第32話 国軍総長はいい男
「その話はこれで終わりにして、これからの話をしましょう。誰か、シャルを呼んできてくれないかしら」
俺、ヨヨ、そしてシルビアの三人は役職についての話から離れ、対魔王軍について話し合うことにする。
シルビアは人類軍と魔王軍の今の戦況を何も知らない二人に現状を知ってもらうため、軍の指揮を勤めているアスティーナ国軍総長、シャルルーク・ハサドをこの場に呼ぶのであった。
「シエロ様、ヨヨ様、初めまして。私はシャルルーク・ハサドと申します。皆は私をシャルと呼ぶので、お二人もシャルとお呼びください」
シルビアの寝室に登場したシャルは、丁寧な挨拶で俺とヨヨにお辞儀をする。
正直俺はシャルを見て驚いてしまった。
アスティーナ王国の国軍総長というものだから、もっとガタイゴリゴリの筋肉最強おじが出てくるかと思えば、シャルはその逆と言っていいほど華奢な青年である。
シャルを一言で形容するならイケメン執事というのが一番合ってそう。
黒髪のシュッとした顔立ちで、服装は白いYシャツ、黒ベストに黒い蝶ネクタイ。
戦争がどうとかには、全く縁遠い人に見えるのであった。
「本当にお前が国軍総長なのか?強そうに見えんのだが。大丈夫か? アスティーナは?」
俺が思っていたことをヨヨはストレートに言う。
そんな素直に思ったことを言えるヨヨには関心を覚えるが、シャルは怒ったりしないかな?
失礼なことを言うヨヨ。だがそれに対してシャルもシルビアもくすくすと笑う。
「そうね、見た目すごく弱そうよね。だってシャルの本業って酒場のマスターだもの。カウンターでお酒作ってる方がお似合いよね」
「ヨヨ様のおっしゃる通りだと思いますよ。私も自分で見た目弱そうって思いますね。現に私のような庶民がお三方の前で話をするというのは、私自身考えられないことですので」
シルビアとシャルは、シャルが軍人では無く、酒場のマスターだとはっきりと公言する。
確かにそのイメージなら俺にもできる。
シャルを酒場のカウンターに置いて、銀のシャカシャカを振らせたらしっくりきた。
でもその酒場のマスターであるシャルが国軍総長というのはどういうことなのか?
「なんで酒場のマスターが国軍総長なんてやってんだ?」
ヨヨはまた思ったことを率直にシャルに投げかける。そしてシャルはヨヨの質問に答えてくれるのだ。
シャルはアスティーナで生まれた育ち、普段は酒場を経営をしている。
言うなられば、シャルはただの一般庶民なのだ。
戦闘とは全く無縁であったシャルが国軍総長にまでなったのは、実のところたまたまなのである。
酒場で出す商品の買い出しに行った際に、果物屋と間違えて魔王軍討伐隊募集の列に並んでしまったのだ。
試験を受けることになって、シャルは場違いなところに来たと気づいたが、間違ったと言い出す機会が無かったらしい。
あれやこれやと試験で実力を発揮してしまい、今回の魔王軍討伐隊のアスティーナ国軍総長にまでのしあがってしまったのだという。
「てな感じでなっちゃったんですよね、国軍総長。いやー、本当に私でいいんですかね?」
「あら、そう?私はあなたを選んで正解だったと思ってるわよ。この戦争が終わったら王族直下の護衛軍にスカウトしたいぐらいだわ」
「いやー、ありがたい話なんですけどね。戦うよりお酒作ってるほうが楽でいいですよ、へへへ」
ニヘラ笑いで頭をかくシャル。
なよなよしたシャルが国の要だということにまだ納得行かない俺とヨヨは次の質問をする。
「アスティーナには軍人だって元々いるでしょ? それを差し置いてシャルが総長になるまでの力って、具体的には何です?」
多分だが、俺はこの話の後、魔王討伐軍に入れられて、魔王軍やフミヤ・マチーノと戦うことになると思う。
その戦いの指揮を取るのが弱々しいシャルというのが、はっきり言って不安しかないのだ。
ただでさえ弱い俺が無能な指揮官に当たれば、ゲームオーバーな未来しか見えない。
頼むから有能であることを俺たちに示して欲しい。
俺とヨヨはシャルに対してまだ疑いの念を持つ。
それに気づいたシャルは大事な話をしてなかったと思い出したように言い、自身の話を続けるのであった。
それを話し終えると、今後の俺が勇者としてどうするべきかを四人で話し合うこととなった。
◇◇◇◇◇
俺は明日のことについて考えるため、アスティーナ城のテッペンまで登り、一人で夜空を見上げていた。
俺はこの戦いで空に輝く星々の1つになるのかな、なんてオシャレ気取りしてみたりと、明日のことを考えながらも現実逃避しているのだ。
「魔族領、どんなとこだろう。いつかは行くと思ってたけど……早すぎるよ」
シャルたちとの話し合いで決まったことを少し後悔する。
俺とヨヨは明日、魔族領のすぐそばまで行くことになったのだ。
魔族領の側にある人族の国、『戦闘国家フィーネ』
俺とヨヨはシャルが率いる小隊と一緒にフィーネに行き、魔族領内にある魔王フミヤのいる『深淵の都パーズ』に少数精鋭で攻め入ることになったのだ。
その少数精鋭に俺が入ってるのはおかしいと思ったが、シャルが考えた作戦を聞いたら、もうそれしかないとも思ってしまった。
シャルの作戦は『とにかく魔王と勇者をぶつけたらなんとかなるかもしれない大作戦』という、俺に魔王を全投げするというかなり無責任な作戦であった。
タイトルだけ聞くと即決で断りたくなる作戦だったが、シャルは俺のことをしっかりと考えてこの作戦を提案してくれたのだ。
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