第9話
裏庭にいくとはくぎんのかみに金のひとみのすらっとした美しい少女がいました。
背も高くて顔だちもそれはきれいな感じで近寄りがたい雰囲気さえあります。あさぎともえぎは驚きのあまり、かたまってしまいます。二人の男性が自分を見ていることに少女は気づいたようでした。こちらにやってきます。
「……あの。あなた方はどなたですか?」
まゆをひそめて聞いてきました。先に我にかえったのはもえぎです。あわてて返事をしました。
「……あ。わたしはみやこである氷上からきました。名をもえぎと申します。となりにいるのはどうりょうのあさぎです」
「もえぎさんとあさぎさんですか。みやこということは。王様のお使いでいらしたのですか?」
「そうです。もしよければ。名をきいてもいいですか?」
「……わたしは氷花と申します」
「君が氷花さんだったのか。思ったより大人だったから驚きましたよ」
ほがらかに言ったのはあさぎです。さきほどまでかたまっていたのに名がわかった途端、声をかけたのでもえぎはあきれた目で見ています。氷花と名乗った少女もけげんな目で見ていました。
「……あの。あさぎさんでしたか。わたしをいくつだと思っていたのか知りませんけど。思ったよりはないでしょう」
「……す、すまない。氷花さん。あさぎは元からお調子者で。大目に見てもらえませんか」
「はあ。もえぎさんがそうおっしゃるなら大目に見ますけど」
氷花はいぶかしむ表情をやわらげました。もえぎはホッとむねをなでおろします。
「それはそうと。氷花さん。わたしとあさぎはあなたを迎えにこちらまで参りました。もしよければ、一緒にきてはいただけませんか?」
「……いきなりですね。わたしがいやがっていたのはおわかりなんでしょうに」
「そこをなんとかお願いします。このままではへいかはひとり身のままでしょうがいを過ごすことになりかねません。それくらい、へいかはこどくな立場でおられるんです」
もえぎはふかぶかと頭を下げます。氷花はそれでも返事をしません。考えこんでいるようです。
「……わたしいがいにもお妃にふさわしいお方がいらっしゃるでしょう。なのにどうしてわたしにそこまでこだわるんですか?」
「……それは。氷花さんはお日様に会いに行ったとききます。自分がとけてしまうのにもかまわずに。われらはその話を聞いてあなたであればと思ったんです。へいかのお相手にはこどくとじゅうせきを分かちあえる女性がふさわしい。氷花さんにはかしこさとたんりょくがある。しかもしりょぶかさと。わたしはそう思ったからこそここまできたのです」
「そうですか。おことわりしてもこんどはへいかご自身がいらっしゃるでしょうね」
「いらっしゃるかどうかはわかりませんが。あ、氷花さんにお渡ししたいものがあります」
「……なんでしょうか?」
氷花がふしぎそうにたずねます。もえぎはふところからていねいになにかを取り出しました。布に包まれたそれをあけるとヒスイの美しい首かざりでした。あまりの美しさに氷花は見とれてしまいます。
「……これは王家に代々伝わる首かざりです。王がせいひをお迎えになった時におくるとききました。へいかからお預かりしたものになります」
「せいひですって?!」
「ええ。氷花さん。いえ、氷花さま。これをお受け取りいただければ。あなたはその瞬間から王妃こうほになります」
もえぎは一所懸命にうったえます。氷花はおそるおそる首かざりを受け取りました。しゃらとくさりがこすれ合う音がなります。仕方ないと氷花は思いながら首かざりの重みを感じました。これから自分はこの氷の国を背負うのだとばくぜんとした思いを持ったのでした。
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