第5話

オレは、息を呑んだ。


…ここに ひとり、透明人間が混ざっていたのだ。


色白で、ふっくらした赤いグロスののった赤いルージュの、長いまつ毛の少女だった。


「こんな感じで、よろしいでしょうか?」

担当美容師さんが、オレに話しかけ、オレはハッとした。

「あ。は、…はい。ええ。」


声が裏返ったオレの後ろに、さっきの少女がくる。

少女は、オレの映ってる鏡で、自分の前髪をつまんで整える。


そして、そのまま、ピンクの大きな花柄の日傘をさして、店の外へ出て行った。


心臓がバクバクいう。


自然と立ち上がったオレは、

「すみません、お金払いますけど、ちょっと待って下さい、すぐ戻ります…!!」


学校のカバンを置いて、走った。



オレは、その少女をもう一度見たかった。


もう会えなかったら どうしよう、


そんな、変な焦りが。


そして、とにかく何も考えずに走った。


大通りに着くと、赤信号で、少女が真っ直ぐ後ろ向きに立っていた。


オレがその子の、腕をつかんだ瞬間、

信号が青になった。


車の列が加速し始めた。


彼女は ゆっくりこちらを向いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る