モノロギア~変態は、スキルであって俺じゃない~
こひる
プロローグ的な……
煙が充満した暗い部屋の中でモニターの光が眼鏡のレンズに反射して映る。
現実というものはクソである。なんてことを俺が言っても負け犬の遠吠えにしかならないし、多分明日にでもなればその思考は早計過ぎると思いなおし、現実とやらのいいところの一つでも浮かんでいるのだろう。それが俺という人間だ。そしてそんな自分が好きでもあり嫌いでもある面倒な人類こそが俺だ。
まあその前提も俺に明日が訪れれば、の話ではあるのだが。
なんにせよ今は機嫌が悪い。衝動的にこんなことをしてしまうのだから相当に機嫌が悪いのだろう。というか気分も悪い。
煙が充満した部屋の中で意識が朦朧としてくるのを自覚しつつ最後までこんな思考しかできない自分に嫌気がさす。
せっかくの今際の際なのですべてを知った風にかっこよくまとめようとしているが、実のところこれは決して終わりではなく確かに逃避であるということだ。いやはや、今度こそ成功してほしいものである。
うん、ところで俺は今傍から見れば完全に自殺をしようとしているのだが。いや正確には────もう完了したな。
気が付くと俺は何もない白い空間に立っていた。
「あのサイトの通りだ……」
そう、何も俺は自暴自棄になって己の命を捨てたわけではない。いうなればそう、新天地でやり直そうぜ的なあれなのだ。そのあたりは間違えないでほしい。あの時間、あのタイミングであの方法を使い死ぬことで異世界に飛ぶことができるとサイトに書いてあったのである。
さて、周囲には人影が見えない。果たして俺が飛んでしまった異世界とはこの眩い純白の世界なのだろうかと若干の不安を感じながらとりあえず歩いてみようと思い、一歩踏み出した瞬間に目の前に突然女が現れた。
うん、突然現れたのだ。別に説明を省略したとかではなく俺の目には突然目の前に現れたようにしか見えなかった。その女は濃い青色の王冠をかぶり、周りには砂時計が一つ浮かんでいた。そんな女の美しくも現実離れした雰囲気に見とれていると、不意に女が口を開いた。
「やぁ、初めまして。私は神だよ。」
「………はあ」
神らしい。いや、この場合女神か。
うーん、想定していたのと全然違うな。オカルト的なスピリチュアル的な何かだと思っていたのだが、まさかあれか?俺がよく読んでいたラノベ風のあれなのか?ここまでくると逆に怪しく思えてきたのだが………よもやドッキリなんてことは無いよな?
そんな不安をよそに眼前の女神は話を続ける。ちなみにその話を遮ってまで質問を投げかける勇気は俺にはない。
「いやね?地球で死んでしまった君の魂を私の世界に転生させようと思うのだけれどね?一言教えておいてあげようかなと思ってわざわざ会いに来てあげたんだよ。あぁ、それと異世界での暮らしには不安があるだろうから、転生者には一つだけ特別なスキルを与えるようにしているんだ。サービスってやつだね。」
スキル、スキルというと、まああれだあろう。特殊能力的なあれ。
いやまあ嬉しい誤算というやつだろうか。まさかのなろう的チート風転生らしい。おまけにスキルつきらしい。やったね。
いや、喜ぶのは早計か?昨今は別に能力自体は強くないものもあったような……………いやいや、そもそもなろう風転生とかいう自分の知識に無理やり当てはめてよいものかすら疑問の余地が残るのではあるが。
それはそれとして、まさかの展開に少しばかり高揚したテンションの俺だったのだが、一つ引っかかる部分があった。
「転生者には?ということは俺以外にも転生者がいたりするのですか?」
「今はいないけどいずれ勇者として数人転生させようと思ってるよ。」
衝撃の告白だ………いや、気落ちするのはおかしいか。確かに自分一人の特別感が失われてしまったのは少し惜しいが、問題ない。そしてそれよりも気になるのは、
「数年後に勇者を……?なら俺は勇者じゃないのですか?ならば俺はなぜ転生するのでしょう?」
そう、これである。なぜ勇者と別のタイミングで俺を転生させる必要があったか。これがいまいちよくわからない。
というか、なにか?もしやあのサイトはなろう的な異世界への転生のやり方の記されたサイトだったのか?
そんな質問に対して女神は何やら神々しい魔法?のようなものを起動しながら少し考えるそぶりを見せる。
「理由は、うん。面白そうだから、かな?」
そんな女神の言葉とともに先ほどから操作していた魔法らしき光が大きくなる
そしてその最中俺は自分の今までの行動に違和感を感じていた。俺は死んだ。自殺した。それも異世界に行くために。
────何故そんなことをした?嫌なことがあったから?いやいや、確かにそれはそうだがそれにしてもいきなりだったな。
確かにその手の作品は好きだし、クソみたいな現実を投げ出して異世界にでも行ってゼロからやり直してみたいとは常々思っていたが、それにしたって変なサイトを信じて自殺までするようなバカだったか?俺は。そして、つい先ほどまでそれに一切の疑問を持たなかったのは何故だ?
そこまで考えたところで俺の意識は途切れた。
※
目が、覚めた。立ち上がろうとして自分の体がひどく扱い辛く、何やら小さいものになっているような気がして一瞬取り乱したが、すぐに自分は転生したのだということを思い出す。
しかし転生と言ってもどうやら赤ん坊からではないようで、何とか立ち上がることができた。いや、それともこの世界できちんと赤子として転生はしたが記憶が戻ったのが今だったのか。
どちらにせよ、今の俺は推定三歳前後の幼児だった。
まあ、転生の時の女神の態度に若干引っかかる部分はあったが、しかしこれは心から望んだ新天地でのゼロからの出発in異世界である。であるならば全力で楽しみ、人生をやり直そうではないか。
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