第13話 医療って何?

「しゃあー、あと3体だ!」


 5体目のスライムを倒し終え、最初8体いたスライムは残り3体。

 少しずつ戦いに慣れてきた俺にとって、残る3体のスライムなど造作もない。

 3体のスライムは横並びで石を投げてくるが、同じ方向から一直線に飛んでくる石ころなど、もう怖くない。

 ジャンプで石をかわし、3体並びの真ん中にいるスライム目掛けて距離を詰める。そしてスライムの頭から足元に向かって鍬を振り下ろす。

 スライムは俺の攻撃で一瞬にして粉々に砕け散る。


「これでラストぉぉー!」


 周りに陣取る2体のスライムを横薙ぎで一掃。

 俺は8体のスライム討伐を成し遂げたのだ。


「ヨヨ様ー、やりました!」

「……シエロ」


 8体のスライムを無事に倒し、ヨヨにやったーと喜びを露わにして近づいて行くが、ヨヨは俺からどんどん遠ざかって行く。


「なんで逃げるんですかー?」


 何故逃げる? ここはおめでとうとハグしてきてもおかしくない展開のはずなのだが?

 俺は不思議に思いながらもヨヨを追いかけ続ける。

 するとヨヨから意外な言葉を投げられる。


「こっちくんなよブス」

「ブス?」


 ブスというのは俺のことを言っているのだろうか?

 俺の顔がブスだからヨヨは逃げて行くということだろうか?

 えっ、嘘、俺ってブサイクなの?

 ヨヨの言葉で胸をえぐられる。

 最大の強みになるかもしれない俺の魅力って、同性からブサイクと言われる程度のものだったのかと思うと、辛くて仕方がなかった。

 ショックで落ち込んでるとヨヨは遠くから、自分の顔見てみろーと笑いながら叫んでいた。

 そんな笑うほどなのか?、失礼なヤツだな。

 普通にそれ、いじめレベルの暴言だからな!

 ……まぁ、気になるし、一応見とくか。

 ヨヨに言う通りに、近くの小川で自分の顔を確かめることにする。

 水面は透き通っており、まるで鏡かのように自分の顔をハッキリと写す。


「………」

「どうだ。笑える顔だろー」


 笑える顔だろと言われるが……確かにひどい顔だ。

 アリスがキャラメイクしたシエロ・ギュンターくんの顔がひどいのでは無い。というか今は分からない。

 顔の原型が分からないぐらい、コブったく顔がパンパンに腫れあがっていたのだ。

 おそらくスライムの投げる魔鉱石を受けまくっていたのが原因だろう。


 残り3体になった時は、倒すのがかなり楽勝だったスライム。だが最初に8体相手するのは、とても大変だったのだ。

 8体のスライムが投げてくる大量の石を、俺はヨヨのように、鍬を扇風機の羽根みたく回転させて石を弾いていた。

 でもそんな鍬を素早くグルグル回すなんて芸当を、最初から簡単にできる訳が無い。

 回転させていた鍬の隙間から石がすり抜けて顔面に直撃なんてことも多かったのだ。

 戦う興奮でアドレナリン出まくりだったのか、俺は自分が傷だらけであることに今やっと気づいた。


「初回から8体相手なんて、やっぱ無理ゲーだったんですよ」

「まぁまぁまぁ。でもお前やり遂げたじゃん。すげー弱気だったのに。見直したよ!」

「褒めるなら近くで褒めてくださいよー」


 このままだと次の修行にいけないと思い、俺はヨヨに傷を癒したいと提案する。

 するとヨヨは傷の癒える温泉があると言い出し、まだ遠いところから着いてこいと指示してくるのだ。

 傷の癒える温泉。効能だけ書いてあるパチもん温泉じゃなければいいが。

 またヨヨに逃げられてもメンタルがやられそうなので、ある程度の距離を保って着いて行くことにした。



◇◇◇◇◇



 ヨヨが言っていた温泉に到着し、俺はヨヨと共に湯に浸かっていた。

 その温泉は元の世界でよくある、効能が書いてあるけど効果出てるか分からないみたいな温泉とはまるで違う。

 お湯に浸かるとみるみるうちに顔の腫れは引き、体にできた傷やアザも消えて行くのであった。

 すごいな、この世界の温泉。お湯に浸かるだけでこんなに早く傷が治るなんて。

 ウレールの世界ではこれが当たり前なのだろうか?

 俺は温泉の効果の絶大さをヨヨに熱弁するが、ヨヨはそんな良いものじゃ無いと、俺の意見を一蹴する。

 理由はステータスプレートを見てみれば分かると言われたので、確認してみる。



名前:シエロ・ギュンター

役職:勇者

Lv:3

体力:12

MP:0

攻撃力:8

防御力:4

すばやさ:4

魅力:38

幸運:0

スキルポイント:4

スキル:勇者の加護/ハートの加護/ウレールの加護



「あれ、MPが無い?」


 スライムを倒し終えてから初めてステータスプレートを開くと、Lvが一気に3に上がっていた。

 体力や攻撃力などもLv1の時のシエロより、ちゃんと強くなっていた。

 だがおかしなことにMPだけは元より下がって、というより無くなっていた。

 確かLv1のシエロでもMPは4だったはず。

 なのにLv3になった途端MP0とはどういうことか?

 下がっているMPについてヨヨに追求すると、すぐに答えが返ってくる。


 MPが0なのは温泉に持っていかれたからであり、Lvが上がって減ったわけでは無いんだと。

 温泉に持っていかれるという表現にはかなり恐怖を覚えたが、ヨヨの説明で一応の納得はした。

 今浸かってる温泉は魔鉱石によって出来たもので、MPを消費する代わりに傷を癒してくれるのだという。

 だから実際今のステータスは0/最大MPというのが正しい表記なのだ。

 この世界のステータス表記は曖昧過ぎて困る。


「MPを使ったら傷は治るんですか?」

「治るぞ。というかそれでしか治らん」

「それでしか? えっと、薬とか……あと医者とかは?」

「なんじゃそれは? 魔鉱液と回復術士のことを言っておるのか?」


 確認を取る意味でMPについて聞き返したつもりだったが、返ってきた返答はかなり驚愕の話であった。


 詳しく聞いてみると、この世界には江口軍太がいた世界でいうところの医療という概念が全く無かったのだ。

 あるのは魔鉱石から抽出された魔鉱液を飲んで自分のMPを回復に回すか、ハートの加護のような回復に属したアーツを持つ回復術士に治してもらうかだけ。

 傷を縫合したり、薬を飲んで菌を殺すというようなことをヨヨに言っても全く理解されなかったのだ。


「傷口をヒモで結ぶって、怖いことをするんだな、お前のいた世界は。それに菌とはなんじゃ?魔物か?」


 この発言はヨヨが無知だからというわけでは無いだろう。

 多分だが、ヨヨの考えはウレールの住人を代表して言われている物だと俺は受け止める。

 さっきの体力やスライムの話同様、このウレールという世界は俺のいた世界とは全く違う概念が存在しているのだ。

 回復はMPを消費する。これだけがウレール共通の回復理論なのだろう。

 そのせいか、ヨヨには医療の話が狂言としか考えられないらしい。

 そう、この世界は剣や魔法、そして魔物もいるファンタジー世界だが、科学という理論に基づいたものが全くの皆無なのかもしれない。


「アリスのヤツは帰ってきたら説教してやらないと。アイツ、何の説明も無しに送り出しやがって」


 俺は女神アリスについての悪口を止めどなく口にする。

 それを聞いたヨヨは俺をなだめる。


「シエロよ。アリスというのは女神なんだろ? 役職が守護神なだけの俺とは違って、世界を作ってる本物の神様なんだから。そこまでにしないと、バチが当たるぞ」


 ヨヨは自分を下げるような発言を混ぜながら、女神を罵倒するのは良くないと俺にに言う。

 確かにヨヨの言う通りかもしれない。

 クソな女神だが、命を救ってくれたのは、他でもないアリスだ。

 でも対応がな〜……あれ、そういえば?


 ヨヨの意見に納得しかけていたが、そんなことよりも気になったことがあった。


「そういえばヨヨ様って何者なんですか?」


 ヨヨが村で神様として慕われているというのは、ラック村の人たちから聞いていた。

 皆がヨヨ様ヨヨ様と口にしていたから、なんとなくで俺もヨヨ様と言っていたが、実際はどんな神なのかも知らないまま一緒に行動していたのだ。


「お、ジル達から聞いたらんかったのか?聞いて驚くなよ。俺は『雨の守護神』なんだぞ」


 ヨヨは自分を雨の守護神と宣言し、自分の存在や守護神について話し始めるのだった。

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