと深く潜ろうかと思うのですが……」



「いいんじゃないか?」



 深刻に相談した俺とは裏腹に、ギルド長はあっさりと答えた。



 しかし、その言葉にラフィーナは即座に反応した。



「ちょっと待ってください! 二人とも、それはまだ早いです! 昨日組んだばかりですよ? それにカテンさんは、冒険者になったばかりじゃないですか!」



「けど、ラフィーナも気づいてるだろ?」



 ギルド長が鋭く言い放つ。



「カテンはすでに単独で九階層まで降りてるんだぞ。つまり、それなりの実力があるってことだ。それに話を聞く限り、マリルは魔力のコントロールができてる。つまり、『鍛錬』もすでにできている」



 俺は一瞬、『鍛錬』という聞きなれない言葉に首を傾げた。



 マリルも俺と同様に知らない様子だった。



「こいつらなら、もう少し深く潜っても充分やっていけると思うが?」  



 不思議そうにする俺たちには目もくれず、ギルド長はラフィーナを説得する。



 納得できない様子のラフィーナは「でも……!」と呟く。それを見てギルド長は軽く息を吐きながら言った。



「じゃあ、今からこいつらの実力を見せてもらおう。それで判断すればいいんじゃねぇか?」



 ギルド長は続けて、今度は俺の方に向かって口を開く。



「お前のアドバイザーはラフィーナだ。無理に行こうと思えば行けるだろうが、心配かけたままでいいのか? どうしても奥に進みたいなら、まずはこいつを納得させることだな」



「そうですね。心配ばかりかけるのも気が引けますし」



 俺がそう言うと、ラフィーナが真剣な表情で頷く。



「……わかりました。2人の実力を見せてください。私はただ心配なだけなんです」



「それじゃあ屋上に行くぞ」



 一瞬「屋上?」と疑問に思ったが、すぐにそこが打ってつけの場所だと気づき、納得してギルド長の後を追った。


 



 屋上は平坦で広く、余計な障害物もない。周囲には低い柵があり、安全のための囲いがされている。



「さあ、やってみせろ!」



 ギルド長の掛け声で、俺とマリルは実戦さながらの連携を披露した。



 すると——



「……すごい」



 ラフィーナが驚きの声を漏らす。



「2人とも、もう余裕で低階層を卒業できるレベルに達してる……」



 さっきまで反対していたラフィーナは、意外にもあっさりと認めてくれそうな雰囲気だった。



 だが——



「うーん……」



 今度はギルド長が腕を組んで考え込んでいた。



「マリルの魔法はすげぇ。魔力の精密なコントロールができてる。魔術師じゃなかったら、相当の実力者になってたはずだ」



「えっ……ありがとうございます……」



「問題はお前だ、カテン」



「……え?」



「お前、戦闘中、何してる?」



「いや、マリルが作った隙に魔物を倒して……」



「それだよ」



 ギルド長はため息混じりに言う。 



「ただのトドメ役になってるだけじゃねぇか。お前がいなくてもいい戦いになってるんだよ」



 俺は言葉を失う。



「じゃあ、どうすれば……」



 ギルド長が一息置いて真剣な表情で言い放つ。



「『鍛錬』でもやってみるか?」



「さっきから言っているその『鍛錬』って何のことですか?」



 俺の質問にギルド長は一息置いてから説明を始めた——

 


「スキルってのは鍛えることができるんだよ。正確に言うと魔力をコントロールすることで、スキルの精度や威力を上げることが可能になる」




「【剣士】のスキルを例にあげると、あいつらは技を発動する時、魔力を腕や足に集中させて技の威力を上げることができる。マリルの魔法もそうだ。魔力を操ることで自在に形を変化させたってわけだ」



 説明を聞き、『鍛錬』について理解はできたが、新たな疑問が浮かぶ。



「……でも俺のスキルが強くなると、何が変わるんですか?」



「さぁな。私も鑑定スキルを鍛えたなんて話は聞いたことねぇ」



 その返事を聞いて、俺は躊躇ってしまう。



 ——だが、今のままじゃダメだ。俺にしかできないことを見つけるためにも、やるしかない。



「……やります。スキルの鍛錬! ギルド長、俺に魔力のコントロールの仕方を教えてください」



「いや、私はそういうの苦手でな……」



 俺の意気込みに対し、ギルド長はあっさりと肩をすくめた。



「私よりもっと適任な奴がいるだろ」



 そう言って指さした先——そこには、マリルがいた。



「え……私!?」



 マリルは突然の指名に驚く。



「そうだ、さっき見たお前の魔力コントロールは私の想像以上の物だった。お前のその感覚をこいつに教えてやってくれ」



 ギルド長の言葉にマリルは不安な表情を見せたが、何かを決心したのか、表情を明るくさせて口を開く。



「カテンさんは、一人だった私を必要としてくれました。だから、そんなカテンさんの頼みなら、何だって聞きます!」



 そう言い切ったマリルだったがまた少し不安げな表情に戻り言葉を続けた。



「でも、上手く教えられるかわかりませんけど……」



 その様子を見てギルド長は苦笑しながら言葉を継ぐ。



「マリル、私も手伝ってやるから安心しな」



 こうして、俺の修行はギルド長とマリルの指導のもとで始まることになった——。

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